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アンジェラ・アキ 『TODAY』 インタビュー

アンジェラ・アキ 『TODAY』 インタビュー

 『TODAY』という大傑作を9月19日にリリースしたばかりのアンジェラ・アキへ初インタビューを敢行!えーっと、全編本音です。本気です。リアルです。あれだけのポジティブなエネルギーに満ちたアルバムがどんな人生と感情から生まれてくるのか?“TODAY”を笑って泣いて苦しんで喜んで嫌になって好きになって、そんな全音楽ファン・・・もとい人類に送る!スペシャルインタビュー、ぜひご覧ください。

ネガティブ大前提のポジティブ

--アンジェラ・アキさんは1977年生まれということで、私と同じ歳になるんですけれども、アンジェラさんのとても同じ歳とは思えない純粋さ、まっすぐな意思表示には刺激を受けています。で、いきなり大きい質問になるんですけど、なんでそんなに夢や人に対してまっすぐでいられるんでしょうか?

アンジェラ:今質問の途中で「なんでか教えてあげようか?女性の方が精神年齢が高いから」って言おうと思ったんですけど、最後まで聞いたらすごく大きな質問だったんで真面目に答えます(笑)。私、『北の国から』がめっちゃ好きなんですよ。多分、20代前半~半ばぐらいまでに観てたらあんまり響かなかったかもしれないんですけど、27才のときに初めて観たらすごく響いたの。それで、『北の国から』はなぜそんなに響くのか、『北の国から』ファンと話していたら思ったことがあって。もちろん『北の国から』が好きじゃないって言う人もいると思うけど、でもあの作品はピュアな心というよりも逆に心に毒があればあるほど「あれは良い!」って思えると思うんですよ。

だから、私の曲もね、すごく真っ直ぐに聞こえるかもしれないけどね、私の心をレントゲンで撮ったら、ひねくれているところがいっぱい見えると思う(笑)。

--(爆笑)。

アンジェラ:私、実はかなり毒吐きなんですよ(笑)。でもそういう毒があって、すごく自分の中で葛藤があったりするからこそ、真っ直ぐな曲へと辿り着けると思ってるんですよ。曲っていろんな自分の中のプロセス、いろんなフィルターを通って出てきて、最終的に「こう思いました」って生まれるモノだから、その寸前までは100回ぐらい真逆なことを思ってるときもある。例えば『サクラ色』は、過去のすごく辛い経験が私の中にあって、それを引っ張り出して向き合って曲を書こうと思ったときに、最初からスラスラと書けたわけじゃないんですよ。もうなんか怒りが込み上げてきて、動けなくなったんですよ、本当に。「5,6年も前の経験なのに、自分にとってまだこんなにリアルに感じるんだ」って自分でも驚きましたけどね。ただその怒りがだんだん何に対する怒りなのかが見えてくるようになって。それは誰かではなく自分自身に対する怒りだったんですよ。新しい発見。そこからまた数日間葛藤して、『サクラ色』で書いてるような言葉が生まれていったんです。

この『TODAY』っていうアルバムに込めた想いっていうのは、ただ毎日真っ直ぐ生きようねとか、今日を大事にしようねとか、単純なポジティブメッセージとかではなくて、なんか、浄化できないこともあるし、消化しきれないこともあるし、解決できないこともあるし、一生答えが出ないことだってある。でもそれすらも“TODAY”受け入れるっていう。で、今までの自分はその受け入れるっていうことが出来てなかったんだと思う。だけど、解決しようとか、折り合いを付けようとか、とにかく向き合っていこうっていうことをしながら「解決できないこともある」っていうことに気付いたんです。それに最初は虚しくなったけれども、それを受け入れることで初めて前進できるのかなって。

だから私のすべての曲は、“ポジティブ”という枠に括ろうと思えば括れるかもしれないけど、本当はネガティブ大前提のポジティブみたいな。要は「複雑なんだよね」っていうことが言いたいっていうか。だから“TODAY”=“理想”ではなくて、“TODAY”=“リアリティ”にしたかったんですよ。すごく長い答えになっちゃいましたけど(笑)。

--例えば、人間30年生きてれば、挫折や妥協、絶望なんていくらでもあると思うんですけれども、アンジェラさん自身は挫折や妥協、絶望というモノをどのように捉え、付き合い、生きてきたと思われますか?

アンジェラ:例えば、デビュー前に私は都内でライブ活動をしていたんですけど、ある時、某レコード会社の人が「まぁ良いんじゃない」って感じで、私のライブに来てくれたんです。それで、楽屋にも来てくれたんですよ。その人は「良かったよ~」って言ってくれて。最初は嬉しかったんですけど、その人がその次に発した言葉が「アンジェラの歌詞って15才で止まってるよね」だったんです。その瞬間、私は本当に血の気が引いて。大衆に下着姿を見られたかのような恥ずかしさがあって、もうすっごい泣きそうになったんだけど、「泣くな泣くな」って自分に言い聞かせながら、平然として「まぁ15才でアメリカに行っちゃったから」とか答えていたんでけど・・・もう次の日から、毎日その人に対する怒りが沸いてきて!

--(笑)。

アンジェラ:その彼の一言にずっとうなされて。なんでそんなに嫌だったかっていうと、自分もどこかでそんな風に思っていたんですよ、きっと。ちょっとでも自分が抱えているコンプレックスみたいな部分を突き刺されると、人間ってすごくあたふたするんですよね。でもそれから時間が経って落ち着いてきたときに、まず私が何をしたかと言うと、「100曲作ってやるわ!!」だったんですよ。高校生の漢字ドリルとか買ってきて、“商(あきな)い中”とか憶えたりして(笑)。それでとにかくいっぱい曲を作ったんですよ。その流れの中でカバーとかもやるようになって、元々存在するモノを自分の言葉で書き換えて更に追求していったりして。で、実際に1年で100曲以上作ったんです。そこまでやってようやく『ONE』や『Home』に入っている、本当に自分の好きな曲に辿り着けて。そう思うと、あのときに「15才で止まってるよね」って言われなかったら、もしかしたら変な自信とか付いて、「これが私の個性なのよ」みたいなことを言っていたかもしれないし。だからピンポイントで弱いところを突かれたことによって、すごく嫌だったけど、それと向き合っていくことができた。私はどっちかって言うと、そういうことを繰り返してきたと思うんですよね。

ただ、“努力家”とかってよく言われるんですけど、そうじゃないんですよ。私は勉強しなかった子だし、どっちかって言うと、簡単な方の道を選ぶ人なのね(笑)。だから“努力家”ではないんだけど、なんか、真の自分のコンプレックスに突き刺さってくるモノに対しては全力で戦う。自分がそこを信じたくないから。だから上手く言えないけど、そういう感じで絶望とは向き合ってきたのかな。もちろん「15才で止まってるよね」って言われた次の日から漢字ドリルじゃなかったですよ。数ヶ月はグッタリしてて、周りの人が「気にしないで」って言ってくれても「おまえが言われたんちゃうやろ!?」みたいな感じだったし(笑)。

--信念として、どんなネガティブなモノもポジティブな力に変えて生きていきたい。というのは、ありますか?

アンジェラ:あのね、「15才で止まってるよね」って言われた瞬間には「これを活かしてポジティブになるぞ」なんて微塵にも思ってない。どっちかって言うと、殴られたから殴り返すっていう気持ち(笑)。

--反骨精神?

アンジェラ:そうそう!反骨精神なの(笑)。

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本能の声

--そんなアンジェラさんの生き方が、デビューに繋がり、ブレイクに繋がり、今の状況に繋がっていると思うんですが、どうでしょう?

アンジェラ:思った以上に自分の言葉とかが本当に人に伝わってる。そのことが今の結果に繋がってるんだと思います。私がすごいとか、私が頑張ったからとか、そういうのは一切思わなくて。なんか、よくね、「デビューまでの10年間であったあなたの苦労話を教えてください」みたいなことを聞かれるんですけど、私は特別扱いしてほしくない。というか、逆に私が「あなたのここに至るまでの話を聞かせて」って言ったら、多分同じような話になると思うの。みんな絶望したりするポイントは違うかもしれないし、ぶつかって転げて自分を疑ってるポイントは違うかもしれないし、踏んできた大地は違うかもしれないけど、多分同じように「死にたい」と思ったこともあると思うし、同じように失恋に傷ついたりもしてると思うし。ただ私はたまたま仕事上、取材やライブでそれを多くの人に聞いてもらう機会が多いだけで。

--あと、この出来事にフォーカスを当てないわけにはいけません。日本武道館公演という夢の達成。

アンジェラ:武道館の前と後では、自分がすごく違う人になったと思うぐらい、大きな出来事だったし、大きなハードルでもあったし。でも武道館で二時間強歌いながら「私はなんて幸せなんだろう」みたいな達成感は全くなくて!それだけ必死だったんですよ!最後の最後まで弾き語りで成立するのか?っていう自分との葛藤だったり、緊張との戦いだったりがあって。だってついこの前まで30人ぐらいの前でライブをしていたのに、急に14,000人いるわけですよ。後ろの方の人とは目が合わないっていう違和感の中で、どうやって素の自分で向き合っていけばいいのか、それは考えてましたね。武道館っていう大きな夢と目標が達成できたっていうのはあったけど、それと同時に「これ夢なのかな?」って思うぐらいのリアリティのなさも感じて。だから本当は真っ白だったんですよ、あの二時間強は。ライブDVDのチェックであの日のライブを見返したときに、自分が言ってることに自分で笑ったり涙したり、やっと一歩引いてあの二時間強を見れた感じでした。だけど武道館が出来たっていうことは、大きく私の人生を変えたと思うし、デビューまでの10年間とかよく使われるんですけど、あの武道館までで一括りっていう感じかなって思います。

--武道館公演の実現だったり、今の状況を生み出すほどのエネルギーを保ち続けるのってよっぽどの原動力がないと無理だと思うんです。そのアンジェラさんを突き動かし続ける原動力って何なんですかね?

アンジェラ:本能の声ですね。私が本能の声を初めて聞いたのは、18才のときで。サラ・マクラクランのライブを観に行ったときに、武道館よりも大きいところでやっていたんですけど、ふとした瞬間にステージから客席に目を向けたんですよ。そしたら人の顔が感動一色っていうか、なんて表現していいか分からないぐらいにみんな良い表情をしていたんです。で、映画『アメリカン・ビューティー』のワンシーンのように、バタンと周りの照明が落ちて、自分だけにスポットライトが当たっているような感覚になって、「あなたはこれをするために生まれてきたんだ」ってハッキリ本能の声が聞こえたんですよ。その瞬間に涙が溢れ出して、一緒にいたルームメイトに「大丈夫?」って声を掛けられて我に返ったんですけど、確実に何かを悟ったんですよ、その瞬間に。それで私は18才でプロのシンガーソングライターを目指し出すんです。

で、本能の声を聞いたばかりの頃は「大丈夫。大学卒業して就職しても必ず音楽の夢に辿り着けるから」と、就職もしてOLをやるんです。けど、それから2年、3年、4年と経っていくと、「大丈夫だよ・・・ね?」っていう感じになっていき、更にもう2年ぐらい経っていくと、「ひょっとしてあのとき感じたのって、勘違い?」みたいな(笑)。そうやって本能の声が自分の中でどんどん薄れていくんですよ。でもサラ・マクラクランのライブから8年ぐらい経って、日本武道館で椎名林檎さんのライブを観たときに、なんか呼び起こされたの。その18才のときに感じた何かを。で、マネージャーと二人で観に行ってたんだけど、二人でギュッと手を握り締めて「武道館、やろうね」「やれるよ」って言い合って、どんどんどんどん盛り上がって「武道館でやるときは、照明をこういう感じで赤いの使って、お客さんもこういう感じで入れようね」みたいな話もして。で、その日のライブのセットリストをもらって、それに「目指せ、武道館!3年後の今日までに」って書いたんです。

ただそのときって、さっきの「15才で止まってるよね」までも辿り着けていない時点なんですよ。誰にも自分の歌を聴いてもらえてなくて、日本でやっていけるのか不安だった頃。でも「目指せ、武道館」って書いた瞬間にどこか手が届くと思ったんですよ。非現実的な部分が60%だったとしても現実的な部分が40%あったんですよ、自分の中で。もちろんそれはドデカイ夢だったんだけど、まずその2年後、デビューに繋がったときにその夢が目標に変わってきて。「メジャーデビューできたんだから、武道館までの道程の半分ぐらいは行けたんじゃないの」みたいな(笑)。で、「オリコン49位だったけど左ページだったよ!これでまた近づけた!」と思って。そして『ファイナルファンタジーXII』の挿入歌『Kiss Me Good-Bye』を出したあたりで、私の歌を聴いたことがあるって人が増えてきて、アルバム『Home』まで辿り着いて、日本武道館決定!って感じだったんです。

だから音楽以外でも何でもドデカイ夢を持ってる人は、それが「本能の声だ」っていう確信があるんだったら、「絶対届かない」と思っても紙に書いたりする。私が「目指せ、武道館」って書いたのは、それを目で見ると頭でプロセスを追うようになるから。それをやるのと漠然と脳の裏で夢を抱いているのとでは、大違いだから。私は毎日その紙を見てたし、朝起きて歯磨きながら、準備しながら、服着ながら。そしたらいつからかその紙に書いてあることが夢から目標に変わっていたんですよね。だから本能の声を信じる。本能の声ってね、無視することはできるけど、本能の声って黙らないんですよ。ずーっと喋り続けてくれるから。それを信じて努力したら、夢はいつしか目標に降りてきて、それは実現化されていくと思う。

--そうしてアンジェラさんは自身の大きな夢を叶えたわけですけど、その大きな夢を達成した後はどんなモードになったんですか?

アンジェラ:次は「目指せ、東京ドーム!」とかいって(笑)。あのね、武道館が夢から目標に変わっていた時点で、更なる次の夢を私はもう持っていて。だから現在進行形のモノがすごく多いんですよ。ただ、よく「アンジェラさんの次の夢はなんですか?」って聞かれるんですけど、まだ夢である時点のモノはね、口にして叶わなくて「なんだ、アンジェラ、ダメじゃん」って思われたくないじゃないですか(笑)。また紙に書いて鏡台の裏に貼ってある夢とかもあるんですけどね。

私、OL時代に上司がすごく良い人で、その人のおかげで今があると言っても過言じゃないぐらいなんですけど、その人に教わったことがあって、短期間、中期間、長期間の表を作ることがすごく大事。短期間っていうのは、大体今から一年先、中期間っていうのは今から三年、長期間っていうのは今から五年、私はそれを常に自分の中で見てるんですよ。まぁそれでも見失いがちですけどね。「アカンわ」って思うときもあるし。でも一応そういう風に心掛けて、常にいろんなことを目指してますね。

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“あなたと私”で始まらないと

--また、先程自身でも武道館の前と後では変わったと仰ってましたが、アンジェラさんの歌の力だったり熱量も変わってきてると感じてるんですね。より揺るがなくなった意思や信念のもとに歌が生まれていってる印象を、今回のアルバム『TODAY』を聴いていても受けるんですが、自身ではどう思われますか?

アンジェラ:さっきの「解決できないモノってあっていいんだ」っていう気付きによって、焦りみたいなモノから少し解放された感じはありますね。でも解放されると、より良くないモノもどんどん目に付いてくるんですよ。何かに向かって一生懸命、必死に集中してるときって人って輝くんですけど、一回一歩下がれるところまで来ると、より醜いモノが目立つというか。自分の心の中もそうだし。だからそういう中でのリアリティっていうモノを今回のアルバムはより一層打ち出してますね。あと、前作『Home』は、レコーディングでピアノとか何回も何回もやり直したりしてるんですよ。歌も何度も録り直して。そしたら亀田誠治さんに「ライブだったら一回で勝負するのに、レコーディングだとなんで何回もやんの?」ってふと言われたんですよ。「ライブぐらいの集中力で一回やってみな」って。その言葉でハッと気付いて。今まで自分は何をやっていたんだろうと(笑)。

ただ一回勝負だと間違えることもあるじゃないですか。でもね、ライブとかはそこが良かったりするって気付いたんですよ。この前、ファンクラブイベントで『One Melody』を初めて生で歌ったんですけど、まだ感情を上手くコントロールできなくて、声がかすれたりとかして変になったところが一箇所あったんですよ。それでマネージャーに「最悪だった!」とか言ってたんですけど、家に帰ってホームページでみんなの書き込み読んだら「あそこで声がかすれた瞬間に私は涙腺が緩んだ」みたいな感想があって。そこであの失敗と思っていた部分はリアルなモノだから良いんだと思ったんです。だからそれを今回のアルバムでも表現したくて、歌も直さないでそのまま入れちゃったりしてるんですよ。でもその不完全さがリアルだなって。100%完璧なモノがリアルな私でもないし。そういう部分でも武道館の前後で変化はありますね。

--同じフレーズを繰り返すことも多くなりましたよね?

アンジェラ:そうですね。同じ事を繰り返し言うことに抵抗はなくなってきたかな。『Home』の頃は、取材とかで「アンジェラさんってこういう言葉好きですよね?」とか言われると、ドキッとして「ボキャブラリーがない奴だと思われてる!」って(笑)思ったりもしていたんですけど、でもよく考えたらボキャブラリーがあるとかないとかじゃなくて、「私の言いたいことはそれ!」っていう。だから私が抽象的な歌をあんまり書かないのもそれが理由なんですよ。具体的に「どういう状況なのかまず言おう」って思っちゃうんで(笑)。私は、歌っていうのは具体的に表現した方が良いと思うんですよ。そう思ってるから結局同じ言葉とかに辿り着く。

--ちなみにアンジェラ・アキが今だったり今作『TODAY』を通じて届けようとしているモノって何だったりするんでしょうか?

アンジェラ:いろんな形の愛もあるし、いろんな形の生き様があると思うんですけど、私が書くのは『サクラ色』で発見した「複雑なんだ」っていうことなんですよ。「1+1=2」じゃない、人生って。計算機があれば答えが出せるもんでもないし、足し算や引き算が得意な人の方が先に答えを出せるもんでもないし、複雑なんですよ。いろんな意味で。「答えが見つかった!イェーイ!」と思ったその次の日に、全く答えが見えなくなることもあるしね。だから一番言いたかったことって、そこで自分にプレッシャーを与えないというか、解決しようとしないというか。愛を描くにも、周りに祝福されない愛とか、隠れて愛さなきゃいけない人たちだっているわけじゃないですか、同性愛だったり不倫だったり。ただどんな愛であれ、その人たちが向き合ってるときって、すごく真っ直ぐだと思うの。でも世間はそれを曲がった愛だと言うかもしれない。じゃあどっちが正しい答えなの?ってなったときに私は分からなくなる。だから「分からない!」ってことが言いたいの。何が正しいか分からない中で、限られた時間の中で燃焼し尽くすぐらいその人が「好きだ」っていうことを言うか、言わないか。そこをポイントにしたいんですよね。そこをリアルに感じてもらえるモノを作りたい。

--極論言うと、それだけを表現してるというか。

アンジェラ:そうですね。別に自分の音楽が世界平和に繋がればいいとか、そういう大きな希望みたいなモノではなく、まず、戦争反対って言う前に自分の隣人を愛してるのか?そこが大事だと思うんです。それはすごく小さなことだけど、まず“あなたと私”で始まらないと、世界なんて変わらないと思う。だから私の物語、私の実体験、私のパーソナルがあなたのパーソナルに繋がってくれれば、もうそれでいいと思うんです。

『TODAY』の中ではそんな感じでいろんな具体的なことを書いてるんです。例えば、昔の友達と会って自分たちが変化したことに気付いて喪失感を感じて終わるんじゃなくて、変わっていくからこそ、今自分の周りにいる人と今日という日を大事にする大切さを歌ったり。あと、恋愛がラブラブ期間を過ぎてしまって、恋の賞味期限を感じてすごくツラくなったりとか、それに不安を覚えてる人もいっぱいいると思う。自分も結婚してそれがダメになるっていう、“一生の誓い”っていうモノが壊れるのを見たし。それで、愛の形をずっと自分で問いかけてたけど、それは無駄なんだ、変わるんだからってことに気付いて。だったらそんなことを考えたり問いかけたりしてるんじゃなくて、今隣にいる人と楽しく生きた方が良いんじゃないかなって。それはシンプルなようでもあり、複雑なことでもあるんですけどね。そういう想いが描かれてるから『TODAY』ってリアルなんです。

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だから“TODAY”なんですよ

--今のお話と今作の6曲目に収録されている『Silent Girl』が僕の中でリンクしたんですが、僕はこの曲から溢れてるモノって今の時代にすごく必要なモノだなと思って。この曲にある想いがないと、世界平和どころか何も変えられないというか。

アンジェラ:ニュースで「イジメがすごい問題になってて、自殺率が高くなってる」っていう話を聞いてもどこかで遠目にそれを見るところがあると思うんですね。「ウチらもう学生じゃないし、関係ない」とかね。でも「自分とは関係ない」って思っちゃうから物事って多分いつまで経っても解決できないんですよね。戦争とかもそうだし。ただ、私にはアメリカに親友がいて、武道館にも来てくれた友達なんだけど、彼女の弟と旦那さんはイラク戦争で戦ってるんですね。それで疲れ果てて、変わり果ててアメリカに戻ってきた彼らを見たりしてると「私達にもできることがあるだろ!」って思う。でも、私も含め、そういう危険から遠いと思ってる人が多い中では、まずは“あなたと私”のレベルからそういう意識を高めていく必要があると思う。外を見る前に自分を見ないと何も始まらないから。

--今日聞かせてもらったいろんな話からも感じましたが、とにかく今のアンジェラ・アキのリアルを詰め込んだこのアルバム『TODAY』、いろんなもんが溢れまくってて。アンジェラはこの先、どこまで溢れまくり続けるんですかね(笑)?

アンジェラ:岐阜ぐらいまで(笑)。

--ちょっと分かりづらいですね(笑)。

アンジェラ:あの、去年は新人としてファーストアルバムを出せて、日本武道館でライブをやらせていただけて。ただ新人と言っても、それまで一応アマチュアなりに音楽人生を10年送ってきて、いろんなことを経験していろんな表現の仕方を模索して。私、最初から同じスタイルで貫いてきたわけじゃないんですよ。ギターサウンドでデスメタルみたいなことをやっていた時期もあるし、ノラ・ジョーンズみたいにジャジィなことをやっていた時期もあるし、そうやっていろんなことをやって「ピアノと歌だ!」ってなったんですよ。その気持ちにファーストアルバムで辿り着けていたのが、すごくラッキーだったなと自分は思っていて。もちろん同期が10才年下とか嫌でしたけど(笑)でも私はデビューの段階で「自分の音楽で本当に大事なモノはこれだ!」って言い切れるところまで来ていて、そこでファーストアルバムを出せたんですよね。だから「セカンドはアーティストにとって迷う作品」とか聞くけど、私は何も迷わないっていうか、もう何を続けていけばいいか分かっていたから、そこはラッキーなんですよ。

で、これは今になって思うことなんですけど、「10年の遠回り」とか言ったりしていたけど、遠回りじゃなくて一番の近道だったのかもしれないなって。それで今この状態なので、どこまで溢れていくかって言ったら、音楽を続けていく限りですよね。私のパーソナルがあなたのパーソナルになってそこで繋がってる、その繋がってる糸が切れたときに、私は音楽を辞めるんだと思う。だから逆に言えば、その糸が切れない限りやり続ける。

--今のアンジェラさんを見てたら、その糸が切れることなんてない気もしますけどね。

アンジェラ:う~ん・・・どうだろうね?確かなモノは何もないっていうか。いろんなモノを見てきて経験してきて、例えば、友達の旦那が戦争に行って死にかけて帰ってきてるのを見たり、自分自身が結婚して離婚してっていうのを経験したりすると、「一生続く」っていうのは紙に書いても続かないんだなって。もしかしたらこの先、衝撃的な大きな出来事が起きて、音楽を辞めなきゃいけない日がやってくるかもしれないし。だから逆に“TODAY”なんですよ。それで良いんだよね。未来の束縛とか過去の束縛は置いておいて、今っていう。今に目を向けたい気持ちがある。

--ビシバシ伝わってきました、今の話。

アンジェラ:同じ歳だし(笑)。

--(笑)。あと、すごく月並みな質問なんですけど、このアルバム『TODAY』、強いて言えばどんな人に聴いてほしいですか?

アンジェラ:私のライブの会場を見てると、親子もいれば、中学生の制服を着てる子もいれば、小学生もいれば、60代の夫婦とかもいて、本当にいろんな形で人に届いてるんだなって思うんです。私が例えば、27才の頃のパーソナルなことを歌っていたとしても、13才の子がそれを聞いて「私の学校で・・・」って自分の話に結びつけたり、50代の男性の人が「分かる!」って言ってくれるのは、凄いなと思いますよ。「そこまで繋がるもんなんだ!?」って。それは去年~今年に掛けて気付いたことなんですけど、そういう意味では「世の女性たちに」とか括りをあんまり作りたくない。もちろん女の子の方が多いとは思うけど、私のパーソナルなモノをあなたのパーソナルに感じてもらえば、誰が聴いても良いと思うし。みんな同じなんですよ。だから、違う大地を踏みしめていてもね、現実的な“TODAY”を生きている人みんなに届いてほしいなってういう感覚です。

--で、アルバム『TODAY』を引っ提げて、10月から年を跨ぐ全国ツアーを行うわけですが、すごい本数ですね。セカンドアルバムでこれだけビッシリやる人がいるのか!?っていう感じですけれども。

アンジェラ:まぁセカンドアルバムで30才っていう人もあんまりいないと思いますけどね(笑)。今回はバンドメンバーと一緒に廻るんですよ。しかも超大御所メンバーと。ただ大御所とか良いながらも“仲間”っていうか、一枚目のアルバムから一緒にレコーディングして、すごく対等に物を言い合って、ぶつかり合って、作品を出してきたんですよ。だから“仲間”って感覚は強くて。で、今回は弾き語りを極めた上でのバンドとのツアーなんで、「バンドの音なんかに負けねぇぞ!」ぐらいの気持ちでピアノや歌を聴かせられればなって。とは言いつつも弾き語りもやりつつ、バンドでも聴かせるっていう内容になると思います。で、いっぱい喋るし(笑)、ハンカチを持ってきた人にはそのハンカチを使って頂けるような場面もちゃんと作りたいし。全部出し切ってほしいのね。笑って泣いて歌って、終わって「ハァ~」ってため息が付けたら、それは大成功だと思うんですよ。そのため息で半歩前進できてるような内容にしたいです。そのための体力作りもしつつ、お酒はほどほどにしつつ(笑)。

--楽しみにしてます。では、最後になるんですが、読者の皆さんにメッセージをお願いします!

アンジェラ:このアルバム『TODAY』を聴いて、何かを思うキッカケだったり、感じるキッカケだったり、思い出すキッカケになってくれれば・・・すごく嬉しい。日常ってすごくバリアを立てて生きてたりするじゃないですか。裏切られたことがあるから壁をどんどん高くしていって、人を入れ込まない。で、そのバリアってもちろん必要だとは思うんだけど、このアルバムを聴くときはできるだけ素の自分で、すっぴんの自分で、心を無にして聴いてほしいなって。何もない状態で。で、絶対に何か見つけられるモノとか発見できるモノって潜んでると思うから。自分自身の中に。あと、皆さんのおかげで“TODAY”がありますっていうのはね、言うまでもなく思ってるし。私の“TODAY”とあなたの“TODAY”でひとつになれればなって。

アンジェラ・アキ「TODAY」

TODAY

2007/09/19 RELEASE
ESCL-3030 ¥ 3,204(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.サクラ色
  2. 02.Again
  3. 03.TODAY
  4. 04.愛のうた
  5. 05.たしかに
  6. 06.Silent Girl
  7. 07.モラルの葬式
  8. 08.乙女心
  9. 09.One Melody
  10. 10.友のしるし
  11. 11.孤独のカケラ
  12. 12.On&On
  13. 13.Surrender

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¥3,666(税込)

たしかに
アンジェラ・アキ「たしかに」

2007/07/11

[CD]

¥1,068(税込)

サクラ色
アンジェラ・アキ「サクラ色」

2007/03/07

[CD]

¥1,282(税込)

サクラ色
アンジェラ・アキ「サクラ色」

2007/03/07

[CD]

¥1,650(税込)

Home
アンジェラ・アキ「Home」

2006/06/14

[CD]

¥3,520(税込)

Home
アンジェラ・アキ「Home」

2006/06/14

[CD]

¥3,204(税込)

This Love
アンジェラ・アキ「This Love」

2006/05/31

[CD]

¥1,572(税込)

This Love
アンジェラ・アキ「This Love」

2006/05/31

[CD]

¥1,282(税込)

Kiss Me Good-Bye
アンジェラ・アキ「Kiss Me Good-Bye」

2006/03/15

[CD]

¥1,572(税込)

Kiss Me Good-Bye
アンジェラ・アキ「Kiss Me Good-Bye」

2006/03/15

[CD]

¥1,282(税込)

心の戦士
アンジェラ・アキ「心の戦士」

2006/01/18

[CD]

¥1,282(税込)

心の戦士
アンジェラ・アキ「心の戦士」

2006/01/18

[CD]

¥1,572(税込)

HOME
アンジェラ・アキ「HOME」

2005/09/14

[CD]

¥1,282(税込)

ONE
アンジェラ・アキ「ONE」

2005/06/20

[CD]

¥1,500(税込)