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<インタビュー>歌で誰かの人生を表現する――ホロライブ4期生の天音かなた、1stアルバム『Unknown DIVA』で紡いだ12篇の物語

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Interview:Takuto Ueda

 ホロライブ4期生としてデビューした“天界学園に通う天使”、天音かなたが1stアルバム『Unknown DIVA』をリリースした。

 全12曲入りの本作は、みきとPやsasakure.UKといったボカロ系クリエイターから、藤田淳平(Elements Garden)、やなぎなぎ、つんくまで、ジャンルを超えて豪華制作陣が参加しており、天音かなたの幅広い音楽遍歴が濃縮された一枚となっている。また、楽曲ごとに練り込まれた世界観や物語を豊かな表現力で紡ぐ歌声は、幼い頃からミュージカルに触れ、まるで“役を演じる”ように作品と向き合う彼女ならではの個性も感じさせる。

 2021年8月に投稿された初のオリジナル曲「特者生存ワンダラダー!!」を皮切りに楽曲のリリースを重ねつつ、一人のシンガーとして、そして一人のVTuberとして、周囲からのプレッシャーや自身のコンプレックスを乗り越えながら歩んできた天音かなたの4年間について、そしてアルバムの仕上がりについて、本人にたっぷり語ってもらった。

自己主張の気持ちも大事

――2019年12月にデビューした天音さん。当時、どんな夢やモチベーションを抱いて活動を始めたのでしょう?

天音:デビュー当初はとにかく「がむしゃらに頑張らないと」って気持ちが大きかったです。ホロライブというのは先輩やスタッフさんたち、そして応援してくれるリスナーさんたちの積み重ねの上に成り立っているって意識がすごくあって。デビューしていきなり登録者が数万人いたり、まだ何も活動していないのに応援してもらえているという環境が、4期生がデビューしたときにはすでにあったんですね。なので、自分もお返しをしていきたいという想いが一番のモチベーションだったし、それは今も変わらないです。

――自分も一人のVTuberとしてホロライブに貢献していきたいと。

天音:はい。あと、もう卒業しちゃったんですけど、同期の桐生ココがすごく面白くてバズっていたので、負けないようにっていう焦りもちょっとありました。私は実況とかやったことがなかったし、ゲームに関してもデビューして初めてSwitchを買ったぐらいなので、いろいろ努力しなきゃいけないなって。もともと歌は好きだったので、その先にライブやリリースが実現できたらいいなという野望はありました。

――アーティストとして活躍されている所属タレントも多いホロライブですが、そういった音楽活動へのサポートも期待していた部分だった?

天音:時はまだオリジナル楽曲を出すような所属タレントは少なかったんです。イノナカミュージックに所属していたすいちゃん(星街すいせい)とAZKiちゃんぐらい。なので、もちろん音楽はやってみたいとは思いつつ、まずは配信を頑張ろうと思っていました。

――先ほど話にもありましたが、4期生がデビューした頃、すでにホロライブはVTuberの大手事務所でした。周囲からの期待とプレッシャーは大きかったかと思いますが、天音さんはどんなふうに乗り越えてきたのでしょう?

天音:他人と比較するのってけっこうメンタルがやられると思ったので、あえて周りを意識しないようにしていたんです。そうではなく過去の自分と比べてどこが良くなったか、みたいなことをかなり考えてきたんですね。そうやってちょっとずつ進んできた感覚があります。あとは、リスナーさんがどんなことをしても応援してくれるので、そういう人がいるなら頑張ろうという想いも強かったです。

――そんな3年間を経て、ご自身ではどんなVTuberになったと思いますか?

天音:まず、ちゃんと喋れるようになったことが大きいです。もともと一人喋りはまあまあ得意だったんですけど、コラボみたいに大人数で話すのは苦手だったんですね。「みんなは自分ではなく先輩たちの声が聞きたいよな」みたいな気持ちがすごくあって。でも、あまり卑屈にならず、もうちょっと自分に自信を持ってもいいのかなと思えるようになりました。地道に地道にではあるんですけど、今では喋りすぎと言われるようにもなったり(笑)。ゲームもまだまだ苦手な部分はあるけど、配信は最低限できるぐらいにはなったのかなって。まだまだ一人前とまではいかないけど、ようやく自分の足で立てるようになってきた。そんなふうにVTuberとして成長してこれたのかなと思います。

――逆に言えば、デビュー前は他人と自分を比較したり、周囲に気を遣いすぎてしまうところがあった?

天音:ありましたね。誰かが傷つくなら自分の意見は飲み込むとか、自分が我慢すればいいとか。それでも日常生活は問題なく生きてこれたけど、VTuberには「もっと自分を見て」とか「もっと目立ちたい」みたいな自己主張の気持ちも大事だと思うので、我慢して人に譲るだけじゃダメなんですよね。そういう壁は初めてでした。

――ある意味、VTuberになることでそういう自分を変えたかった?

天音:ホロライブに入ってからは「自分を変えたい」と思うようになりましたけど、そもそもの入ったきっかけは正直、もうちょっと軽めだったというか。デビュー前に病気で片耳が聞こえなくなってしまって、それまで聴いていた音楽が好きじゃなくなってしまって。すごくへこんだし「もうええわ」って感じだったんですけど、そんなときにオーディションが開かれることを知って、「ここで受かれば人生変わったりするのかな」と思って、少しわらにもすがる感じで応募したのがきっかけでした。

――そこから実際に歌との向き合い方も変わっていった?

天音:自分みたいに片耳が聞こえなくなった歌手の方もいるけど、やっぱり歌のレベルが落ちてしまう、みたいなことを聞いたりもしていて。そのときは自分も「だよね」と思ったし、歌はやめようかと思っていた時期が最初の1~2年目の頃はありました。でも、ゆっくりではあるけど、少しずつ覚悟が決まっていって、3年目ぐらいに「今の自分の状態でもっと良くするにはどうすればいいだろう」と考えて、いったん歌の癖を1年ぐらいかけてなくして、もう一度向き合い直す努力をしてきたんです。

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歌で自分以外の誰かの人生を表現する

――2021年8月に初のオリジナル曲「特者生存ワンダラダー!!」を発表。この頃はまだ音楽に対して複雑な気持ちを抱いていた時期でもあったのでしょうか?

天音:そうですね。ちょうど周りのホロライブメンバーたちがオリジナル曲をどんどん出し始めていた時期だったんですけど、自分はなかなか出すことができず、それがけっこう悔しくて。なので「特者生存ワンダラダー!!」を発表したときは本当に嬉しかったです。でも、もっと音楽活動をしていこうという気持ちはまだなくて、たまに曲を出して、みんなとワイワイ盛り上がれたらいいなぐらいの気持ちではありました。




【Original MV】特者生存ワンダラダー!! 【天音かなた/hololive】


――この「特者生存ワンダラダー!!」にはどんな想いを込めましたか?

天音:1曲目のオリジナル曲なので、まずはキャラソンみたいな、自己紹介するような楽曲を作りたいと思いました。そういうリクエストを運営さんを通して、作詞作曲をしてくださった田淵智也さんにはお伝えしていて。配信の切り抜きとかもお渡ししていたんですけど、すごく汲み取っていただけました。

――<ホントはbaby 自信なんかないよ/ホントはbaby 不安ばっかで泣きそうだ>といったラインには天音さんの飾らない本音が込められているように感じます。

天音:実はそこだけ、自分も作詞に携わらせていただいていて。「自分だったらこうだな」と考えて、「こんな歌詞どうですか?」とお伝えしたものをそのまま採用していただきました。

――初めてのオリジナル曲、反響はいかがでしたか?

天音:リスナーさんたちは「なかなかオリジナル曲出ないな」と思っていただろうし、当時デビューして1年半ぐらいだったんですけど、他の子はもうちょっと早く出したりもしていて、ようやく発表できたときは本当に喜んでくれて。あと、田渕さんが書いてくださったというのも「え!」って感じでした。ダメもとで「言うだけ言ってみよう」みたいな感じでお願いしたのが、まさかOKをいただけるとは思っていなかったので、夢があるなと思いましたね。一人じゃ絶対にできないことが、ホロライブなら叶うんだなって。

――この頃は「もっと音楽活動をしていこうという気持ちはまだなかった」とのことですが、どこかでスイッチが切り替わった瞬間があったのでしょうか?

天音:これはけっこう明確にあって。毎年、誕生日や周年記念日に3Dライブをやっていて、ホロメンのゲストをたくさん呼んできたんです。今ではみんなやっていることだけど、当初はけっこう先駆け的な試みで。で、逆にソロでやることが挑戦になったなという感覚があって、2021年12月に完全ソロの3Dライブ『リベンジ』をやったんですよ。今振り返ったら、歌はまだまだ拙いんですけど、演出を頑張ったりもしたことで、ファンからの評判がけっこう良くて、嬉しかったので翌年もソロでやってみたんですよ。

――2022年12月の3周年ライブ『別世界』ですね。

天音:これの評判が本当に良くて。天音かなたのファンからも、ホロライブのファンからも「めちゃめちゃ良かった」とか「一番好きなライブです」と言っていただけたんです。もちろん運営さんにもたくさん助けていただきつつ、ゲストありきではなく、自分の歌と自分の演出で作り上げたソロライブでそういうことを言ってもらえたのが本当に嬉しくて、かなり自信につながったんです。

――挑戦が評価してもらえるのって励みになりますよね。

天音:はい。『リベンジ』でみんなが褒めてくれたソロライブをもっとクオリティアップさせて、自分の歌も見直せるんじゃないか、もっと本気でやれば上を目指せるんじゃないか、みたいなスイッチが入ったので、『別世界』までの1年間はずっと歌の練習をしまくっていました。そこでちゃんと反響をいただいたので、アルバムも含めて音楽活動をもっと本気でやっていこうという自信を持てたのは、その1年間の経験がきっかけになりましたね。

――その3周年ライブ『別世界』にしろ、昨年末の4周年ライブ『輪廻転生』にしろ、しっかりコンセプチュアルな世界観を作り込んだ内容も印象的でした。

天音:自分の音楽ルーツの一つにミュージカルがありまして。母が大好きで、幼い頃からよく連れて行ってくれていたし、家の中でもミュージカルの音源が流れていたんです。なので、歌で自分以外の誰かの人生を表現する、というイメージはけっこう強くて、特に『別世界』ではそういうアプローチを試してみました。「少女レイ」から「あの夏が飽和する。」あたりですね。ホロライブのリスナーさんは、わりと明るめな曲のほうが好きなイメージがあったけど、意外と評判が良くて、ちゃんとバックボーンやテーマがしっかりしていれば伝わるんだということに気づいて。それで『輪廻転生』は丸ごともっとコンセプト寄りにしてみたんです。

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自分のいろんな面を見せられるアルバムに

――では、アルバムについて聞かせてください。制作モードに入ったのはいつ頃でしょう?

天音:アルバムの新曲に関しては、もともとシングルとしてリリースしようと思っていたけど、なかなかできていなかったり、けっこう前から準備していたものが多くて。でも、本当にスイッチが入ったのは去年の9月頃。シングルでリリースした楽曲もすべて新録したのでレコーディングも忙しかったんですけど、初回生産のアナザージャケットやロゴのデザイン依頼とか、自分で全部やっていたので、その時期はアルバムを作っている感がすごくありましたね。9月から12月までは異常に忙しかったです。

――楽曲自体はいろんな時期に作られたものが収録されているので、特定のテーマやコンセプトを設けたわけではないかと思いますが、アルバムの全体像はどんなふうにイメージしていましたか?

天音:自分の好きな音楽のタイプはけっこう幅広くて、キャラソンっぽい曲もロックな曲も好きだし、僕は命系って呼んでいるんですけど、そういうことがテーマのちょっと暗めな楽曲も大好きで、どれもやりたいって想いがとても強くあったので、天音かなたとしての軸は持ちつつ、いろんな歌い方ができるような、自分のいろんな面を見せられるアルバムにしたいと思っていました。

――軸というと?

天音:自分が今までの人生でたくさん聴いてきた楽曲のコンポーザーさんたちにお願いをする、というのが一つでした。自分にとって宝物みたいなアルバムになったらいいなと思っていたし、自己紹介っぽい意味も込めて。

――天音さんの音楽リスナーとしての変遷にも触れることができますね。音楽に関する一番古い記憶って思い出せますか?

天音:物心ついたときからずっと歌ったり踊ったりしていたと思います。あと、これもずっと変わらないんですけど、実はお芝居をすることも大好きで。引っ込み思案なので小学校の発表会ではあまり表に出ないモブ役を選ぶタイプではあるんですけど、たまたま主役をやらせてもらう機会があって、そのときに「お芝居ってめちゃめちゃ楽しいな」と思った記憶がすごく残っているんですよね。VTuberとして普段の活動ではお芝居をすることってあまりないですけど、楽曲を作るときは歌詞にちゃんと意味を持たせて、それを歌で演じるということはやりたいなと思っていました。

――楽曲ごとに異なる主人公がいるというか。この曲ではこういうことを言っているけど、別の曲では真逆のことを言っている、みたいなこともありうるわけですよね。

天音:全然ありだと思っていますね。自分の考えや人生について作詞してみる機会もあったけど、「なんて引き出しが少ないんだ」って感じでした。例えば、世の中で一番共感される曲って恋の曲だと思うんですけど、正直、恋愛に興味ないまま生きてきたので、自分の経験則だけだと10曲でも書いたらもう出てこないだろうなと思っていて。なので、少女漫画を読み漁ったりして誰かに感情移入したり、お芝居的に別の誰かの人生になりきってみたり、そういったもので補おうとしましたね。

――ちなみに、今回のアルバムで少女漫画の勉強が生きた楽曲はありますか?

天音:まだ自分では書いてないんですけど、歌でそれを意識したのは「返信願望」でした。好きな人からの返事を待つ感じとか、ちょっとチャンスがある雰囲気だったのに違ったみたいな悔しさとか、最初はピンとこなくて。「これはまずい」と思って少女漫画を読み漁ってから挑んだ楽曲なので、あれがなかったらもうちょっとさっぱりした歌になっていたかもしれないです。

――「返信願望」はみきとPさん提供。どんなリクエストを出していたんですか?

天音:みきとPさんの「ヨンジュウナナ」という曲が大好きで、その想いをとにかく文字にして全部伝えて作っていただきました。あと、ちょうどこの時期、僕が百合にはまっていて、みきとPさんの楽曲にも「少女レイ」とか「夕立のりぼん」とか、MVでそういう描写の背徳感でドキドキするような曲もあったので、最初は男の子と女の子の恋愛っぽい歌詞だったんですけど、どちらともとれるようにしてほしいとだけリクエストさせていただきました。




みきとP『 ヨンジュウナナ 』MV


――レコーディングではどんなところに気をつけて歌いましたか?

天音:男性目線だったら男性の気持ち、女性目線だったら女性の気持ちになって歌うんですけど、この曲はそれが完全になくて、ただ好きって気持ちが真っすぐ向いているような感じで歌いました。すごく新鮮だったし、より純粋な気持ちになるなって。あとは、けっこう恋に未来がなさそうな雰囲気ではあるので、とにかく切なさを出そうと意識しましたね。自分は根暗なので、例えばホロライブの全体楽曲みたいな明るくて可愛いアイドル曲は、大袈裟ではなく6回ぐらいリテイクするんですけど、こういうタイプの曲は得意だなって思いました。

――とはいえ、アルバムには本当に多彩な楽曲が収められていて、歌声のアプローチもそれぞれです。

天音:いろんな楽曲をそれぞれに沿って歌えるいうのは、自分の中では強みではあると思いつつ、ちょっと弱いところでもあるのかなって。器用貧乏じゃないですけど、かなたが歌うことに意味があるという側面も欲しいよなと思うんです。そこは1年間ずっと練習してきた部分でもあって。今となっては常にある謎の切ない感じとかはけっこう個性になっているのかなと思っています。

――とりわけ自分の歌声の個性がフィットしているなと思う曲を選ぶとしたら?

天音:それこそ「返信願望」かな。あと、「START UP」はアニメソングのような疾走感のあるロックな感じの曲なんですけど、これも意外と良かったかなって。

――ある意味、真逆のタイプですよね。まさしくいろんな楽曲に寄り添える歌声を持っている。

天音:本当に真逆ですね。これはやっぱりミュージカルがルーツで、歌詞に沿って自分を変えていくという意識が根本にあるからだと思います。他のアーティストさんの曲をカバーさせていただくときも、作った方のインタビューを読んだりして、その楽曲はどういうことを表現したかったのか、どういう感覚で作ったのかを調べてから歌うんです。

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皆さんが思う天使のイメージは全然違う

――「START UP」は藤田淳平(Elements Garden)さん作編曲、作詞は天音さん自身で手掛けています。これは詞が先ですか?

天音:いや、これは曲が先です。ただ、書きたい歌詞の内容はほぼ決まっていましたね。周りに「それは無理だよ」と言われたり、馬鹿にされて笑われたりすることって、誰でも経験したことあると思うんですけど、それに対して言い返せる人ってなかなかいないと思うんですよ。でも、きっとみんな、そのモヤモヤは忘れられないだろうなって。どれだけ時間が経っても見返したり、否定を跳ねのける力がみんなにはあるんだよ、ということを書きたいと思って、藤田さんにもそれを伝えさせていただきました。




【Elements Garden】START UP - 天音かなた【Original Anime MV】


――歌詞を書くとき、楽曲から言葉が引き出されていく感覚もありましたか?

天音:そうですね。強い意志をすごく感じたというか。迷いながらなんとかたどり着いたというより、本当はずっとこう思っていたけど言えなかったとか、本当はずっとこうしたかったとか、そういう芯の強さを楽曲から感じたので、そのあたりは歌詞でもちゃんと出していこうと思って、毎日うなりながら書いていきました。

――「片羽」は天音さん、Toby Foxさん、かめりあさんの共同作詞。どんなふうに作業を進めていきましたか?

天音:最初にTobyさんから楽曲のデモをいただいたとき、「なんとなくこういうイメージで作りました」というのを聞いていて、それがけっこうストーリーのある内容だったんです。僕はTobyさんが携わっていた『UNDERTALE』にとても感銘を受けていたので、絶対的に信頼があったというか、絶対にそのストーリーを生かしたいと思ったんですね。なので、わりとすぐに歌詞はできたんですけど、たまたま同時期にTobyさんが英語で歌詞も作ってくださっていたみたいで、僕の歌詞とTobyさんの歌詞を、英語が読める編曲のかめりあさんがいいとこ取りしてまとめてくださいました。

――アルバムのリリースを発表した4周年ライブでは、「ハッピーピープル」「おらくる」「Knock it out!」の3曲をパフォーマンスされていました。この3曲を選んだ理由は?

天音:この3曲は初見でノレるというか。アルバムの中でも曲調が特に明るい3曲だったので選びました。

――「おらくる」はアルバムのオープニングを飾る一曲目。これについては?

天音:この曲の歌詞は、天使が自分にとって都合のいい言葉を語りかけてくるような内容になっていて。普通、そういうのって幻だったり、実は裏があったりするのが定番だと思うんですけど、楽曲提供してくださったじんさんは「その天使は心からその言葉を語っている」という設定があるというふうにおっしゃっていたんです。心から「君はすごいよ」「君が愛おしいよ」と言っているんだけど、どこか嘘っぽく聞こえるというか、逆に嫌味っぽいというか。その噛み合わない雰囲気がとても気に入ったし、自分にもそういうところがあるなと思うんですよね。本当のことを話しているのに、話し方のせいで嘘っぽく聞こえるみたいな。でも、「本当なんだよな、なかなか伝わらないな」と思ったり。それがすごく自分っぽくていいなと思ったので、一番最初のトラックにしました。

――サウンドも相まってちょっと不気味な感じがありますよね。

天音:そうですね。優しくて可愛い感じなのに、ちょっと怖い。その感じは歌でも出したかったのでレコーディングでも意識しました。メロディーが心地いいので何も考えずに聴けるんですけど、よく聴いてみると「あれ?」って感じがお気に入りです。

――「おらくる」と「天使のagape」はどこか繋がっている感じがします。

天音:そうですね。「天使のagape」はもっと包み込む感じというか、何でも受け入れてくれる天使で。クリエイターの皆さんには「天使とか、かなた自身のことは関係なく作っていただいて大丈夫です」とはお伝えしていたんですけど、やっぱりそのイメージは強いんだなと思ったし、それと同時に皆さんが思う天使のイメージは全然違うんだなと思いましたね。




【Original anime MV】天使のagape【天音かなた/hololive】


――そして2曲目「Knock it out!」は、Adoさんの「唱」なども手掛けたタッグ、GigaさんとTeddyLoidによる提供。

天音:本当にGigaさん、TeddyLoidさんの楽曲が好きで、楽しく盛り上がる感じで作ってほしいというイメージがもとからありました。ただ、最初は自分で作詞することになっていて、実は書いていた歌詞が一つあったんですよ。ちょっと攻撃的な女の子のストーリーになっていて、表面的には周りと仲良くしていても、SNSでは虎視眈々と「あの子より数字を伸ばしてやる」とか思っている。でも、それってけっこうみんな思っていることなんじゃないかなって感じで書いた歌詞を、TeddyLoidさんが綺麗にしてくださった感じです。




【Giga & TeddyLoid】Knock it out! - 天音かなた【Original MV】


――曲調はキャッチーなんだけど、実はダークな世界観も色濃く持ち合わせている。冒頭の3曲はそんな印象を受けます。3曲目の「ハッピーピープル」については、どんなふうに作り上げていきましたか?

天音:てにをはさんには「とにかく自由に書いてほしい」とお伝えしていて。そしたら、アルバムのリードトラックとかシングルカットされるような曲ではない、ちょっとマイナーっぽい曲でもいいかとおっしゃっていて、ぜひって感じで作っていただきましたね。でも、めちゃめちゃキャッチーで、耳に残る中毒性もあって「最高だ…」って感じでした。そういう曲に明るさに対して、歌詞のちょっと狂っている感じも素敵で。歌に関しては悩んだんですけど、あまり歌詞の意味を考えていないような感じで、とにかく楽しそうに歌いました。

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かなたを知ってもらうきっかけとして

――そんな冒頭3曲を経て、アルバムはどんどんディープな世界観に。「中空の庭」はやなぎなぎさん作詞、bermei.inazawaさん作編曲の幻想的なバラードです。

天音:曲をいただいたときは本当に感動しました。やなぎなぎさんは世界で一番好きな歌手と言っても過言じゃないぐらい大ファンで、透明感があって幻想的なのに、本当にそんな場所があるような、そんな錯覚を起こすような楽曲を作られているイメージがあったので、そんな曲をぜひお願いしたいなと思って。シングルカットしたときはウィスパーっぽい感じで歌っていたんですけど、“Unknown DIVA.ver”ではミュージカルっぽさを解き放った歌い方にしてみました。

――やなぎなぎさんのキャリア初期の楽曲を彷彿とさせる世界観ですよね。

天音:そうですね。僕も同人音楽をされていた頃から大好きなので、まさにそんな感じの歌詞を書いていただけて嬉しかったです。最初、ちょっと泣きそうでした。実は仮歌をなぎさんが歌ってくださっていて、もはや「これを出してほしい」って感じでした。このお二人のタッグだと「時間は窓の向こう側」という曲がすごく良くて、それも作っていただくときにお伝えしていました。




【やなぎなぎ】「時間は窓の向こう側」 PV


――続く「救済のÉnde」はsasakure.UKさん提供。エレクトロニカ、ポストロックといったクリエイターの音楽的エッセンスが共通する点で、「中空の庭」からの流れも良いですね。この曲はどんなテーマのもと制作されましたか?

天音:sasakureさんの『幻実アイソーポス』というアルバムを一時期、本当に死ぬほど繰り返し聴いていたんです。sasakureさんってすごく元気で明るい曲から、ちょっとおぞましいというか、聴いていて不安になったり、不思議な感覚になるような曲まで、いろんな色があると思っていて。中でもちょっと廃虚感というか、世界が終わっていく感じ、終末世界みたいなものを描いた曲が特に好きだったので、僕もそういう曲を歌いたかったんですよね。あと、sasakureさんがやっている有形ランペイジの「世界五分前仮説」という楽曲があるんですけど、めちゃめちゃ変拍子が入っていて、意味が分からないベースがビリビリって入ってくるような曲で、そういった楽曲にもしたいというのは最初にお伝えしていました。初めに曲を聴いたときは「もう最高すぎる、とにかく早く歌いたい」と思ったし、デモをいただいたあとに一番聴いたのも「救済のÉnde」だったと思います。移動中とか、ほとんど趣味でずっと聴いてました。




有形ランペイジ (UKRampage) - 世界五分前仮説 (The 5 minute hypothesis)


――本当に天音さんの音楽的な趣味嗜好をフル稼働させたアルバムですよね。象徴的なのが「純粋心」。作詞作曲はつんくさんです。天音さんはハロプロの大ファンであることを公言していますよね。まずは楽曲提供の経緯をうかがってもいいですか?

天音:3年前ぐらいにつんくさんの楽曲をVTuberさんが歌う企画があって、それを見て「え、VTuberとコラボしてくれるんだ」と思って、ダメもとでお願いしてみようと思ったんです。最初は大物すぎて、運営さんも「うーん」って雰囲気だったんですけど、「いや、でも、VTuberとコラボしてますよ」ってゴリ押ししたら、まさかのOKをいただいたって感じで。正直、初めは信じられなかったんですよ。僕は直接やり取りしていないし、「本当につんくさんが書いてくれるのかな」と思っていたんでけど、デモを聴いて「あ、つんくさんだ」ってなりましたね。

――言ってみるものですよね。

天音:そうなんですよ。たぶん深い意味はないと思うんですけど、つんくさんをSNSでフォローしたら、向こうもフォローしてくださって。それで鼻の穴が膨らんだというのもあります。

――楽曲に関してはどんなイメージを伝えていましたか?

天音:モーニング娘。さんの「愛の軍団」という楽曲がめちゃめちゃ好きで。ダブステップ要素が入った曲で、かっこいいんだけど可愛くてお洒落な感じがすごく耳に残るんです。まずはその曲をイメージとして挙げさせていただきました。

――歌詞については?

天音:一人の女の子が誰かに敵意を向けられたとき、それを歌詞で返してやるわ、みたいなテーマはどうかと話したときに、それって結局、同じことをやり返している、敵意に対して敵意を返しているだけじゃないかという話になって。自分がされたら嫌だってことは覚えているのに、自分が相手を踏みつけていることには気づかない。それを自覚したときに「私って最低だ…」ってなる、少女の悩める気持ちみたいなことを歌詞にしていただきました。本当につんくさんの歌詞だなって思います。なんで思春期の女の子の気持ちがこんなに分かるんだろうって。




【つんく】純粋心 - 天音かなた【Original CG MV/テレビ東京系「ゴッドタン」2月度エンディングテーマ】


――あらためて今、一枚のアルバムとしてどんな手応えを感じていますか?

天音:まずは1枚目、かなたを知ってもらうきっかけとして、いろんな楽曲が入ったアルバムになっているので、どれか一曲は気に入ってもらえるものがあるんじゃないかなと思います。そういう意味でもやっぱり自己紹介的なアルバムになったなと思いますね。

――次作の展望はすでに見えている?

天音:そうですね。もし次にアルバムを出すなら、今度はコンセプトをしっかり作ってみたり、もっと作曲をしてみたいなって想いもあります。あと、自分は暗い曲が好きだけど、ファンのみんなは「特者生存ワンダラダー!!」みたいな明るい曲も求めてくれているので、そういう曲も増やせたらなって思います。今回は制作期間が数年に及んでいるので、次はもうちょっと短期集中で、コンセプトに沿ったアルバムにしてもいいなと思いますね。

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