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<わたしたちと音楽 Vol.2>ermhoi 「音楽を通してできることがあると気がついた」

インタビューバナー

 米ビルボードが2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。2022年はオリヴィア・ロドリゴが、過去にはビヨンセやマドンナなど錚々たるメンバーが受賞した名誉ある賞だ。Billboard JAPANでは、これまでニュースでアメリカの受賞者を発信してきたが、今年はついに、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足。女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』がスタートした。

 今回のゲストは、トラックメーカーでシンガーのermhoi。幼少期から音楽に慣れ親しんで来たという彼女は、ジャンルに囚われない独自の世界観を持つ作品を発表し続けている。2018年には小林うてなやJulia Shortreedと共にBlack Boboiを結成。自身と同じくソロ・アーティストとして活動する女性たちとの連帯などを経て、彼女が感じてきたことを聞いた。 (Interview & Text:Rio Hirai(SOW SWEET PUBLISHING) / Photo:Kae Homma)

何をかっこいいと思うか、価値観は常に変化している

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――幼少期から音楽が好きでミュージシャンになったそうですが、これまでロールモデルになるような「憧れの女性」はいましたか?

ermhoi:これまであまり“憧れの女性像”を意識したことはなかったのですが、好きになるキャラクターは映画『レオン』のマチルダや『アメリ』のアメリなど、自立心のある強くて個性的な女性が多かった気がします。でもそんな彼女たちをロールモデルとしてきたわけではなく、単純に「かっこいいな」と感じていました。それが最近、音楽家の石橋英子さんと同じ現場で過ごす機会が重なり、初めて「憧れの女性が見つかった!」という気持ちを抱いたんです。誰に対しても「女性として」という視点で考えたことはないけれど、石橋さんは作品も素晴らしく、人とのコミュニケーションの取り方がかっこいいと思う人です。


――女性アーティストの音楽を通して、エンパワーメントされることはありますか。

ermhoi:単純に、作品に惹かれる女性アーティストはたくさんいます。ジョニ・ミッチェルは、昔からずっと好きですね。最近はリド・ピミエンタというコロンビア出身のアーティストにも注目しています。作品やパフォーマンスも魅力的で、クィアであることや自分自身のルーツについて、また政治の問題に関しても発信していてハッとさせられます。


――何を「かっこいい」と思うかの価値観は、年々変化しているのでしょうか。

ermhoi:価値観って毎秒変わっているんじゃないかと思うくらい、長い間貫くのは難しいですよね。特に私は常に思考がグルグルしてしまうタイプで、“モットー”があるわけでもない。その都度、「いいな」と思うものを選択してきたように思います。


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「よそ者」である自分に慣れていて、気が付いていなかったこと

――ミュージシャンとして、“女性であること”が活動に何か影響を及ぼしている点はありますか?

ermhoi:そもそも私がやっている音楽そのものが、近いことをやっている人が少ないカテゴリーで、さらにジャンルをクロスオーバーして活動しているので、性差以上にいつも“よそ者であること”を意識させられてきました。だから、自分自身が“女性であること”を意識する機会はそこまでなかったかもしれません。ただあるとき、「宅録女子」とカテゴライズされて、そのときには「宅録はあくまで表現のためのツールであって、“宅録女子”として活動しているわけじゃないのにな」と、違和感がありましたね。わかりやすくするためか、男性中心のジャンルのなかでマイノリティの女性が見つかると「○○女子」と揶揄する時期がありましたが、あまり居心地の良いものではありませんでした。あとは「女性シンガーソングライター」とカテゴライズされた人の苦労もよく耳に入ってきます。ファンの男性から“上から目線”で批評され、求めていないアドバイスを投げかけられるという“マンスプレイニング”が頻発しているようです。


――ダンス・ミュージックの現場、例えばクラブや音楽フェスティバルなどでも、セクハラなどが問題になりましたね。

ermhoi:私もリスナーとしてイベントに参加したときに不自由さを感じることはあります。出会いを求めてクラブに来る人の動機は否定しないけれど、自分は音楽を聞きたくてその場にいるのに、必要以上に声をかけてくる人がいたりして……私は本来そんなにアクティブに外出するタイプではないので、頑張って出かけて嫌な思いをすると「来なきゃ良かった」と思ってしまいます。また自分自身はそういった幸い経験はないのですが、性被害の話も聞きますし、音楽を享受する機会が不平等になるのはとても残念ですよね。一方で、最近はそういった問題が明るみになり、「セーフティなパーティを作ろう」という主催者や出演者の意気込みを感じる機会も増えました。出演者の男女比も平等にする動きもあるので、良い方向に向かっていると期待したいですね。


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迷いながら、音楽を通してできることを少しずつ見つけている

――ermhoiさん自身も、カテゴライズされにくい音楽家の場作りのために、2018年にBlack Boboiを結成されています。このプロジェクトはどういった経緯でスタートしたのでしょうか。

ermhoi:私自身、男性が多い現場に女性一人という環境に慣れてしまっていたのですが、小林うてなやJulia Shortreedと出会って色々な話をするようになり、「自分らしくいられていないときがあるんじゃないか」と気がつきました。周りに女性差別的な人がいたわけではないけれど、やはりマイノリティにはなりますから、価値観の違いを感じたり、ホモソーシャル的なノリに居心地の悪さを感じることもあったんですね。そういう気持ちをわかちあえるメンバーとコミュニティを作りたい、応援し合いたいと思って、Black Boboiをスタートしました。

日本では、何か問題が起きた時に女性が主張をすると「ヒステリックなフェミニストだ」と評されて封じ込められてしまう傾向があると感じます。だからか女性同士では問題を共有し合えるけれど、男性に対して共有する機会はあまりないような……私のパートナーはオーストラリア人で、彼が育ってきた環境について聞くと男女平等がナチュラルに浸透しているのを感じますし、それもあってか私にとっては安心して話ができる相手です。あとは若い世代も、フラットな目線を持っている人が多い印象を受けますね。


――男女間の不平等や問題について、話しやすい相手とそうでない相手がいるということですね。

ermhoi:そうですね、男女間の話だけでなく社会課題についても含めて、私自身Twitterなどでの発言にもかなり気を遣うようになりました。気にしすぎてガチガチになってしまって、言葉を選びすぎてしまったり……今回のインタビューも、受けるかどうか少し悩んだんです。でも人から聞いた話だとしても、私を通して伝えられることがあるかもしれないと考えました。発言を控えていたときには、考えること自体をお休みしていた期間もあります。休む時期も必要でしたが、何かに気が付いてそれを人に伝えたくなったら、また考え始めますよね。考え始めると、思考停止している時間をもったいなかったなと思ってしまいますね。

先日、北九州を中心に生活困窮者支援をしている非営利団体「抱樸」の活動を見学して、クラウドファンディングのライブに出演させてもらう機会がありました。私はプロテスト・ミュージシャンとして活動しているわけじゃないけれど、音楽を通して別の問題に光を当てることもできるんだなと思えた。インディペンデントに活動しているからこそ、自分の責任で発言するかしないかの取捨選択もできているのを感じます。


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