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ヨルシカ、『創作』に込めたCDショップでCDの存在意義を問う皮肉

Text:柴那典

様々なアーティストが挑戦してきた、CDの存在意義

 ヨルシカのEP『創作』が大きな反響を呼んでいる。

 聴く人の心を揺さぶるエモーショナルな楽曲を集めたその内容もさることながら、「CDのないCD」というコンセプトから生まれた仕様も話題を集めている。

 1月27日にリリースされた本作は、CDが入っている【Type A】と、デザインや歌詞カードなどのパッケージが全く同じでCDが入っていない【Type B】の2形態で発売。価格については、Type Aが¥1,900+税、Type Bが¥1,000+税となっている。

 結果、本作は「CDあり」が23,892枚を売り上げ、2021年2月8日付の総合アルバム・チャート「Billboard JAPAN HOT Albums」で2位にチャートイン。売上枚数では「CDあり」のほうが圧倒的に多い結果となった。

 ではなぜ、どんな意図があって、こんな形でリリースとなったのか。

 公式サイトなどで発信された情報には「CDがなくともサブスクリプションサービスなどで気軽に音楽を楽しめるデジタル時代である現代で、CDの存在意義をCDショップで問うという皮肉が込められた作品となっている」――とある。

 こうした販売形態が告知されてから、ネット上には賛否両論の反応も巻き起こった。

 というのも、リリースを通じて「CDの存在意義を問う」ということ自体は決して新しい試みではないからだ。音楽がパッケージという形態を離れてデジタルで流通するようになってから、この種の問い掛けは繰り返し行われてきた。

 先駆と言えるのは、2007年にリリースされたプリンスのアルバム『Planet Earth』だ。同作は発売前にイギリスの新聞「Mail On Sunday」紙の付録としてCDが配布されている。また、同年にはレディオヘッドがアルバム『In Rainbows』を「価格はあなた次第」という形式で公式サイトからダウンロード販売する試みも行われた。当時はまだ世界的にもCDが音楽市場の中心を占めており、かつ違法ダウンロードが横行し音楽業界にとって大きな問題になっていた頃。これらの行為には「CDを買う」ということがどういうことかを問い掛ける批評的な意味合いもあったはずだ。




 CDからストリーミングへの変化を推し進めたアーティストとしては、チャンス・ザ・ラッパーの存在も大きい。フリーダウンロードのミックステープで評判を築き上げた彼は、2016年の『Coloring Book』で一躍成功を収める。同作はCDとしてはリリースされず、有料のダウンロード販売も行わなかったにもかかわらず、アメリカのBillboard 200で8位にランクイン。その年のグラミー賞も獲得し、音楽シーンの変化の象徴となった。




 日本国内では、ゴールデンボンバーによる試みも話題を呼んできた。2014年にリリースしたシングル『ローラの傷だらけ』は、真っ白なジャケット写真に、握手券やDVD、写真などの封入・販促特典を一切付けない「特典なし」仕様のCDとして発売。バンドを率いる鬼龍院翔は、当時の風潮として広く行われてきた特典商法に対して「音楽だけで勝負したい」という意図があったことを明かしている。また、2017年にリリースしたシングル『#CDが売れないこんな世の中じゃ』では、発売前に出演した『ミュージックステーション』で楽曲を無料でダウンロード出来る「QRコード」を掲げるパフォーマンスを行っている。



▲ ゴールデンボンバー『#CDが売れないこんな世の中じゃ』


 2020年にゲスの極み乙女。がリリースしたアルバム『ストリーミング、CD、レコード』は、CDとBlu-ray/DVDをセットにした「Deluxe Edition」とアナログ盤に加え、世界初の試みとして「賞味期限付きアルバム」としてCDの代わりにpatisserie KIHACHIのバームクーヘンを封入したパッケージが発売された。こちらも、ストリーミングが主体となりつつある音楽マーケットの変化を踏まえ、ある種のユーモアと共に「CDの存在意義を問う」プロダクトとも言える。



▲ 『ストリーミング、CD、レコード』商品ミーティング


 そして、現状では「CDの存在意義」に一つの明確な方向性が生まれてもいる。それは、音源だけでは味わいきれない作品の世界観を深く知ることができるアイテムや、アーティストのグッズが同梱された「デラックス盤」としてのパッケージの意味合いだ。たとえばテイラー・スウィフトが2019年にリリースしたアルバム『Lover』のデラックス盤では、彼女が実際につけていた過去の直筆の日記、イラスト、写真などの入ったダイアリーブックが封入されている。ビリー・アイリッシュのデビューアルバム『When We All Fall Asleep, Where Do We Goなど、CDにグッズを同梱した豪華盤が限定生産としてリリースされる例は海外でも当たり前になっている。

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ヨルシカが形にしてきた「パッケージを買う」ということの意義

 実のところ、ヨルシカも、こうした方針を当初から貫いてきたアーティストである。

 2019年にリリースされた1stフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』の初回生産限定盤は【「エルマへ向けた手紙」再現BOX仕様】。同作で描かれる主人公の青年がエルマに送った手紙や写真を追体験できるようなパッケージとなっている。続く2ndアルバム『エルマ』の初回生産限定盤は【エルマが書いた日記帳仕様】。エルマが旅をしながら綴った日記帳を再現しており、対を成す2枚のアルバムの物語をより深く知ることのできるパッケージとなっている。




 さらに昨年にリリースされた『盗作』の初回生産限定盤は、CDに約130Pの小説を同梱した書籍型の装丁だ。コンポーザーのn-buna自身が綴った小説を読むと「音楽の盗作をする男」を主人公としたアルバムの楽曲で何が描かれていたのか、そこにどんな背景があったのかを味わうことができる。さらにはその小説の中に登場する少年が弾いた「月光ソナタ」の音源を収録したカセットテープも付属する。




 CDがなくともサブスクリプションサービスなどで気軽に音楽を楽しめる現在。それでも「パッケージを買う」ということの意義を、これまですべての作品でヨルシカは丁寧に形にしてきた、と言える。

 ではなぜ、ヨルシカは新作『創作』で「CDの存在意義をCDショップで問うという皮肉」を作品に込めようと思ったのか。

 n-bunaは、筆者が担当した特設サイトのインタビューで「これはそもそも、陳腐なことがやりたかったんです」と語っている。続けて、こんな風にその意図を説明している。

 「今の時代に『CDが入っていないCD』を出すっていう行為自体は、ある種の批判性のあるものになるから面白いとも思ったんですけど、単純にそういう自己批判性を持った行為はアートの歴史の中で手を替え品を替え、腐るほど行われている。その上で、じゃあ自分は何が欲しいのかを考えたんです。『CDのないCD』を出すという陳腐な禅問答の先に何があるか。簡単に言えば僕は、CDという文化が死に絶えようとしている水際の瞬間に中身が空のCDを売って、それを実店舗で買っている人の姿を見たかった。その様子を写真に撮って、その写真を持って初めて『創作』という作品にしようと思ったんです」

 「今回は、皮肉だと自覚した上で買わせることに意味があると思った。わざわざ皮肉だと提示してそれを理解した上で買ってくれないと意味がない。ある種、宗教的にも見えるCD文化への信仰もありつつ、ヨルシカというアーティストの信仰もありつつなんでしょう、ある種抑圧的にも見えるこういう行為だとちゃんと説明をした上で僕は売りたい。皮肉だと提示された上で空のCDを売る店舗の姿も、きっと美しいですから」

 さらに、発売日の1月27日にTOKYO FM「SCHOOL OF LOCK!」に登場したn-bunaとボーカリストのsuisの2人は、実際に「CDが入っている」Type Aと「CDが入っていない」Type Bの2形態を手にとってみての感触を、こう語っている。

 「思っていたよりずっとパワーのある画だったし、怖いっていうのとは違うけど、ちょっとゾッとしたね」(suis)

 「生きてる人間と死んでる人間の違い、みたいなもんだよね。物理的には心臓が動いているか止まっているかだけで、物体的には両方、何も変わらない訳じゃん」(n-buna)

 n-bunaが言う通り、「CDのないCD」というアイディア自体は陳腐なものとも言える。が、実際にそれが形になったときには、どこか哲学的な問い掛けすら内包したものになる。そこまで考えると、なかなかに興味深い試みだったと言えるのではないだろうか。




ヨルシカ「創作」

創作

2021/01/27 RELEASE
UPCH-2215 ¥ 2,090(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.強盗と花束
  2. 02.春泥棒
  3. 03.創作
  4. 04.風を食む
  5. 05.嘘月

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