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<インタビュー>葛葉が語るシンガーとしての自覚、名刺代わりのデビュー作『Sweet Bite』について

葛葉インタビュー

 多数のVTuber/バーチャルライバーを擁する『にじさんじプロジェクト』所属、YouTube登録者数が120万人を超えるVTuber・葛葉のメジャー・デビュー作『Sweet Bite』が完成した。

 自称ニートのゲーマー吸血鬼である葛葉にとって、本格的な活動時間軸でもある夜を舞台に様々な人間模様を描いた本作は、アグレッシブなバンド・サウンドで物語の幕開けを威勢よく告げる「Wonder Wanderers」、シドのマオと明希がそれぞれ作詞作曲を手掛けた「甘噛み」や、たなか楽曲提供のラップ・ナンバー「エンドゲーム」など、冒頭の「Introduction」やインスト音源を含めると計13曲を収録している。

 活況を見せるVTuberというカルチャーを牽引し、ストリーマーとしても大きな支持を集める葛葉。そんな彼の新たな挑戦となる本作について、話を訊いた。
(C) ANYCOLOR, Inc.

――まずは今回のメジャー・デビューに至るまでの経緯を教えてください。

葛葉:デビューのお話はけっこう前からいただいていたんです。まったく想像していなかったことなので、最初はやっぱり驚きが強くて。ただ、自分としても「せっかくならやりたい」という思いがあったので、わりと二つ返事ではあったんですけど、ずっと水面下で準備を進めてました。

――ご自身の音楽のルーツってどんなところにあると思いますか?

葛葉:ミーハーなので何でも聴くんですけど、名前を挙げるとしたらL'Arc-en-Cielさん、シドさんとか。あとは、ヒップホップ系だとSOUL'd OUTさんとかも聴いてました。バラードっぽい音楽よりは、アップテンポでノってくるような音楽のほうが好きだったかもしれないですね。最近はKing Gnuさんの「F.O.O.L」をよく聴いてます。

――それこそKing Gnuの井口さんをはじめ、Hey! Say! JUMPの山田さんや歌い手のそらるさん、まふまふさんなど、ゲームを通じて交友関係が生まれたアーティストさんも多いかと思うのですが、そういった方々からの刺激もあったり?

葛葉:ありますね。特に紅白に出場したまふまふさんはすごいなって。ある意味、自分の活動の延長線上のはるか先のほうというか、インターネット・ドリームを間近で見せてもらったなという感じで。「自分も頑張らないとな」って気持ちが入ったりもしましたね。

――アーティストとしてデビューすることが決まったとき、自分が表現したい世界観のイメージは思い浮かんでいましたか?

葛葉:それで言うと、まだ“表現”という部分に着手できていないと思っていて。歌うことにすごく必死なんですよね。なので、これから見つけていけたらなと思ってます。今回のミニアルバムは第一歩というか、手探りでやっていった部分も多かったですし。

――では、自分の“歌声”はどんなふうに捉えていますか?

葛葉:それも全然、まだ理解がなくて。むしろネガティブな印象は出てくるんですけど、でも、聴いてくれる人が「いい声だ」と言ってくれたりするとやっぱり嬉しいですね。自分の声がどういうものなのかは、まだちょっと掴めきれていない感じですけど。レコーディングした自分の歌を聴いても違和感があるんですよ、ちょっと。ただ、活躍しているアーティストさんたちって、きっと自分の歌声を好きになれているんだろうなとも思うので、今後、歌声も自分の個性としてちゃんと解釈していきたいなと思いますね。

――VTuberとして様々な活動をしてきたかと思うのですが、それらの中で音楽活動に還元できそうだと思うものってありますか?

葛葉:2019年に人生で初めてステージに立って歌うということを経験して。そのときの景色が忘れられないんですよね。お客さんのリアルな歓声とか、その場でしか味わえないものというか。自分の中でこみ上げてくるものがありました。「歌ってすげえ!」みたいな。それがけっこう根幹にあります。その頃から音楽がもっと好きになったかもしれないです。

――2019年に幕張メッセイベントホールで開催された【にじさんじ Music Festival~ Powered by DMM music~】ですね。やっぱりお客さんの存在が大きい?

葛葉:そうですね。生というのが大きかったのかもしれないですけど、何か不思議なパワーがあるんですよね。普段、配信をやっているときに流れてくる、文字のコメントを見るのとはまた違った感じで。言い方はあれですけど、自分の価値みたいなものを見出せた場面だったなって。音楽と自分を組み合わせることで、何かできることがあるのかなと思った瞬間でもあったし、ファンのみんなを実感したというか、「本当にいたんだな」って生存確認できた場でもありました。

――イベントと言えば、2021年11月にソロイベント【Kuzuha Birthday Event 「Scarlet Invitation」】をZepp Hanedaにて開催されました。葛葉さんの単独イベントという点では、ファンの存在をより一層強く感じた日だったのではないですか?

葛葉:感じましたね。めちゃくちゃたくさんの友達が見に来てくれているような、謎の感覚でした。やっぱり緊張したし、自分の歌唱力に対する自信のなさとか、イベントがちゃんとうまくいくかどうかの心配とか、そういうことでの気疲れもすごくありましたね。にじさんじのメンバーがほかにもいるときは、ステージ上で助け合いながらできますけど、単独は少なくともステージ上は一人なので。

――ライブが始まっても、どこかで心配がつきまとっていた感じ?

葛葉:最初のほうはけっこうタジタジしちゃったんですけど、後半に向かっていくにつれて、いつもの配信での調子みたいなものを取り戻しつつ、ちゃんと伝えたいことも伝えられた気がします。終わってみれば、やりたいことはできたかなって。

――その“やりたいこと”というのは?

葛葉:一番は感謝を伝えることですね。あのときの単独イベントは「これから成長していくよ」という宣言であるとともに、「こんなチャンスをくれたみんなにありがとうを伝えたい」という部分もあって。

――パフォーマンス面はいかがでしたか?

葛葉:体力がないので途中で座ったりしたんですけど、意外と新しい見せ方にもつながったりして一石二鳥でした。踊りに関しては余裕がなくて。やっぱりダンスできたらカッコいいなと思いましたね。聴くだけじゃなく、見ても楽しめるし。体力つけなきゃいけないなって。歌唱の表現力もまだまだ足りないと思いますし、一流のアーティストさんを見ると、自分はまだまだ素人の域だな、成長の余地はいくらでもあるなと感じますね。

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自分の内面、芯の部分に迫るようなものにできたらなって

――アルバムについても聞かせてください。アルバムの制作が決まったとき、どんな1枚にしたいと思いましたか?

葛葉:やっぱり初めて出すミニアルバムなので、名刺代わりになるようなものを作りたいと思いました。自分の活動時間である夜にちなんだモチーフを入れていたり、ちょっと斜に構えてしまう性格とか、自分の内面、芯の部分に迫るようなものにできたらなって。

――「Introduction」と銘打たれた1曲目に続く2曲目「Wonder Wanderers」は、冒頭で<深夜24時目覚める世界>とある通り、分かりやすく本作の世界観を表現していますよね。ちょうどこのぐらいの時間が“ニートのゲーマー吸血鬼”である葛葉さんにとって、そして、リスナーたちにとっても賑やかになってくる時間帯で。

葛葉:そうですね。「Wonder Wanderers」は、このミニアルバムの世界観に引き込む1曲目として、いい役割を果たしているなと思います。サウンドはごりごりのロックなので、歌声が曲に負けないよう、自分もガツガツいく気持ちで歌いましたね。パワー!

――歌詞の印象は?

葛葉:けっこう分かりやすいというか、そこまで抽象的すぎないし、最初に「っしゃ! みんないくぞ!」って感じの歌詞になっていていいなと思いました。最初は歌詞を覚えるのにも苦労しましたけど、メロディーはキャッチーなので覚えやすかったです。

――作詞はこだまさおりさん。歌詞に関して、葛葉さんのほうから具体的なオーダーを出したりはしたのでしょうか?

葛葉:いや、そこまで具体的には言っていなくて。どちらかと言えば、作ってくださる人に自分の魅力を引き出してもらった感じです。この「Wonder Wanderers」も、少し恥ずかしいですけど、すごくカッコつけた自分として捉えたというか(笑)。

――ライブでも映えそうなナンバーです。

葛葉:ああ、盛り上がりそうですね。この曲は特にライブでのパフォーマンスを想像しました。バンドと一緒に歌えたりしたらアツいだろうなって。

――その後の3曲目「Bad Bitter」では、打って変わって色気のある世界観に。

葛葉:おしゃれな曲ですよね。サウンド的にもけっこうトリッキーで、ちょっとジャジーな感じもあって。手のひらの上で転がしている感じが強キャラっぽくていいなと思いました。危ない火遊びをしているような、未知のわくわく感もあるし。

――<憐れみも軽蔑も中傷も欠かせないオーソリティ><誰も彼もがパブリックエネミー>といったラインもあり、どこかSNS社会を風刺するような描写もありますが、葛葉さん自身、活動していくなかでそういったことを実感するようなこともある?

葛葉:そうですね。やっぱりVTuberって新しい業界なので。でも、初めは抵抗感を持っていたけど見てみたらハマった、みたいな人も実際にけっこういて。この曲では「分かってるやつは分かってるよな」みたいな、ちょっと達観した感じもありますけど、理解さえできれば大したことなかったりするんですよね。

――「甘噛み」はシドのマオさん、明希さんが楽曲提供。これはどういった経緯で?

葛葉:もともと好きだったことをスタッフさんに話したら、提案してくださって。一番最初に知ったのは『黒執事』の曲で、それ以降も『鋼の錬金術師』だったり『マギ』だったり、アニメのテーマ・ソングもたくさん手掛けていらっしゃるじゃないですか。自分はそのあたりから入りました。アニソンを歌うロック・バンドって、オタクに優しいギャルじゃないですけど、謎の親近感が沸いてきて嬉しいんですよね。そのバンドのカッコいいオリジナリティもありつつ、ちゃんとアニソンでもあるというか。作品の世界感にも寄り添ってくれていて。


――楽曲の第一印象はいかがでしたか?

葛葉:まずはとにかく嬉しかったのと、「すご!」っていう驚きがありつつ、曲を聴いてみたら「ああ、これこれ」ってなるような、本当にアツく向き合ってくれたんだなというのを実感できるようなエッセンスを感じました。

――「Bad Bitter」とはまた違う妖艶さがありますね。“あなた”に依存する“私”のちょっとした狂気みたいなものが描かれていて。

葛葉:夜にこういう雰囲気はつきものだなって。人間の暗い心模様というか。やっぱりこういう気持ちって誰にでもあるじゃないですか。嫉妬しない人のほうが少ないと思うし。もちろん自分も含めてなので、そういう共感があったかもしれないです。

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作詞作曲をしてみたい
あとは、お金持ちになりたいです

――5曲目の「エンドゲーム」は、元ぼくのりりっくのぼうよみで、現在はDiosのボーカリストでもあるたなかさんが楽曲提供です。

葛葉:個人的にラップに興味があって、お願いするならやっぱり“天才”たなかさんだなって。そしたら引き受けていただけました。

――レコーディングはいかがでしたか?

葛葉:大変でしたね。やっぱり難しくて。たなかさん本人もオンラインで立ち会ってくださって、リアルタイムで助言をもらいながらやっていったんですけど、嬉しい反面、めちゃくちゃ恥ずかしくて。ただでさえ人前で歌うことに慣れてないし。ただ、すごい経験になりましたね。

――どういったアドバイスをいただいたんですか?

葛葉:たなかさんは滑舌がいいですけど、自分はそんなことなくて。あので、なかなか上手く歌えないラップの部分も、言葉を噛み砕きながら説明してくれました。あとは、言葉のカッコいい崩し方みたいなものとか。

――楽曲の印象は?

葛葉:言葉の割り振り方とか、自分じゃ絶対に思いつかないだろうなと思いました。あとは、フェイクも随所に散りばめられてるんですけど、それもすごく良くて。

――歌詞の内容としては“終わらせたくない夜”を描写していて、本作の世界観にもしっかり寄り添っています。

葛葉:そうですね。この曲もちゃんと“夜シリーズ”なんですけど、でも、夜明けに向かってはいるんですよね。だからこそ、終わってほしくない感がより際立っていて。

――<エンドゲームを/引き延ばそうぜ><どこまででも続いていく/ドローだけのこの祭典を>というラインもあります。個人的な感想ですが、スタヌ(StylishNoob)さんや釈迦(SHAKA)さん たちとの“二次会配信”も連想させる歌詞でした。24時間近くぶっ続けで配信していたこともありましたよね…。

葛葉:まさかここでスタヌさんたちの名前が出るとは。でも、あれはたしかに「エンドゲーム」そのものですね。あれほど情景的にしっくりくるものはない。

――そこに、本作のチル・タイムにもなっているミドル・バラード「Owl Night」が続きます。たしかに、このあたりから夜が明けてきて、空が白んできたような感覚がありますね。

葛葉:こういう寂しさも夜にはつきものですよね。散々はしゃいだあと、仲間たちが帰っていったときに感じる寂しさみたいな。

――聴く音楽としてのバラードにはそこまで馴染みがないとのことでしたが、やっぱり歌のアプローチも探っていった感じ?

葛葉:でしたね。こういう曲調はほとんど初挑戦だったので。力強くしすぎると世界観が壊れちゃうじゃないですか。余裕を持って歌う、というのが難しかったです。他の曲に比べると、曲の中での歌声の比重も大きいですし。

――そして7曲目、本作のエンド・トラック「debauchery」。

葛葉:この曲は耳障りのいいフレーズが多くて、ラストに相応しいなと思います。曲がカッコよくて、歌詞も個性的で。世界観的には夜を振り返りつつ、朝日に向かっていく、って感じ。明けない夜はないというメッセージでちゃんと締めくくられたかなと思います。

――改めて、本作の手応えはいかがでしょう?

葛葉:ちゃんと名刺にもなりつつ、きっと共感できる部分もあるんじゃないかなと思います。あとは成長も見せられたのかなって。

――特にここが成長したと思う部分は?

葛葉:みんなには見えない部分ですけど、人前で歌うことに対する意識ですかね(笑)。レコーディングを経験したことは大きかったです。あとは、音楽を聴くことに対する解像度が上がったというか。作り手側の思いとか、それを表現するときに使えるテクニックは成長した部分だと思います。技術的な部分は微々たるものですけど、これからどんどん成長していきたいですね。

――では最後に、音楽活動で今後チャレンジしたいこと、野望や展望などがあれば教えてください。

葛葉:作詞作曲をしてみたいなと思ってます。今回、学ばせてもらったことを活かしながら、自分の言葉でも書けるように。辞書でも読もうかなって(笑)。

――語彙力も高めていくと(笑)。

葛葉:あとは、お金持ちになりたいです。音楽で食べていけるのであれば、それって音楽で認められたということですから。

――「超リッチな人のヒモになりたい(※本人のTwitterから引用)」んですもんね(笑)。作詞作曲すれば印税も入りますし。

葛葉:締めが印税はちょっとやばいですけど(笑)、でも、そういうことにも挑戦しながら、上り詰めていきたいです。

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