柴田淳、デビューから6年、初の全国ツアー。別にこれまでツアーを回れるだけの人気がなかったわけじゃない。単に本人が、お金を払ってチケットを取って一生の中の2時間ないしを自分の歌を聴きに来るために使ってもらうという重さを誰よりも知っていたがための、ようやくの全国ツアーである。そして今夜はその初全国ツアーの追加公演、事実上の最終公演。押し潰されそうになるほどのプレッシャーをはね除け、このツアーを有意義に回ることができたか、もしくはその逆か？それの結果が顕著に出るのが今夜の公演である。一体どんな歌声を響かせ、表情を覗かせるのか。

　暗闇に薄紫と赤の光。その空間の中央、切ないギターの音色に誘われるように彼女は姿を現す。そして彼女はその音色以上に切なさに満ちたファルセットをこの空間と僕らの心の中で響かせる。柴田淳が柴田淳である所以がオープニングから顕著に表現された。で、彼女をよく知る人であれば容易にイメージできることと思うが、そのままどこか切なげだったり、物憂げな楽曲が次々と展開され、静かにゆっくりと、でも確実に僕らの心をきつ～く締め付けていく。しかし「回を重ねるごとにステージが楽しくなって」「明日からの柴田淳は少し変わっていくんじゃないかな」という本人の言葉にもあったように、彼女の歌声は、実にカラフルに、淡々とした展開の中でも激しい感情の揺れ、心の鼓動をしっかりと伝え、終始オーディエンスを飽きさせないどころか、アッパーな曲も派手な演出もないのに右へ左へ僕らの心を揺らし続けていた。それは彼女の意識や感覚がライブの魅力、誰かに歌を届けることの有意義さを知ったからに違いない。要するに今夜の柴田淳は、今まで見たどのライブより人の心に響く歌をうたっていた。

　そんな緊張感溢れるライブの中でめちゃくちゃ明るい声で彼女が「王子様メドレー！」と叫ぶと、オーディエンスのハンドクラップが巻き起こる。王子様シリーズとは・・・詳しくはこちらのインタビューをご覧いただければと思うのだが、要は、彼女が勝手に創り上げた妄想恋愛不倫物語である。平たく言うと（笑）。もちろんこのシリーズがメドレー形式で披露されたのは、このツアーが初！しばじゅんファンにとっては、何たら組曲を生オーケストラで聴くよりテンションが上がる組曲である。

　「直接こうしてみんなとお会いできること、喋れることがこんなに嬉しいことなんだなと知れたことが何よりの収穫でした」と、みんなとの繋がりをリアルに感じることができた喜びを口にすると、大人のラブソング『かなわない』を羽毛田丈史のジャジィなピアノと夜景をかたどったセットをバックに歌い始める柴田淳。その黒いロングドレス姿以上にこの空間に艶っぽく溶け込む彼女の歌声に僕らは酔いしれる。そして僕らは彼女の声に彩られた切なき夜に胸を締め付けられたまま溺れていく。
　 本人曰く「よくもまぁこれだけ赤裸々な曲を」と最近聴いて驚いたと言う、過去に実体験した『片想い』から生まれたあのナンバーを今、少しその恋を懐かしむようにして彼女は歌い始めた。僕らも彼女と同じようにかつては苦しかった、でも今が良い思い出となった恋を重ねながらこの曲を味わう。そして僕らの想いが彼女の歌と完全に重なり合った頃、本人の中でもファンの中でも大切に育てられてきた名曲『月光浴』が披露された。

　彼女がその想いのすべてを歌に乗せ終え、ステージを後にすると、あのショートフィルム「HIROMI」のダイジェストがスクリーンに映し出される。そしてその物語の中で正にこの歌がうたわれる瞬間、いつの間にかステージ上に戻ってきていた柴田淳が「こんな幼稚な嘘で終わった」と、『HIROMI』を歌い始める。これをやられて感情移入しない者などここにはいない。今日これまでで一番大きな拍手と歓声が彼女に送られる。そのままライブはゆっくりと僕らの涙腺を緩ませながら、想いを溢れ出させながら、クライマックスへと進んでいく。
　 そのクライマックスの中で、今日で初めてのツアーの全行程を終え、これからまた進化・成長した柴田淳として新たな道を歩いていく彼女に相応しい『花吹雪』が披露されたのだが、思わず胸に込み上げるモノが彼女の口の動きを止めてしまう場面があった。しかしそこにすぐさまファンのハンドクラップが巻き起こり、彼女は背中を押されるように、そしてそれまで以上に想いを溢れさせて熱唱。空から舞い落ちる鮮やかな桜の花びらのように僕らの心を揺らした。

　 「いつも柴田淳を応援してくれて、ありがとうございます」お約束の挨拶じゃなく、心からの言葉としてそれを口にして、彼女は本編の最後に『今夜、君の声が聞きたい』を歌い始めた。昨日までの弱い一人で打ちひしがれてばかりいた私、でも今は聴かせてほしい声を聴かせてくれる君が、みんながいる。そんな想いが、明日からまた迷いながらも君の声を感じながら歩いていこうとする意思が、ここにいるすべての人々に有意義なカタルシスを覚えさせた。彼女のことを昨日以上に好きになり、そんな彼女との繋がりを素晴らしいモノに感じられる自分も少し好きになった瞬間。

　アンコール。しばじゅん、恋唄屋の恰好でいきなり「あの、靴下落っこってきたんですけど」と、ショートムービーの生再現をしながらファンにプレゼント。受け取ったファンの女の子は号泣。その後、Tシャツとジーンズのラフな恰好になってステージの中央に彼女は立つと、まずはファンのみんなと記念撮影。そしてなんと！インディーズ時代の名曲『パズル』を彼女は歌い始めた。更には、『幸せなうた』をアコースティックギターの音色だけを頼りに切々と歌い上げた。愛されること 教えてくれたあなたに 愛は届いてるかな？そんなフレーズをやわらかい声で問いかけた彼女に、その答えを精一杯の声と拍手で僕らは表現した。

　柴田淳、初の全国ツアーは、6年間待たせただけのことはある（笑）彼女らしい、そして想像以上に僕らに感動とエネルギーを与えてくれるモノとなった。【柴田淳 ツアー2007 ～しばじゅん、はじめました！～】、見事大成功である。