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<インタビュー>ア・グレイト・ビッグ・ワールドのイアンが9年ぶりに来日、すべてが魔法のように重なった『屋根裏のラジャー』主題歌を語る



インタビューバナー

Interview & Text:Mariko Ikitake
Photo:Yuma Totsuka

  『メアリと魔女の花』のスタジオポノックが贈る最新作『屋根裏のラジャー』が全国で公開スタートした。数々のスタジオジブリ作品を手がけた百瀬義行監督と、スタジオポノックの代表で、高畑勲監督と作り上げた『かぐや姫の物語』が【アカデミー賞】候補にもあがった西村義明プロデューサーが今作で描くのは、誰にも見えない者たちが住む想像の世界。少女アマンダの想像の友だち〈イマジナリ〉であるラジャーが、人間に忘れられると消えてしまうイマジナリの運命に立ち向かいながら、アマンダに再び会うために奮闘する。

 この超大作の主題歌「ナッシングズ・インポッシブル」を歌うのが、ア・グレイト・ビッグ・ワールドとレイチェル・プラッテンだ。クリスティーナ・アギレラと共演した「セイ・サムシング」が米ビルボードで最高4位を記録し、2015年の【グラミー賞】で<最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞>を受賞したア・グレイト・ビッグ・ワールドは、「ファイト・ソング」(2015)が各国の主要音楽チャートで上位を記録したレイチェルとともに、信じることの大切さを切なくも力強いボーカルを通して表現。映画公開を前に来日したア・グレイト・ビッグ・ワールドのイアン・アクセルに、驚きの主題歌抜擢から完成までの経緯、父親として、シンガーとして世界に伝えたいことを聞いた。

「この映画は人生そのもの」

――久しぶりの日本はどうですか?


イアン・アクセル:また日本に来られて本当にうれしく思っています。9年ぶりの来日で、前回は【SUMMER SONIC】やイベントでパフォーマンスをしたり、ファンと交流の時間を持ったりして、すごくいい思い出があったので、あのときから早くまた日本に行きたいなって思ってました。今回はひとりで来日しましたが、チャド(・キング、もう一人のメンバー)から皆さんによろしくと伝言をもらっています。

――『屋根裏のラジャー』についてもお話を聞きたいと思っています。この映画を観た感想を聞かせてください。


イアン:非常にパワフルな映画で、何度も泣きました。2人の子どもの父親なので、映画から受けた衝撃は結構強くて、子どもが生まれる前だったら全然違う印象を受けていたと思います。情景が美しく描かれていて、エモーショナルでもあり、パワフルでもあり、自分の人生の中からいなくなってしまった人や遠くに住んでいる人たちとのつながりは永遠に自分の心に残り続けること、時空を超えて自分とともにいるんだっていうことをすごく感じました。息子にも、今、僕がこうやって日本にいる間、心は君のそばにいるって伝えています。この作品は、子供向けというより、大人も観る、大人にも訴える映画ですよね。6歳の息子には少々インパクトが強いシーンがあるので、もうちょっと大きくなったら見せようと思います(笑)。恐怖や悲しみ、魔法のような輝きもあって……この映画は人生そのものだと思いました。

▲スタジオポノック最新作 映画『屋根裏のラジャー』【12月15日公開】

――主題歌のオファーがあった2021年はパンデミック真っただ中で、世界も閉鎖的な時期でしたよね。そんな環境でもあったので、子供にも大人にも信じることの可能性や希望を伝えるこの曲は、小さなお子さんを持つイアン、そしてレイチェルにとっても、大きな意味があったんじゃないでしょうか?


イアン:誰もがあの時期はすごく不安だったし、特に(住んでいる)ニューヨークは最初に打撃を受けた都市でもあったので、息子にこの状況を怖がらせないようにするには、どう伝えればいいのか非常に悩みました。コロナ中に書いた曲だからこそ、パワフルで意味を持つ曲になりましたし、そのなかで完成したものを皆さんとシェアできることが、僕にとってもとても大きな意味を持ちます。子どもがいることで、仕事にも僕の選択にも、今まで以上の価値が与えられるというか、彼らがいるからこそ、より大切に扱うし、自分たちも何を選んでいくかをすごく考える機会になっています。子どもができてからは、何をやるにも、いろいろ選ぶようになりましたから。

――西村プロデューサーから直接オファーがあったそうですが、オファーが来たとき、どういうふうに思いましたか?


イアン:彼から手紙をもらったときはすごく驚きました。美しい詩のような手紙をいただいて、すごく心が動かされたんです。僕の声の繊細な部分、もろいところに惹かれたと書かれていて、そこにピンときました。自分の歌声にもろさが出るよう心がけているからです。僕は20歳、21歳ぐらいまで歌ったことがなくて、自分の声の不完全なところをコンプレックスに思っていました。でも、歌うことを始めてから、人間がつながりを持つ瞬間はもろさ、弱さがあるときだということに気づきまして、その意味でも自分の声が担う部分があると思って、少しずつそれに頼るようになりました。同じようなことをレイチェルの声にも感じたのではないかと思います。

――レイチェルとは10年以上前にお会いしていたそうですが、当時のことを覚えていますか?


イアン:よくニューヨークやボストンで一緒にプレイしたことがありました。彼女が音楽活動を始めた時期と同じ頃に僕たちも音楽を始めたんです。他の街でも小さなクラブとかで一緒に演奏をしたことがあったので、連絡を取り合う仲になり、ずっと交流を続けていました。レイチェルとのデュエットは(西村)義明のアイデアで、彼が彼女の名前を出したとき、「レイチェルなら知っているから、電話で聞いてみるよ!」って、早速彼女に電話したんです。

――レイチェルはここ最近、家族を優先して、音楽活動を一時期ストップしていたようで、親である点や西村プロデューサーが声に惹きつけられた部分など、お二人には共通する部分が多くありますね。


イアン:はい。僕は偶然を信じないタイプで、出来事の全てには意味があると思っています。だから、ここにも魔法があるんじゃないかと思っています。レイチェルとは声の部分でもキャリアの部分でも、生き方にも通ずるものがあるし、このタイミングでこうやって一緒に仕事することになって、何もかも完璧にフィットした感覚です。

――レイチェルからは歌い方や表現について、なにか要望はあったんでしょうか?


イアン:レイチェルが参加する前にすでにチャドと曲を書き終えていて、ハーモニーの部分を考えていたところでレイチェルにオファーしたんです。レイチェルはロサンゼルスに住んでいて、各パートをどうしていくかをFaceTimeで話しながら決めていったんですけど、そんなにコミュニケーションを取らなくても理解してくれましたし、僕ら抜きのボーカル部分を送ってくれたんですけど、それが本当に素晴らしいものでした。お互いの音楽スタイルをわかっている間柄ですし、僕たちを信用してくれて、あまり難しいことを考えなくとも、うまくいきました。


音楽は多くの人たちをつなげてくれる

――西村プロデューサーからレイチェルを提案されたようですが、そのアイデアがなかったら、イアンの声だけ、もしくはチャドとイアンのデュエットになっていたのでしょうか?


イアン:僕はデュエットを書くのが好きで、義明からの提案がなくても、デュエットになっていた可能性は高いです。ラジャーは、もう一人の主人公であるアマンダのバディでもあるので、映画ともリンクしますよね。「この歌手の声がこの曲に合いそう」「あの声を入れたらどうかな?」っていうような会話は何度かありました。いろいろなアイデアが出ていたときに彼からレイチェルの名前が出て、なんで彼女のことを思い付かなかったんだろうと自分でも不思議に思ったんですけど、同時にベストなアイデアだと直感しました。

――もともとはドラムスが入っていたそうですが、映画が壮大だったからこそ、エンドロールで観客にこの曲とこの曲に込められた意味をしっかりと聞かせる意味では、ドラムのないバージョンも最適だと思いました。


イアン:もっとアコースティックなバージョンにしてほしいというアイデアがスタジオポノックからあがったんです。僕たちはドラムありのバージョンをメインに考えていましたが、ドラムレスのほうがエモーショナルに、いろんな人たちの心に訴えることができると判断しまして、抜いて正解でしたね。サウンドトラックにはドラムが入ってるバージョンが収録されているとのことで、アナログ盤とCDを日本で実際に手にしたときに、それを確認できてうれしかったです。

――ちょうど10年前の今頃、「セイ・サムシング」が注目を集めはじめ、それから世界をまわるようになりましたよね。子どもができてから自分たちが何を選んでいくかを選ぶようになったそうですが、父親として、シンガーとして、何を優先すべきか悩んだことはありますか?


イアン:プライベートな部分とパンデミックが重なったこともあり、僕の場合は必然的にペースダウンしていったので、父親業とアーティスト活動を並行してできた気がします。でも、来年はツアーとか、ショーをもっと本格化していきたいと思っていますし、父親になって変わったことは、もっと気を付けるようになった、なんでもすぐ「イエス」と言わないようになったぐらいで、全てをまるごと変えたとは思っていません。父親である以上、家族を軸に仕事を考えることは当然です。家族とそこまで長い時間、離れないようにしようと僕は考えているんですけど、子供たちに父親が好きな仕事をしている姿を見せることも重要なことだと思いますし、妻は「座ってないで、もっとショーをしようよ! あなたには伝える役目があるじゃない」って背中を押してくれるんです。今回の来日で9日間、家族と離れることになり、寂しくてつらいのは確かなのですが、6歳の息子は理解してくれています。1歳の娘はどうして僕がいなくなってしまうのかわからないため、家を離れるときは大変でした。

――西村プロデューサーは、この作品を通して、大人たちが次の世代に何を残せるかを伝えたいとおっしゃっていました。イアンはこの曲と今後の活動で何を伝えていきたいと思っていますか?


イアン:音楽を作ることは、僕にとってすごくスピリチュアルな作業であって、音楽は多くの人たちをつなげてくれる究極の役割を持っていると考えています。私たちは決してひとりではないということも感じさせてくれますし、実際、誰もひとりぼっちではありません。10年以上、音楽を作ってきて、僕はそう学びました。どんな違いがあっても、私たち人間はつながっていて、同じ人間であることは変わらないし、一緒なんだということを心に訴えていきたいです。

(アニメーション) ルチッラ・ガレアッツィ ア・グレイト・ビッグ・ワールド featuring レイチェル・プラッテン「屋根裏のラジャー オリジナル・サウンドトラック」

屋根裏のラジャー オリジナル・サウンドトラック

2023/12/06 RELEASE
UICE-1217 ¥ 3,300(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.イマジナリのテーマ~ようこそ!イマジナリの世界へ
  2. 02.憂鬱な気分を吹っ飛ばせ
  3. 03.伝説のクリスマスツリー
  4. 04.雪男襲来
  5. 05.ぼくが見えるの?
  6. 06.バンティングのテーマ
  7. 07.ラジャーの絶望
  8. 08.家が欲しいな
  9. 09.エミリのテーマ(出会い)
  10. 10.家が欲しいな (インストゥルメンタル)
  11. 11.ようこそ!イマジナリの世界へ(ヴェネチア)
  12. 12.ヴェネチアの宴
  13. 13.私を泣かせてください
  14. 14.エミリのテーマ(初仕事)
  15. 15.ツァラトゥストラはかく語りき (導入部)
  16. 16.イマジナリのテーマ(夕暮れ)
  17. 17.バンティングのテーマ(再会)
  18. 18.ナッシングズ・インポッシブル(屋根裏部屋)
  19. 19.エスケーピング
  20. 20.バンティングからは逃げられない(廃墟)
  21. 21.エミリの消失~ラジャーの絶望
  22. 22.イマジナリ賛歌(決意)
  23. 23.ぼくはアマンダの元へ!
  24. 24.バンティングからは逃げられない~ようこそ!イマジナリの世界へ~黒髪少女
  25. 25.ナッシングズ・インポッシブル (ストリングス)
  26. 26.イマジナリ賛歌
  27. 27.ナッシングズ・インポッシブル
  28. 28.ナッシングズ・インポッシブル (ウィズ・ドラムス)

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