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<インタビュー>小室哲哉が語る、TKヒット曲ばかりの初のフルオーケストラ公演【前半】

インタビューバナー

数多のアーティストに楽曲を提供してきた“歴史”をオーケストラの響きによって紐解いていく

 稀代のヒットメーカー小室哲哉初のフルオーケストラ公演が開催される。しかも、誰もが知るTKヒット曲ばかりの選曲だ。自身のユニットTM NETWORKはもちろん、渡辺美里、trf、篠原涼子、安室奈美恵、華原朋美、H Jungle with t、globeなど数多のアーティストに楽曲を提供してきた“歴史”をオーケストラの響きによって紐解いていく公演、その名も『小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2022 -HISTORIA-』。会場は、2022年11月27日Bunkamuraオーチャードホール、2022年12月9日兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールにて、プレミアムな2公演となる。

 指揮・オーケストラ編曲を務めるのは、小室哲哉と同い年で共通の音楽観を持つピアニスト、指揮者、作編曲家として幅広く活動する藤原いくろう。小室はステージ上でピアニストとしても参加し、さらに、オーケストレーションを彩るゲスト・ボーカルも迎えるという。本番へ向けて、都内六本木某所で作戦会議中の小室と藤原に突撃して、どんな選曲や内容になりそうかを聞いてみた。

 小室哲哉がオーケストラ、そして自らからの作品を振り返る貴重なる1万4千字インタビュー。まずは、前半パートをお届けしよう。(Text: ふくりゅう(音楽コンシェルジュ) / Photo: 辰巳隆二)

第一にメロディーラインの美しさですよね。
それに付随するコード進行の独特な、転調感も含めて小室ワールドが確立されているんです

――先ほどまで行われていた小室さんと藤原さんの打ち合わせが白熱していて、後ろで聞いているだけでテンションが上がりました。小室さんにとってフルオーケストラ公演は、YOSHIKIさんとのユニットV2が1991年12月5日に東京ベイNKホールで行なった『V2 SPECIAL LIVE "VIRGINITY"』公演以来となりますね?

小室哲哉:よく覚えていますね。レコーディングでは、その後もフルオケはやっていました。(制作拠点が)ロサンゼルスへ移ってから、ハリウッドのチームをいつでも呼ぶことができて。90年代は、「I'm proud」や「CAN YOU CELEBRATE?」など、オーケストラが入っている曲が多かったんですよ。


――今回の公演は小室さんのヒット曲を初めて完全フルオーケストラで表現するというコンセプトとなっていますが、藤原さんは、小室ソングをどのように評価されていますか?

藤原いくろう:まず、第一にメロディーラインの美しさですよね。それに付随するコード進行の独特な、転調感も含めて小室ワールドが確立されているんです。メロディーとコードの関係性もオリジナリティーが高いので、オーケストラでどう表現していくかに注目して欲しいですね。


――お二人とも、1958年生まれ、同い年なんですね。

藤原:はいそうです。僕のが、ちょっとだけお兄さんです。


――これまで接点は?

小室:直接はなかったのですが、先ほど初めて伺ったんですけど、中森明菜さん。


藤原:そうそう、シンフォニック・コンサートや作品で。


小室:僕の曲、「愛撫」をアレンジしてくれていたんです。


――まさかの繋がりが。しかも藤原さんはビーイング所属だそうですね。

小室:きっとまだ探せば、接点はいろいろ出てくると思う。


藤原:そうかもしれませんね。


地道に積み上げていきたいないうのが、自分の中であって。
コンサートの感触を噛みしめてっていうか、階段を上がって行きたいな、
今回やっと到達できるのかなって

――今日、選曲など打ち合わせをされていましたが、『小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2022 -HISTORIA-』が実現するにあたって、どんなきっかけがあったのでしょうか?

小室:玉置浩二さんが友達で。ずっとbillboard classics公演としてオーケストラ・ライブをやられていて。それで観せてもらったんですよ。関係者の方を紹介してもらって。そこから、自分のソロ公演としてのBillboard LIVEがはじまりました。音楽活動に復帰してから地道に積み上げていきたいなというのが、自分の中であって。コンサートの感触を噛みしめてっていうか、階段を上がって行きたいな、今回やっと到達できるのかなって。なので、いきなり「オーケストラとやりたい!」みたいなことをポンッと言い出したっていう感じではまったくないです。


――近年の小室さんのBillboard LIVEでのソロ・コンサートも、ステージに一人で立ってシンセサイザーを活用したデジタル・オーケストラのようなスタイルで、かつピアノを軸として選曲にもヒストリカルにこだわったヒットファクトリーなコンセプトでしたね。

小室:あれも偶然なんですよ。コロナ禍でステージを密にしない方法で。仮に二人だとしても、アクリル板とか。ディスコミュニケーションにはなりたくなかったので。「だったら一人でいいかな」っていう結論でBillboard LIVEでのソロライブをはじめました。なかなかbillboard LIVEでも、頭から終わりまでプレイヤーが一人だけって無いと思うんですけどね。


――まさにそこからオーケストラ公演へと繋がっていきました。

小室:ソロでのライブでも頭のなかでは、もしかしたら後ろにオーケストラがいたらこんな感じかなとかっていうイメージをしていたところもあったんですよ。1991年に出した『マドモアゼル モーツァルト』の曲をやったりね。


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  2. 打ち合わせの席で「兄弟や親戚の転調」って話されてたのですが、
    まさしくその通り
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打ち合わせの席で「兄弟や親戚の転調」って話されてたのですが、まさしくその通り

――点と点が繋がってきますね。いくろうさん、小室ソングでどの曲をオーケストラ・アレンジしてみたいなど、頭の中で巡らせたりしましたか?

藤原:はい。ほとんどの曲を聴きこみました。やっぱり壮大なイメージが広がるTM NETWORK「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」とか。それから、中森明菜さん繋がりでいうと「愛撫」もやりたいと思いましたし。もちろん、安室奈美恵さん「CAN YOU CELEBRATE?」も壮大なオーケストラが絶対に合うので、迷いますよねえ。


小室:藤原さんは、ロックも聴いている方なんですよ。


藤原:はい。見聴きしているものが小室さんと近いですよね。


小室:ロックとクラシックっていうと、接点がプログレッシブ・ロックになるので、もう、いろんなイメージなど、バンド名や曲名を言っただけでコミュニケーションできました。


藤原:同じ音楽を聴いて育っているので。嬉しかったですね。


小室:なので、「あの曲のあの感じ」というのは、すごく話しやすくて。同じ世代の人でも、ジャズやフュージョンの人は、ちょっと傾向が違うんですよ。


藤原:高校の文化祭でエマーソン・レイク・アンド・パーマーをコピーしてたので。


――わ、それはプログレ好きな小室さんと近いですね。

小室:僕はそこまでテクニックっていうか。アカデミックには習ってないので。それに、譜面が読めないですから。


藤原:それが天性ですごいんですよ。打ち合わせの席で「兄弟や親戚の転調」って話をされてたのですが、まさしくその通り。理論付けでもそういうことなんですよ。家族みたいな流れで転調していくんですよね。それを感性でやられていたことが素晴らしいと思うんです。それは、天性の才能であり、音楽をお好きでいっぱい聴いてるからなんだと思います。


小室:そうなんですかね。以前、“優しい楽典”みたいなことを、ファンの人も含めて教えたことあるんですけど。メジャーとマイナーとか、長調と短調との性格とか男女や喜怒哀楽にたとえながら。「なんでカノン進行は、みんながいいと思うのか?」とか。難しいっちゃ難しいから、なるべくわかりやすく紐解いて。最初は「ハ長調でシだったら、下がってくるので、みんな感情を揺さぶられるのか?」みたいなことを自分なりに分析をして。全然、感覚ですね。


――それこそ、先ほどの打ち合わせのときにglobe「FACES PLACES」のギター・アレンジについてレッド・ツェッペリンの「Kashmir」での弦の例えが出てきましたけど。小室さんは、クラシックであったり、プログレッシブ・ロックを通過しての楽曲の表現力、エモーショナルにサウンドの魅力を伝えるという創作スタイルにおいて、クラシックからの影響って実は大きかったりするんじゃないですか?

小室:そうだね。たぶん歌謡曲とかからの影響よりは圧倒的に多いと思います。なので、以前はすごくジャズ系が苦手でした。テンション、コードみたいな。同じ世代でも、スティーリー・ダンとかドナルド・フェイゲンになってくると、ちょっと出来ないっていう。


藤原:まさしく同感で。


圧倒的にクラシックの整合性感が好きでした

小室:もちろん「かっこいいな」と思うのもあるんですけど、全然圧倒的にクラシックの整合性感が好きでした。世代的にハモンドオルガンに触れる機会があって好きで。シンセもそうなんですけど。パイプオルガンなんか、フィート管があってドローバーっていうんですけどね。足していくんですよ。倍音を組み合わせて、なぜかちゃんと和音になるっていう。クラシックとか、それにすごく乗じてというか。より乗っかっていて。音の積み重ね方が好きだったんです。


――それでいうと「I'm proud」での高鳴るサウンド感も、クラシックからの影響が取り入れられてますよね。

小室:そうですね。完全に左が半音で下がっていくものに、どうコードを付けていくかっていう。カノン進行じゃなくて、やりたかったっていうのがあって。こんな感じでクラシックをやりたいっていうことを表現した曲で。


――なるほどです。ちなみに、小室さんは映画に書き下ろされたサウンドトラックであったり、劇伴やインスト曲でもたくさん素晴らしい作品がありますよね。それこそ、『マドモアゼル モーツァルト』であったり。そういった作品は、今回は選曲されないのですか?

小室:導入っていう意味ではありかもね。まさに導くための曲として「やっていただきたいなあ」と思っていますけど。それは、もうBillboard LIVEでひとりオーケストラやったりもしてるので。


――小室さんの中でオーケストラ、こういったステージに立つことになって、ご自分の曲で「この曲のオーケストラ・バージョンは聴いてみたい!」なんて、ふと頭に思い描かれた曲はありましたか?

小室:普段、ソロで演奏するときはピアノだけのことが多いので、そんなときに頭の中でオーケストラが鳴っていたり、ここで入ってきてほしいなと思うことは、もう山ほどありますね。


――思い浮かんだ曲、具体的に曲名とか。

小室:基本、元のマスターに入っている音は、やっぱり聴こえてきちゃうので。(華原)朋ちゃんとか(安室)奈美恵ちゃんとかを筆頭にですけど、相当数ありますね。今回、期待するのは全然電子音や打ち込みではないので、オーケストラの揺れこそが自分の中での楽しみですよね。なので、オーケストラ・バージョンとして常にサポートしてもらうのでは、全く意味がないので。「クラシックのこういう要素から、この曲は出来たんだ!」みたいな発見を、お客さんが感じてくれたら最高です。僕なんかより、もっとクラシックへの知識があるお客さんがいて「あの作曲家からの影響なんだ!」みたいに思っていただけたら嬉しいですね。


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    引用している曲がありますね
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アレンジとしてクラシックのパートを使わせてもらった、引用している曲がありますね

――小室さんの楽曲、イントロもサビも物凄くエモーショナルで耳に残り、テンション上がる曲が多いと思うんですが、オーケストラでアレンジするときも、絵が見えるというか。先ほど打ち合わせでも「オケが聴こえる!」みたいな声が聞こえてきました。見えやすいと言うと、どんな要素があったりするんですか?

藤原:小室さんもおっしゃったように、生の楽器が入ってない曲をオーケストラでどう表現するかは僕もすごい楽しみで。楽曲へ大きな影響を与えるオーケストラのグルーヴは、また違ったりするんですよ。


小室:ディープ・パープルのギタリスト、リッチー・ブラックモアがインタビューで「『スモーク・オン・ザ・ウォーター』のリフはベートーヴェンの『運命』からインスパイアされた!」っていう有名な話があって。まあわからなくもないかなっていう。同じフレーズの繰り返しであり。たとえば、ギタリストがそんなアイディアをインスパイアされるみたいなことは、たぶんいっぱいあると思うんですよ。他にも、リストかなんかの曲で、すごいいいなって思った曲もあって。あとは、確実にバッハっていう存在も大きくって。


――それこそ楽曲にモーツァルトなどクラシックを引用されたり、サンプリングされたり、マッシュアップしたりという事例も、小室さんの音楽ヒストリーの中ではありましたね?

小室:そうですね。アレンジとしてクラシックのパートを使わせてもらった、引用している曲がありますね。自分の曲を完成させる上で、大きなピースになることがあったりしました。


――たとえば、小室ソングで「意外な曲だけど、これはオーケストラでやってみたいな」というような、打ち合わせで曲名があがったナンバーなんてあったりしますか?

藤原:trfさんの曲とかね。まったく、クラシックとは対極的なものなので。そういう意味では、TM NETWORKの曲はロックテイストがあるので。クラシックとロックって僕はすごく近いと思ってて。逆に、ジャズは演歌が近いと思ってるんですよ。たぶんロック・ミュージシャンはね、自分たちはベートーヴェンやモーツァルトの歴史上にいると思ってやっているはずなので。それこそ、小室さんは、その延長線上にいらっしゃると思います。だから、クラシックの音楽の下地もあるし、ナチュラルに身体にも入ってきてるし。


――そこはまさに、小室さんとしては1991年にミュージカルへのサウンドトラックとして制作した『マドモアゼル モーツァルト』の時に、深く気づかされたというか、体感されていますよね? あのとき、モーツァルト没後200年を記念して自身のフルオーケストラでのソロライブをやる予定が、YOSHIKIさんとのV2でのコンサートに変わっていった経緯もありました。

小室:突然、YOSHIKIという存在が現れて、突如、すぐに近くなったっていう(笑)。クラシックの話をする機会も多かった時期だったりして。あとは、坂本(龍一)教授ですね。ドビュッシーとかバルトークとか、もっと超越して先に行ってましたね。「これはとてもついていけないわ、僕には」っていう。難しくって。今となっては、やっと少しわかるようなってはきたけれど。当時95年頃、一緒にライブでYMOのカバー「ビハインド・ザ・マスク」、共作で「VOLTEX OF LOVE」をやらせてもらいました。


――二組とも、歴史的なターニングポイントであり、コラボレーションですよね。

ピアノ奏者は、作品のトータルのイメージをプリプロできる。
かつてそんな存在が、きっとピアノだったはずで

小室:クラシックでもポップな大衆芸術みたいなものと、とてつもなく前衛みたいなことといろあるんですよ。なかでもピアノ奏者は、作品のトータルのイメージをプリプロできるんで。かつてそんな存在が、きっとピアノだったはずで。


藤原:そうそう。ピアノを頭の中でオーケストラに変換してるんですよ。


小室:感覚的に、プリプロ機材だったと思うんですよね。


――それでいうと、小室さんがバイオリンから音楽をはじめられていることが面白いですね。

小室:でも、全然ダメだったんで。和音の譜面のあるものからやらせてもらえたら、もっと楽だったのになみたいな。単音なので。調もなかったんですよ。ほぼ臨時記号でやっていた感じで。だからこんなに転調とか、コードで、自分の曲を操るというか。いろんなことを作曲やアレンジでやるとは、夢にも思ってなかったんです。仮に音楽の仕事をするようになるとしたら、歌メロからはじめる人間になるんだろうなとは思っていました。それが、途中からまずリフ。あれ? ずっとリフが続くのをクラシックの用語でなんて言うんでしたっけ?


藤原:モチーフとか?


小室:ひとつのフレーズのモチーフですね。それをいろいろな調に変えたりして、「愛撫」のAメロは典型的なんですけど。AメロとA’があったら、A’。Aメロとまったく一緒なんですけど、ただキーを変えるだけで世界がガラッと変わるんですよ。


藤原:まさしくクラシックの作曲家のやり方ですね。だって、それこそ「運命」のダダダダーンもメジャーでダダダダーンってやったりとか、いろんな形であのフレーズって変わりながら出てくるじゃないですか? 「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」もそうですね。AからB、C。別にメロディーは一緒なんですけど。


――「BEYOND THE TIME (メビウスの宇宙を越えて)」が持つ、奥行きのある壮大な世界観は、まさにメビウスの輪というか転調の妙で表現されていますよね。そういえば、ダンスミュージックのイメージがありながらも、trfなども、リフのイメージで考えると、オーケストラの響きが聴こえてきそうなサウンドですよね。

trfに「WORLD GROOVE」って曲があるんですけど、
今考えたらホルストの「惑星」の「木星」にメロディーが似ているかもしれない

小室:どちらかというと金管系な感じですね。最初はテクノから、だんだんソウルミュージックへと近づけていってあげたんで。trf「Overnight Sensation ~時代はあなたに委ねてる~」はモータウンですね。ある種、モータウンもクラシック要素は強くて。


藤原:そうですね。


小室:どんなポップな曲も弦が入っていたりするので。あと、trfに「WORLD GROOVE」って曲があるんですけど、今考えたらホルストの「惑星」の「木星」にメロディーが似ているかもしれない。ああいう大きなメロディーを作りたかったときがありますね、trfに関しても。


――TM NETWORKだったら「ELECTRIC PROPHET(電気じかけの予言者)」とかもメロディーが壮大で美しい。

小室:そうだね。


藤原:ほんと、早くボリューム2やりましょう(笑)。


――いや、ほんとですよ。ちなみに今回、東京と兵庫で2公演になると思うんですが、オーケストラの楽団が変わるんですよね?

藤原:そうです。オーケストラは基本的にその土地、土地のオーケストラにお願いすることが多くて。海外でもそうなんですよ。


――そうすると、Bunkamura オーチャードホールと兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで、またやっぱり演奏って変わってくるわけですよね。

藤原:オーケストラによって、やっぱり特色があるのでたしかに好きな方は両公演来た方がいいと思います。


――東京と兵庫、両方行ったほうがいいですね。ワクワクします!!!

後編へ続く


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