あの頃、アイドルはいっぱいいましたけど

▲末光篤 feat.斉藤由貴 / 恋を、した。

斉藤由貴：最初これまでの末光さんの作品を聴かせていただいた時、どれもすごく丁寧に作られていたので、すごく繊細な方なのかな～って思っていたんです。でも、実際にお会いしてみたら……意外な感じの方で（笑）……でも、あながち外れてなかったなって後々思いました。やっぱりすごく繊細な方なんだなっ て。こんな曲を書ける方ですものね。

末光篤：ありがとうございます！

斉藤由貴：しかも、今時の“売らんかな”って感じのポップスじゃなくて、もっともっと奥に届いてくる、生きていく上で押し上げてくれるようなポップスって感じがしますね。

末光篤：嬉しいです。僕は中学くらいの時に由貴さんの「悲しみよこんにちは」を何度も何度も聴いて。もう、大好きでした。あの頃、アイドルはいっぱいいましたけど、由貴さんみたいな方って由貴さんしかいなかった。女優さんということもあって、曲もちゃんとしてたというか、音楽としてしっかり聴ける方だったんですよね。

斉藤由貴：チャラチャラできなかったんですよね（笑）。そういう素地が自分の中になかったんです。どこにいてもいっつも違和感がありましたよ。ここにいていいのかな？みたいな感じの違和感が。

末光篤：「悲しみよこんにちは」は玉置浩二さんの曲ですが（歌詞は森雪之丞）、最初に曲を受け取った時、どういう印象でした？

斉藤由貴：私、アップテンポの曲って苦手なんですよ～（笑）。だから、ええっ、これ？って感じでした。しかも、すごくキーが低いんです。この間、テレビの歌番組で玉置さんとご一緒させていただいたんですけど、その時、あの曲を改めて歌って、“こんなにキーが低かったんだ！”って驚きました。当時から20年も経過していて、私の声域も下がっているはずなのに、それでも低いと感じたから、当時はよっぽどだったんだなあって。そのくらい私にはハードルの高い曲でした。しかもしかも、当時この曲をレコーディングする際、ディレクターさんから“この曲はアニメ（『めぞん一刻』）の主題歌になったんだよ”って言われて、“そんなのイヤだ”って生意気なことを言ったりしましたね（笑）。“すごくいいことなのになあ”ってディレクターさんになだめられましたけど（笑）。

末光篤：すごいエピソードですね。

斉藤由貴：売れなくてもいいや、って思っていたんですよ（笑）。生意気ですよね。しかも、簡単に海外でレコーディングとかしていたし。そういう時代だったんですよね。恵まれた時代に活動していたんだと思います。素直にいい曲を提供していただいて……恵まれていましたね。しかも今回、末光さんに新たにアレンジしていただいて…ホント、すごくいいアレンジ。嬉しいです。ありがとうございます！

末光篤：この曲を聴いていると元気になるんですよね。ただ“頑張れ！”みたいな励ましソングとは違って、悲しみを友達のように受け入れるってことじゃないですか。しかも、サビに向かうメロディの高揚感もすごく感動的で。

斉藤由貴：今回、末光さんに書いていただいた「恋を、した。」もメロディ、アレンジ、森雪之丞さんの歌詞もどれもとてもよくって。聴く側に広く伝わる言葉なのに、ちゃんと雪之丞さんの中で咀嚼された言葉になっていて……。その歌詞の内容とピッタリと合ったメロディで……本当にいい曲ですよね。うーん、うまい！さすが！後は私のヴォーカルか！みたいな（笑）。

私にとって恋愛って自分の全世界なんです

末光篤：嬉しいなあ。アップテンポじゃなくてあまりバラードに寄り過ぎないって感じで書いたんです。自分としてはラヴ・ソングであることをテーマにはしていたんですけど、大人のラヴ・ソングってどんな感じかなあって考えながら作りましたね。

斉藤由貴：無理して頑張るんじゃなくて、私くらいの世代が自然に向き合えるような感じの曲なんですよね。私くらいの世代の気持ちの揺れている部分をひゅって掬い上げるような作業だったと思うんですけど、本当にすごいなあって。大人になると余計なものが染み付いているし立ちはだかってくるし、恋なんてものが顔を出してきたら、“ちょっと向こうに行っててね”ってつまみ出しちゃうような感じになるんですけど……っていうか、私は、ほら、もう、子供もいて家族もいるからあまりピンとはこなくなってるんですけど（笑）、でも、私たちくらいの世代には気持ちわかるなって歌詞になっていると思います。でも、歌の録音は難しかったですね（笑）。ハーモニーとかをとるのも難しくて。

末光篤：すみません（笑）。歌入れの時は僕も緊張しましたね。僕は横で聴いているだけだったんですけど、曲の世界がどんどん出来上がっていくのが感動的でしたね。やっぱりご自身の世界を持ってらっしゃるなあって。

斉藤由貴：私、歌のレッスンとかヴォイス・トレーニングとかってやったことがないんです。

末光篤：そうなんですか!?

斉藤由貴：なんかね、ダメなんですよ。自分の歌の世界みたいなのがあるからっていうのもあるんですけど。

末光篤：由貴さんには今回カップリングの「世界」の歌詞まで書いていただきましたが、本当に歌い手さんとしての自分のカラーをお持ちなんだなあって思いましたね。

斉藤由貴：「世界」の歌詞を最初見た時、正直、どう思いました？

末光篤：いやあ、これ、本当に難しい曲なんですよ。書いた自分で言うのもアレですが（笑）、よく歌詞を書いてくださったなあって感謝していますよ。しかもすごく由貴さんらしい歌詞で。「世界」ってどういうイメージなんですか？

斉藤由貴：私にとって恋愛って自分の全世界なんですよ。一度入ってしまうと一切のコントロールがきかなくなるんです。そういう意味ではこの曲は恋愛を歌ったものなんですよね。私の身体の中の世界ってイメージに近いですね。

末光篤：ああ、なんだかわかる。僕はステージの上にドレスを来て出てきて、アリアを歌う由貴さん、というイメージで作ったんですけど、実際に歌詞が乗ったものを聴いて、今でもそういう風景が思い浮かびますからね。実際に一緒にステージでご一緒させていただきたいくらいです。

斉藤由貴：いやいやいや……でもできたら何かご一緒したいですね。どういうところでライヴをやっているんですか？

末光篤：色々ですね。ホールとかでもやりますし、ライヴ・ハウスとかも多いですよ。椅子のないスタンディング形式の場所とか…。

斉藤由貴：へえ！　楽しそう！　そういうところで歌ったことないんですよ。今度本当にお邪魔してもいいですか？

末光篤：もちろんです！　いつでもご一緒させてください！