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<インタビュー>Laura day romanceが初ビルボードライブ公演開催、バンドの転換期を経て新たなフェーズへ「やりたいようにやった先に答えがある」

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 Laura day romanceが6月9日にビルボードライブ大阪、6月15日にビルボードライブ横浜でワンマンライブ【Not withering】を開催する。2023年にメンバーの脱退やマネジメントの変更を経験し、井上花月(ボーカル)、鈴木迅(ギター)、礒本雄太(ドラム)の3人で再スタートを切ったローラズ。1月に発表された『Young life / brighter brighter』と、4月に発表された『透明 / リグレットベイビーズ』という2作のデジタル・シングルは、バンドの転換期に感じた諦念を背景に漂わせながら、それを受け入れることで執着を手放し、心軽やかに前へ進んでいこうとする現在の3人の姿とリンクする珠玉の楽曲たちだ。インディロック好きなら誰しもが愛さずにはいられないローラズの音楽が、初のビルボードライブ公演でどのような進化・深化を遂げるのか、見逃せない一日になるだろう。(Text:金子厚武 / Photo:日吉"JP"純平)

「この体制で長く続けていきたい」っていう気持ちがすごく強くなった

――2023年はメンバーの脱退やマネジメントの変更があり、かなり目まぐるしい1年だったわけですが、1月にシングル『Young life / brighter brighter』が出て、2月の東名阪ツアー【We are who we are】はツアーのタイトル通りに自分たちのことを再確認できたのかなという印象なのですが、実際どう感じていますか?

鈴木迅:去年のメンバー脱退とかを経て、「自分たちを自分たちたらしめているもの」について考えるタイミングが多くなった中で、それをリリースやツアーで確かめながら進んできたのが2024年のここまでだと思うんですけど……その「自分たちを自分たちたらしめているもの」というのは言語化できるものではなくて、「このメンバーでやればLaura day romanceになる」っていう、それが確信に変わってきた感じはあるかな。

井上花月:迅くんが言った通り、私たちがやることが私たちの色になっていくというか、「Laura day romanceらしさ」みたいなものはもはや全く意識してなくて、自分たちのやりたいようにやった先にその答えがあるという感じがしています。楽曲に関しては迅くんがバランスを取りながら作ってくれてるとは思うんですけど、インタビューとかラジオに出る機会が増えてきて、バンドのイメージにとらわれずに、素の部分を見せていくことが多くなったのは私的にはかなり成長かなと思ってますね。

礒本雄太:メンバーとの信頼関係もそうだし、サポートメンバーやスタッフの人たちも含めた関係値がものすごくできあがってきたと思っていて。「現体制で最初のリリース」とか「現体制で最初のツアー」ってなると、それなりの緊張感や使命感があったと思うんですけど、結果的にどちらもすごくいい形で終えることができて、「この体制で長く続けていきたい」っていう気持ちがすごく強くなったんですよね。ツアーは「今の自分たちがどうであるか」をファンの人たちに見せたかったツアーだとは思うんですけど、「これからの自分たちがこうありたい」という姿を見せるツアーでもあったんじゃないかと思います。




――『Young life / brighter brighter』と『透明 / リグレットベイビーズ』は、どちらも2023年に制作した曲なんですよね。Laura day romanceは時期ごとに作曲のモードが変わる印象で、音楽的な興味、バンドの状況、個人的な心情など、いろんな理由によってそのモードが決まっていくと思いますが、2023年はどんなモードだったと言えますか?

鈴木:バンドにとってのクラシックというか、中心点になるような曲を意識した年だったなっていうのは思ってて。安定しない状況が続いていたのもあって、「ここで名刺代わりの1曲みたいなものに挑戦しよう」というのがありました。その結果できた曲たちは実際新たなイメージを担うような、そういう強い曲が多いと思っていて、すごく意味のある期間だったなと思ってますね。


――2022年から2023年にかけてリリースしたEP4部作はバンドの音楽性を広げる方向だったので、そこからの反作用もあって、中心点を意識するようになった?

鈴木:EPのときは極端なことというか、バンドの中でもある意味外れ値的なことをやろうと思ってたんですけど、今年出してる2枚のシングルはそれを経た状態での新たなスタンダードを作ろうみたいな意識がメンバーの中にあったので、それが上手く出てるといいなという感じですね。EPで円自体をでかくした上で、そのでかい円の中心点を作ろうっていうのが、最近のリリースかなという感じはします。

――井上さんは今のバンドのモードをどう感じていますか?

井上:わりとメンバーが仲良しなので(笑)、お互いが今聴いてる音楽でおすすめがあったら教え合ったりとかもして、自然とモードがわかってくるというか。最初の頃の方が「またモードが変わった」みたいな印象が結構あったと思うんですけど、最近は迅くんのやりたい音楽に自然とついていくというか、「私も今その気分でした」みたいなことが多いと思いますね。時代の雰囲気とか、今世間はこういう空気だから逆にこういうものを出したいとか、そういう迅くんの考えと私の考えは結構一致してることが多いので、今回もいいタイミングでこの2曲を出せたなっていう気持ちです。

鈴木:ポップミュージックを作る人間として、時代のムードを把握することは大前提で、それに対してムードを代弁するようなものを出すのか、それともそのムードを打破したいっていう意志をその作品に込めるのかは、その時々の距離感で適切に決めることが大事かなと思っていて。前作のシングルのときは「諦念」がひとつのキーワードだったけど、「Young life」は「Young」という言葉を借りて、それを打破するムードを作ったり、逆に「brighter brighter」はそれと徐々に対峙して、そこを抜けていく感覚だったり。時代のムードに対して、どうアプローチしていくかを曲ごとに考えてる感じはあります。



▲「brighter brighter」Music Video


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現在の自分たちを表している曲

――『透明 / リグレットベイビーズ』に関しては、前作の一歩先という印象があって。今回もある種の諦念だったり、避けられない変化みたいなものは曲の背景にあるんだけど、でも曲調は軽やかだったりもして。バンドとしても一時期の混乱を抜けて、ここからまた前を向いて進んでいくというムードとすごくリンクする2曲だなって。

鈴木:僕が今振り返って思うのは、『Young life / brighter brighter』は何かの出来事に対して、ひとつの体がリアクションをしてるようなイメージなんですよ。でも『透明 / リグレットベイビーズ』は、何か大きな出来事に対してどう思うかというよりも、繰り返される日々とか……「Young life」の最後で〈あぁ また 日々日々〉と歌ってるから、確かに「その先」とも言えるかもしれないけど、今回の2曲は日々のループ感に対する向き合い方、それに対してどうやって人が対峙していくか、みたいなことが共通のテーマになってるかなと思います。



▲「Young life」Music Video


――2023年の目まぐるしい変化に対してのリアクションが『Young life / brighter brighter』で、そこから少し日常感を取り戻した雰囲気が出ているのが『透明 / リグレットベイビーズ』なのかも。実際には同時期に作っていたとしても、リリースの順番がこうなったのは楽曲自体がそういう意味を内包しているからかなって。

礒本:実際その4曲は同じ時期に並んでたような曲なんですけど、でも新しいシングルは「今だから出せた」みたいな感じはあって。今回「透明」と「リグレットベイビーズ」を出しますってなったのは、迅の中で何かブレイクスルーできた部分があるんじゃないかと思ったし、そこでいろいろ考えてみると、その背景にはやっぱりバンドの変化があるのかなと思ったので、このタイミングだから出せた曲なんじゃないかなって印象です。

井上:曲調も「Young life」と「brighter brighter」はわりと緊迫感みたいなものが全体に漂ってて、それは体制が整う前の、完全に迷える感じだった私たちにリンクしてる部分があって。その2曲を出したときは「若さというテーマからこのヒリヒリ感が来てる」みたいなことをインタビューでも話したんですけど、今思うとそのときバンドがまとってた空気感がそのまま出てるなって思う。それに対して「透明」と「リグレットベイビーズ」はかなり余裕が出てきてたというか、淡々と「私たちは今こういう感じでやってますよ」っていう、現在の自分たちを表している曲になってるんじゃないかなと思ってます。

――「透明」の曲作りはどんな着想からスタートしたんですか?

鈴木:僕はタイトルから曲を作り始めることが結構あるんですけど、この曲も「透明」というタイトルと最初のリフの印象だけあって、そこから作っていきました。2ndアルバムのときは、上もの楽器とリズム楽器を聴覚上逆転させる狙いがあって、ベースがギターの上を行ったり、ドラムがリフ的な要素を背負ったり、そういうのをすごく考えていたんです。でも今回上ものは上ものらしく、リズム楽器はリズム楽器らしくみたいな、珍しくそういうアプローチに自然と向かっていって。情報過多にならないようにというか、まっすぐ進んでいく歌詞のストーリーがあったので、それがスムーズに入ってくるように楽器の役割をそのままやらせたら、こういう仕上がりになったという感じですかね。いつもだったら「ここつまんないね」みたいな部分にアレンジで面白みを足していく流れがあったんですけど、今回はメロディー自体が強いというか、メロディーが飽きない感じで進んでいくので、アレンジで面白みを足す必要がなかったんです。

――だからこそバンドにとってのクラシック感、スタンダード感が生まれていると言えそうですね。

礒本:今回リズム楽器はリズム楽器として、いわゆるドラム然としたフレーズなどが結構あるので、レコーディングも曲作りもこれまでに比べてめちゃくちゃシンプルというか、「これでいいのかな?」みたいな部分もあって。今までの楽曲の方がもっと細かい部分にこだわっていて、もちろん今回もこれまでのアレンジを踏襲した部分はあるけど、でもどんどん削ぎ落とすというか、これまでよりシンプルでわかりやすいフレーズにはなっていきましたね。

井上:今回歌詞も結構ストレートというか、いつも通りそこまでわかりやすすぎるわけでもないんですけど、今までより強いパンチラインみたいなのが出てきてたり、共感しやすいワンフレーズが出てきたり、「強い言葉をあえて出してみる」みたいな感じがあったので、そういう言葉を意識しつつ、でも意識しすぎずに歌うということは心がけてました。

――〈僕が透明なうちに 愛し終えて欲しいよ〉は確かにパンチラインだけど、でもそういう部分が前に出すぎないように意識した?

井上:「エモくなりすぎないように」っていうのは常に思ってて、特にサビではあえてめちゃくちゃ淡々と歌う、みたいなことが私の中では絶対になってますね。あと「透明」はキーが高めの曲なのもあって、誰かが「清涼飲料水みたいな声」と言ってくれて、そういう部分を意識することで、歌詞がより際立つのかなと思ったりしました。

――鈴木くんは「歌詞に強い言葉を入れる」ということに対して意識的でしたか?

鈴木:意識的というよりは、自分が持ってるフィルターがいい意味で前ほど効いてないのかもしれない(笑)。前だったら制限をかけてた部分がどんどんナチュラルになってるというか、そこに制限をかける必要がなくなってきて……それは最初に話した「何をやっても自分たちになる」みたいな自信と繋がってる部分だと思いますね。

――「透明」は一番最後のパートがすごく印象的で。ギターと歌だけになって、でもただ弾き語りっぽくなるわけではなく、歌とフレーズにちょっと違和感があることが、曲中の2人の関係性がもつれている感じを表しているようにも聴こえて、音楽と言葉がすごくリンクしてるように感じました。

鈴木:当時キング・クルールにすごく夢中になってて、あの人はすごくダークなコード感というか、ジャズっぽいコード進行をオルタナの文脈でやる人で、そのアプローチを研究してるうちに出てきたラインなんです。ただそれも「ダークにしよう」と思ってたわけではなくて、すごく自然だったんですよね。映画の「卒業」じゃないですけど、ラストにちょっと不穏な印象が出たのはすごくいいなと思ってます。「ポップソングに毒を入れたい」みたいな気持ちも若干あるので、それができたのはいいなと思いますね。

――「リグレットベイビーズ」に関しては「音楽自体のことを曲にした」というコメントもありましたが、〈こんなにも様々な願い フロアはなぜだか 一人でに受け止めて〉という歌詞があったり、一緒に歌えそうなコーラスもあったりして、Laura day romanceのライブを象徴する一曲でもあるように感じました。

鈴木:特別ライブを意識していたわけではないんですけど、途中で話した「クラシックが作りたい」みたいな中で出た曲のひとつなので、自然と親しみやすさだったり、ライブ空間での映え方は意識してたのかもしれないですね。できあがっていく中で、井上が「アンセムっぽい」みたいな話をしてましたけど(笑)。

井上:ライブの終盤の方でやって、みんなで手を振るような雰囲気があるよねって……実際には私たちのライブは誰も手を上げないんですけど(笑)、でもでかい会場だとそういうことが起きるんじゃないかっていうのをちょっと空想しながら話したりはしてました。




――無理に「ユナイトさせよう」みたいなわけではないと思うけど、とはいえこれからイベントやフェスへの出演も多かったり、秋からのツアーはもうちょっと規模感が大きくなったりという中で、無意識でも「ライブで鳴らしたときにどう響くか?」みたいなことは、最近の曲を作るうえで入ってきている部分ではあるのかなって。

鈴木:もともと2023年に作った曲なので、まだそこまでの意識はなかったと思うんですけど、アレンジを詰めたのはもっと最近になってくるので、映えるアレンジというか、初見の人もつかめるようなインパクトだったり……楽曲がそれを必要としなかったら入れないですけど、そういうアレンジと相性のいい曲が自然と出てきたのもあって、そういう曲をリリースしてるような気もしますね。

井上:フェスのことまでは多分考えてないけど、迅くんは自分たちの規模感を加味して曲を作ってるような気がするので、もし私たちが超絶でかくなって、ドームとかでライブをするようになってしまった場合、マジでみんなで手を振って、大合唱するような曲ができるんじゃないかなと思ってます。

鈴木:いや、それはマジでやらん(笑)。

――それも見てみたいですけどね(笑)。「リグレットベイビーズ」は2番のダブっぽい展開も印象的で、広い空間で鳴らしたら気持ちいいだろうなって。

井上:確かに、野外で夜とかにやったら気持ち良さそう。

礒本:いい意味でバンドらしくなったなっていう印象は持ってて。これまでは音源はもっと作品然としてるというか、ドラムとギターとベースと、あと歌もそうなんですけど、全部が横に並んでるような、全部が対等なパズルの1ピースみたいな、そういうイメージでいたんです。でも今回の2曲はさっきの楽器の役割の話の通り、「ドラムはドラムとして」「ギターはギターとして」みたいな感じがバンドっぽい。やってる側としても「ここ今聴かれてるな」とか、そういうフレーズが多くなってきたと思ってて、「リグレットベイビーズ」の2番はまさにそんな感じ。そういう意味で、さっきの「アンセム感」みたいな言葉が当てはまってくるんじゃないかな。

井上:「作品」という額縁の中に入ってたものが、どんどん自分たち側に寄ってきてるというか、生身の音と言葉が私たちから発せられてる感が出てきたのかもしれない。それってバンドの人間関係が構築されてないとできないことだと思うので、だから今すごくいい状態にあるんだなって、今話しててつくづく思いましたね。

――最後に、6月のビルボードライブ公演の話を聞かせてください。礒本さんは何度かライブを観に足を運んでいるそうですね。

礒本:僕は何年か前にエリカ・バドゥを見に行ったときがあって、もちろんサウンドとか楽曲のクオリティもすごかったんですけど、あれほどのアーティストがこの距離感で見れるんだっていうのが驚きで、ライブが終わった後にもフロアに出てきちゃったり、それをすごく覚えてます。あとデヴィッド・T・ウォーカーを見に行ったときのバックが僕の大好きなジェームス・ギャドソンというドラマーで、80代半ばのめちゃくちゃおじいちゃんなんですよ。だからそういう「レジェンドを見に行く場所」みたいなイメージがあったので、今回お話をいただいて、最初は「演奏させてもらってもいいんですか?」ぐらいの印象で。すごく身が引き締まる思いですね。

鈴木:僕はまだ行ったことがなくて、でもやっぱりテーブルがあって、ご飯とかも食べれるとなると全然普段のライブと雰囲気が違うと思うので、今自分の中で「ビルボードライブってこういう感じなんじゃないかな」っていう曲をバンドに下ろしてやってみてもらったりしていて。どういうセトリになるかはまだ決まってないですけど、その場所に合ったことをしたいので、本当に特別なセトリになるような気がします。

井上:私もまだ行ったことがないんですけど、衣装をどうするのかが非常に楽しみですね。あとライブに来てくれるみなさんにお願いしたいのが、何かピンクのものを持ってきてもらいたいと思っていて。ビルボードライブ公演をみんなで特別な一日にしたいので、服装の一部とか持ち物のどこかにピンクをつけてきてくれたら嬉しいですね。そうやって一体感を出すことはこれまでやったことがないので、どうなるかはわからないけど、でも特別な日になることは間違いないと思います。


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