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<インタビュー>Gaho×古家正亨 「K-POPというジャンルに含まれるアーティストになりたい」韓国ドラマOSTを手がけるシンガーが初のジャパン・ツアーにかける想い

インタビューバナー

 作詞作曲からプロデュースまでを行うシンガー・ソングライターとして活躍する一方、韓国ドラマ『梨泰院クラス』『スタートアップ: 夢の扉』『キング・ザ・ランド』といった数々の作品のOSTを手掛けるGahoが、2024年4月に東京/大阪のビルボードライブで自身初となるジャパン・ツアーを開催する。待望の来日公演を前に、ラジオDJ、そして来日アーティストのイベントでMCを務めるなど、音楽ファンにとってもお馴染みの古家正亨との対談インタビューを敢行。以前より親交のある2人だが、韓国大衆文化ジャーナリストの肩書を持つ古家ならではの質問も飛び出し、今回初めて話すようなトピックも多く、貴重なインタビューとなったことは間違いないだろう。今回のジャパン・ツアーの見どころはもちろん、自身の名が世に広まったOSTへの思い、さらにはK-POPが世界的人気を博す昨今の韓国の音楽界に至るまでたっぷりと語ってくれた。(Interview:古家正亨 Translation:Haruka Kadokura)

ドラマOSTへの参加は、自分の声を知ってもらいたいという思いもある

古家:ここ日本では、韓国ドラマ『梨泰院クラス』OSTの「はじまり(Start Over)」を通してよくご存じの方が多いのですが、実はシンガー・ソングライターとして長く活動されていますよね。まずは、Gahoさんの音楽的なルーツを伺いたいと思います。ご自身が音楽に興味を持ったきっかけは何でしたか?

Gaho:音楽は幼いころからとても好きでした。そんな幼少期をしばらく過ごして、高校生の時、今の事務所とは異なりますが、当時同じレーベルだったVILLAINとJung Jin Wooいう友人たちと出会い、一緒に音楽を始めてから、世界が広がっていったような気がします。

古家:音楽を仕事にするということについては、いつから考え始めたんですか?

Gaho:その友人たちと、学校終わりにいつもホンデ(弘大)に行ってライブをし、終わったらその友人の家に行って曲を書き始めて、いつか同じ事務所でアルバムを出すことができたらいいよね、といつも話していました。それが数年後、本当に叶ったんです。友人たちとホンデでライブをしていたら、今の事務所の代表がライブにいらっしゃって、うちの会社からアルバムを出そう、と言ってくれました。なので、最初のデビューはGahoとしてのアルバムではなく、その友人たちとリリースしたオムニバス形式のアルバム『PLANETARIUM CASE#1』でした。

古家:それはいつ頃ですか?

Gaho:アルバムを出したのは、2018年です。2017年頃からアルバムの準備を始めて、事務所と契約しました。

古家:では、2018年にリリースしたデジタル・シングル「Stay Here」がGahoさんのデビュー曲ということになりますか?

Gaho:そうです。私が歌手としてデビューしたのは先ほどお話ししたアルバムですが、Gahoのソロとしては「Stay Here」になりますね。



Gaho - 「Stay Here」


古家:それ以前から、ドラマOSTの作曲家として参加されていましたよね。

Gaho:『あなたが眠っている間に』というドラマで、主演のイ・ジョンソクさんの「僕と」という曲を作曲しました。私は歌手デビュー前から曲を作っていたのですが、その曲の中で一曲が『あなたが眠っている間に』のOSTに収録される栄光なことが起き、思ってもいなかった作曲家デビューを歌手デビューより先にすることになりました。

古家:ドラマのOSTでは、作曲家/歌手として活動されていますが、それぞれ作品ごとに世界観も違いますよね。OSTはどんな部分が難しく、どんな部分が面白いと思いますか?

Gaho:OSTは既にドラマの台本などができた状態に自分が参加する形なので、自分のアイデンティティが100%入り込んでもいけないんです。私の声に合う歌い方で聴かせたいですが、ドラマの世界観に合った感性を引き出さなければいけないので、自分の楽曲はOSTというパズルのひとつのピースだと思って参加しています。オリジナル曲は、どのように歌うかを自分で選択できるのに対し、OSTは通常多くディレクションを受けます。OSTとオリジナル曲、どちらも楽しいのですが、違う方法で歌わなければならないことも多くあるので、OSTはより難しいと感じますね。

古家:OSTの歌詞は、場面に出てくる俳優のセリフみたいな歌詞が多いですよね。

Gaho:そうですね、歌詞を書くのも難しいです。

古家:映像をほとんど見られない状態でレコーディングするケースが多いと聞いたんですが、どんな想像をしてレコーディングするんですか?

Gaho:ありがたいことに、『梨泰院クラス』のOSTでレコーディングに行ったとき、「はじまり(Start Over)」の作曲家の方が、録音に入る前に少しでもドラマのシーンを見せてあげたらどうかと話してくれて、ドラマのあらすじを聞かせてもらったり、編集中のシーンを少し見せてもらったりして、もっと曲に感情移入できるように、色々と助けてくれました。そうやって録音をした曲も多かったので、これまで特別難しいということはなかったですね。



Gaho - 「はじまり(Start Over)」


古家:そういうケースもあるんですね。私は、Gahoさんの曲を聴いた時に、大きく区別してロックとR&Bの2種類の要素があると感じました。ストレートにロックでもなく、R&Bでもなく…その2つがうまく混ざり合っているのが、Gahoさんのスタイルと言えるのでしょうか?

Gaho:私の楽曲をしっかりと聴いて質問してくださって、ありがとうございます! 実は、自分でもロックなのかR&Bなのか混乱することが多くて。VILLAINとJung Jin Wooと一緒に音楽を始めたきっかけは、フランク・オーシャンやクリス・ブラウン、ブライアン・マックナイトのようなR&Bシンガーが共通して好きだったからなんです。まだ歌手を目指していなかった頃はロックが好きで、日本のロックバンドのL'Arc-en-Cielが特に好きでした。ロックとR&Bは違いますが、自分で曲を書いてみると、不思議とその2つが混ざり合って出来上がるんです。なので、自分のスタイルについてはまだ悩んでいるところなんですよ。

古家:ということは“Gaho”というジャンルであると言えますね!

Gaho:そう言ってもらえてとても嬉しいです(笑)。

古家:ロックとR&B、現在はどちらのスタイルがより身近に感じますか?

Gaho:デビュー前はよくR&Bのイメージで歌っていましたが、最初に好きだったロックのスタイルにだんだんと変化していきましたね。『梨泰院クラス』のOSTで私が参加した「はじまり(Start Over)」にはロックの要素が多いと思いますが、初めて参加したOSTはR&Bスタイルの曲でした。

古家:初めて聞く話が多くてとても楽しいです。『梨泰院クラス』に関連する質問が多くて申し訳ないのですが、同作のOSTに参加する前と後で、Gahoさんの音楽活動に大きい影響はありましたか?

Gaho:もちろんです! 私にとってOSTへの参加は、自分の声を知ってもらいたいという思いもあるんです。なぜなら、私が古家さんに初めてお会いしたのも、OSTで参加していたソ・ジソプさん主演のドラマ『私の恋したテリウス〜A Love Mission〜』のイベントだったじゃないですか。そうやってOSTへの参加によって人脈が広がったり、Gahoとして自分の声をより多くの方に届けることができる機会だと考えているからです。中でも、『梨泰院クラス』は特に影響が大きかったと言えます。



Gaho - 「Heart Is Beating」


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ライブの魅力は「飽きさせない」こと

古家:2021年に発売した「Home」は、作曲家/プロデューサーのパク・グンテさんとコラボされていましたよね。実は私、彼の曲をたくさん聴くんです。パク・グンテさんは、特に韓国のR&Bに大きく影響を与えた元祖ヒットメーカーだと思いますが、一緒に仕事することになったきっかけを教えていただけますか?

Gaho:ありがたいことに、パク・グンテさんからいろいろな曲を送ってもらったのですが、その中で「Home」を選び、私は歌唱だけではなく作詞まで参加することができました。

古家:韓国音楽界のレジェンドのような方と一緒に仕事してみていかがでしたか?

Gaho:私にとっては大先輩なのですが、友達のように接してくれましたね。リラックスした雰囲気を作ってくださり、たくさんのことを学びました。



Gaho - 「Home」


古家:私が以前インタビューした時、日本でライブがしたいとおっしゃっていましたが、今回初めてのジャパン・ツアーが開催されます。私も何度も行ったことがあるのですが、会場がビルボードライブだということにも驚きました。

Gaho:私もです(笑)。少し不安もありますが、期待もしているんです。

古家:お客さんをとても近くに感じることができる、ラグジュアリーな空間ですよね。どんなライブをしたいですか? セットリストについても少し教えてください。

Gaho:今回のライブが決まってすぐにリハーサルをしました。経験上、座って食事しているお客さんの前でパフォーマンスをするのは初めてなのですが、ジャズバーに来たような感じで、私の魅力が最大限に伝わるように準備をしています。今まであまり見せてこなかった姿ですが、自信はあります。皆さんが知っているような、カバー曲もやろうと思っていますよ。

古家:セットリストの順番が難しいですね……

Gaho:そうなんです。私が色々やりたくて、今事務所のチームのみんなは頭を悩ませています(笑)。

古家:それは楽しみですね! 今回、Gahoさんのパフォーマンスを見るのは初めてという方も多いのではないかと思います。Gahoさんのステージならではの魅力や、注目ポイントを教えていただけますか?

Gaho:一番の魅力は、「飽きさせない」ことです。今回の会場はお客さんとの距離が近いというのもありますが、様々なジャンルの曲を歌うので、私のボーカルの魅力をお見せできると思います。皆さんで一緒に盛り上がったり、しっとりと聴かせたり……私の色々な姿を見せられるようなパフォーマンスをしたいです。時間が経つのも忘れさせたいですし、それくらい準備しないと……と思っています。

古家:Gahoさんのライブを楽しむために、お客さんが準備した方がいいことはありますか?

Gaho:準備というとちょっと戸惑いますが……(笑)。積極的だとありがたいです。面白いライブにするために、お客さんも私に対して慎重にならなくていいですし、とにかく楽しむつもりで来てほしいなと思います。これまでに出したOSTの曲もいくつか披露するつもりなので、一緒に歌ってくれたら嬉しいですね。

古家:ということは今、日本語も勉強していますか?

Gaho:MCをするために、今回のライブは曲の練習よりも日本語の練習をしてるかもしれません(笑)。今回、日本語の曲も演奏しようと思っているので、私が今できる最善を尽くします。

古家:期待してます! そして、K-POPに関するお話しをさせてください。今、日本だけではなく世界的にK-POPをアイドルの曲のジャンルとして考える人がたくさんいると思っています。個人的に25年ほど前から、ソロやバンドなども含め、実力あるアーティストの魅力を紹介したいと思っていて、ラジオやテレビでの発信のほか、記事も書いたりしてきました。それでも、アイドルの人気は絶大ですよね。日本のK-POPファンに向けて「このような音楽がある」ということを伝える意味で、Gahoさんが日本でライブをするのはとても重要なことだと思いますが、いかがですか。

Gaho:活動形態それぞれに魅力があると思うんですが、韓国にはシンガー・ソングライターもたくさんいます。今回のライブはとても良い機会だと思いますし、開催できることに感謝しています。先ほど、私のようなソロ・シンガーが今回のように日本でライブすることが重要だとおっしゃいましたが、その通りだと思います。今回のライブでどう歌っていくかによって、これからの活動にも影響があるのではないかと考えています。

古家:韓国の曲の一番魅力的な部分はどこだと考えますか?

Gaho:うーん……一番の魅力はバラードだと思います。韓国内ではほとんどの人が真似して歌うことができるし、歴史的にみてヒットした曲も数が多いのもバラードではないでしょうか。叙情的なメロディーに加えて、韓国語の発音などの言語的な特徴がバラードの長所になっていると思いますね。韓国では男性はカラオケに行ったら必ずバラードを歌うんです。泣きながらも歌いますよ(笑)。そういうカラオケ文化もあり、バラードは大きい存在です。

古家:表現が難しいですが、韓国のバラードにだけある“悲しみ”というものがありますからね。

Gaho:悲しみから元気をもらえるというか……韓国にいる友人はみんなそうです。むしろ悲しい時に悲しい曲を聴きながら慰める感じ。私もそうです。

古家:暑い日には特に熱いものを食べたり(笑)。

Gaho:そうですね(笑)。

古家:私もたくさんの人から受ける質問なんですが、韓国音楽界は、海外でもアイドルのイメージが強い印象があります。ですがヒットチャートを見ると、世界で人気があるK-POPと、国内で流行っている楽曲には違いがあるように感じます。ソロ・シンガーは、音楽界でどのような環境で活動していらっしゃるのですか?

Gaho:正直、ソロ・シンガーが海外に出た場合、K-POPアイドルより有利ではないことは確かです。なぜなら、アイドルは海外をターゲットにしているのに対し、ソロ・シンガーはそうではないからです。韓国で人気のあるソロ・シンガーの皆さんも、海外で公演するときも英語で歌うわけじゃないと思いますし。それでも、韓国内でライブをすればいつも完売で、世界的に活躍するアイドルに劣らない人気と、多くの人に受け入れられる魅力があります。海外に進出したら、K-POPが有名な点を恩恵として受け取ることもあります。私はどう見てもソロ・シンガーではありますが、K-POPというジャンルに含まれるアーティストになりたいですね。

古家:日本に進出するときは日本語の歌詞で歌ったり、オリジナル曲を発売したりすると思うのですが、Gahoさんも日本語でオリジナル曲を歌うという考えはありますか?

Gaho:私は家で曲を作ることが多いのですが、このメロディーに日本語の歌詞が付いたらかっこいいなと思うことはありますね。それくらい日本の曲に影響を受けていますが、やはり言語的な問題があります。気持ちはありますが、歌詞も日本語で書くことができるわけでもないので、もっと頑張らないといけないと思っています。

古家:今、韓国にはオーディション番組がたくさんあって、特にアイドルやトロットが中心ですが、Gahoさんのようなソロ・シンガーになりたい人はどうしたらいいですか?

Gaho:昔はソロ・シンガーのオーディション番組もありました。今はそういったアイドルやトロットのオーディション番組に比べてソロ・シンガーのオーディション番組が減っているとは思いますし、私の周辺でも苦労している人も多くいます。ソロ・シンガーはアイドルのオーディションを受けるわけにはいかないし、曖昧な部分がありますよね。私の場合はホンデでの活動がきっかけになりましたが、今は昔よりも皆さんがYouTube見るので、そこに力を入れている人も多い気がします。

古家:昔とスタイルが変わったということですね。

Gaho:そう感じますね。昔はオーディションを受けていましたが、最近は多くないと思います。私が20歳の時でさえ、オーディションを受ける人は少ないと言われていました。なので、最近はもっと減ったのではないでしょうか。私も最近シンガー・ソングライターになろうとしている友人に聞いてみたい質問です。

古家:少し前まで、音盤制作と音盤会社を通して音盤を出すことがデビューだという感じがあったんですが、最近はYouTubeなどのSNSを通して自分の歌を発表することがデビューだという歌手もいますね。昔は、歌手になるということが難しいイメージがありました。

Gaho:そうですね。最近はそういったプラットフォームがよくできているので、誰でもアルバムを出すことができるようになっています。個性と実力を備えた人たちがたくさん出ているので、色々なジャンルの音楽が聴けるようになっていいところもあるし、頑張らなきゃいけないなとも思います。アーティストがとても増えました(笑)。

古家:いろいろと質問してしまいしたが、正直に答えてくださり本当にありがとうございました。

Gaho:普段から考えていることが多くて楽しかったです。

古家:最後に、ビルボードジャパンの読者の方や、今回のライブを楽しみにしている日本のファンにメッセージをお願いします。

Gaho:とても楽しいインタビューを準備してくださりありがとうございました。まずは今回のライブにたくさんの方が来てくださったら嬉しいです。今回ビルボードライブでジャパン・ツアーができるように、これからの活動の中でライブの機会をたくさん作れるように努力をしていますので、楽しみにしていてください!

古家:私も行く予定です。楽しみにしています!