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2012/08/15

生活保護費からセックスレスまで 面ラホが描く人間の業

抜群のストーリー性を有した歌詞が絶賛を受け、“日本に現存する唯一の非感謝系音楽実演家”とも称される歌謡ファンクバンド 面影ラッキーホールが、1年ぶりの新作『オン・ザ・ボーダー』をリリースした。

 今年で活動20周年を迎える彼らは、かねてより同業者や識者から賛美されてきた知る人ぞ知る個性派バンドだ。楽曲を支えるのはリーダーのSinner-Yang(b)をはじめ、シーンで活躍している卓抜の奏者ばかり。古き良き歌謡曲のテイストをベースに、R&Bやソウルにファンク、ブルースといった黒人音楽の旨味をたっぷりと注入した本格派のサウンドは、耳の肥えた音楽マニアからも絶賛の声を集めている。


<生活保護費からセックスレスまで切り込む歌詞>


 しかし、最も特筆すべきはaCKy(vo)が手掛ける歌詞にある。これまでに発表してきた楽曲を幾つか紹介しよう。

・あんなに反対してたお義父さんにビールをつがれて
・俺のせいで甲子園に行けなかった
・パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた・・・夏
・ラブホチェックアウト後の朝マック

 タイトルだけでも情景が浮かんできそうだが、歌詞の内容は輪をかけて凄い。最新作『オン・ザ・ボーダー』も、生活保護費が出るまでは……と利己的な願望を娘に押し付ける母を描いた「制服で待っていて」、夜の蝶として成り上がっていく女性の恋心を綴る「北関東の訛りも消えて」、倦怠期を迎えた夫婦のセックス事情に切り込む「レス春秋」と良作が目白押しだ。

 時に世を騒がせた事件や事象にも言及するその作風。“知の巨人”と呼ばれた故・吉本隆明が「この人はうますぎるほどの物語詩の作り手だ」と評せば、脚本家の宮藤官九郎は「すごくイイ曲にすごくイヤな歌詞ですね」と脱帽。歯に衣着せぬ映画評論で人気の町山智浩も絶賛するストーリー性を有しているのだ。

 中には「ベジタブルぶる~す」のように深読みすると冷や汗が滲んでくる歌詞も存在するが、aCKyは“世の中にはどういう曲がないのか?という隙間をいつも狙っている”という。また、歌詞に出てくる登場人物の詳細はメンバー間で詰めていくそうで、先に紹介した「パチンコ…」の時も娘が何歳なのかで議論になったのだとか。


<殺してないですけど殺すよりもヒドい>


 また、最新作『オン・ザ・ボーダー』ではタイトル通り、“ある一線を超えるか超えないか、ギリギリの人たち”が描かれているが、その背景には前アルバムに収録の「ゴムまり」で得られた周囲の反応が影響を与えた所があるという。

 ミュージックビデオも制作された同曲は、再婚した夫に連れ子を虐待死させられた妻の独白という重いテーマでリスナーに衝撃を与えた。これまでも良識人から度々“不謹慎”とお叱りを受けてきた彼らではあるが、ネットが発達した時代もあってか「ゴムまり」にはこれまで以上の批判が殺到したそうだ。

 そうした状況にメーカー側から“今回は殺したりしないでくれ”とお願いされた彼らだが、Sinner-Yangは“だったらもっとやってやれって感じはありましたけどね、「殺したりしなければ何をやってもいいんだろ?」っていう悪意はあります(笑)”と不敵に笑う。

 “殺してないですけど殺すよりもヒドい(笑)”とaCKyが続けたように、例えば「制服で待っていて」では生活保護費というホットワードを撒き餌にしつつ、予想だにしない凄惨な現実へ引きずり込んでいく。ファンであっても度肝を抜かれる独自の切り口で、色鮮やかに世相を表現しているのだ。

 既に解禁されている新曲「おかあさんといっしょう」のミュージックビデオでは、「ゴムまり」と同じ監督と女優を起用。リード曲だからとラジオ等でもオンエアできるようにしたというが、登場人物の年齢によって内容が大きく変わるその世界観は意味深だ。“(年齢は)言わない方が面白いんじゃない? 答えはそれぞれで考えてみて下さい”(aCKy)


<何処がボーダーかはパーソナルな問題>


 『オン・ザ・ボーダー』では総じてボーダーを超越した人々が描かれているとも思えたが、“何処がボーダーかはパーソナルな問題だよね”とSinner-Yangは笑う。ダメだと分かっていても引き摺られてしまう退廃的な人の欲……。彼らの楽曲からは故・立川談志の遺した“落語とは人間の業の肯定である”という言葉も想起されるが、そう伝えると彼は首を横に振った。

 “これは肯定じゃないですよ。確かに彼らの行動にも相当に正当な理由があるだろうし、人には様々な正義がある。でも娘を死なせる母を肯定しているわけじゃない。僕らはただ、そういう事実があるということは肯定している。ヒドい人がいるって伝えているだけだから。それをヒドいというなら、僕らじゃなく新聞や週刊誌に言って下さい(笑)”

 かつての歌謡曲に存在したけれん味や行間をたっぷり持たせ、現代の歌謡、現代の風俗として甦らせる面影ラッキーホールの世界。現在のシーンに溢れている横並びの詞世界に辟易している人も、日本だからこそ生み出された至高の音楽に是非一度、触れてみては如何だろうか。


◎面影ラッキーホール - おかあさんといっしょう
http://youtu.be/ABuamnyG0pc

◎面影ラッキーホール「ゴムまり」(前作『ティピカル・アフェアー』収録)
http://youtu.be/pERlAI49TZ4

◎アルバム『on the border』
2012/08/15 RELEASE
PCD-28016 2940円(tax in.)
収録曲:
01.コモエスタNTR
02.おかあさんといっしょう
03.制服で待っていて
04.くちにだしてね
05.ベジタブルぶる~す
06.wet
07.北関東の訛りも消えて
08.四つん這いスウィーツ
09.レス春秋


取材・文 杉岡祐樹

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