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ヨルシカ、YOASOBI、ずっと真夜中でいいのに。~ネットカルチャー発の次世代型アーティストとは

 今、SNSを中心に「夜好性」というネットミームが徐々に広まりつつある。ヨルシカ、YOASOBI、ずっと真夜中でいいのに。――“夜”という言葉を名前に含む3組のアーティストのファンが自らの呼称として使いはじめた言葉だ。

 最初はファン同士が繋がるためのハッシュタグとして用いられていたこの「夜好性」というワードだが、最近ではテレビ番組で取り上げられるなど、メディアの注目も上昇。この3組だけでなく「ネットカルチャー発の次世代型アーティスト」が次々とブレイクしている今の日本の音楽シーンの潮流を示す言葉として話題を呼びつつある。

 その大きな理由は、これらのアーティストの好調なチャートアクションだろう。YOASOBIの「夜に駆ける」は、2020年6月15日付のBillboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”で3週連続の1位を獲得。ヨルシカ「花に亡霊」は2020年7月13日付のBillboard JAPANアニメチャート“JAPAN Hot Animation”で2位にランクインしている。

 そして、これらのアーティストには共通のファンも多い。それぞれのファンカルチャーにも親和性がある。もちろん、それぞれが追求する表現形態や音楽の志向性は異なるので、ひとつの言葉で括られることに違和感を持つファンもいるだろう。

 ただ、これらのアーティストが登場した背景に共通した文脈としてボーカロイドのカルチャーがあるのは間違いない。ボカロ文化が花開いた00年代以降、動画投稿サイトに曲を発表することで自らの作品世界を築き上げ、“歌い手”や“絵師”など他ジャンルのクリエイターとフラットに交流できる幾多のクリエイターが登場した。米津玄師を筆頭に、そうした土壌から生まれたアーティストがJ-POPのメインストリームでも活躍するようになったのが2010年代のこと。そして今は、音楽性、歌詞、活動のあり方など様々なポイントで“ボカロ以降”の感性を持ったアーティストたちが続々と登場し、日本独自の音楽カルチャーが花開いているのである。

 というわけで今回はそんなネットカルチャー発の次世代型アーティストを紹介していきたい。

 まず筆頭に挙げられるのはヨルシカだろう。

 ヨルシカとは、もともとボカロPとして音楽活動を行っていたコンポーザーのn-buna(ナブナ)が、ヴォーカリストのsuis(スイ)を迎えて結成したバンド。

 その特徴はコンセプチュアルな物語性にある。昨年に発表した2枚のアルバム『だから僕は音楽を辞めた』と『エルマ』はそれぞれの楽曲が対になるような関係を持つ作品だ。一つ一つの楽曲が情景を描き、それが音楽を辞めた青年エイミーと彼を追って旅をするエルマのストーリーを織り成していく。n-bunaが敬愛するオスカー・ワイルドを筆頭に様々な文学作品からの引用も散りばめられ、とても奥深い作品に結実している。

 サウンド面においてはピアノのリフレインとダンサブルなビートが印象的な曲調が多いヨルシカだが、その大きな特徴になっているのはsuisの歌が持つ表現力だろう。

 物語性を持つ楽曲ゆえに自分自身を主張するというよりも歌の主人公を“演じる”ことが求められるのがヨルシカの作風の特徴だが、suisは透明感ある歌声から芯の強いパワフルなヴォーカルまで自在にあやつり様々なキャラクター性を表現する歌声の魅力を持っている。

 それが如実に現れているのが、ニューアルバム『盗作』から先行配信された「思想犯」だ。「音を盗む泥棒」を主人公にした新作の物語の一遍となる一曲で、suisの低い声のトーンを活かしたメロディがとても印象的。



▲ 「思想犯」 / ヨルシカ


 一方、アニメーション映画『泣きたい私は猫をかぶる』主題歌でもある「花に亡霊」は、透き通るようなsuisの歌声が響く一曲。どことなく夏の空気感を感じさせるエモーショナルな一曲になっている。



▲ 「花に亡霊」 / ヨルシカ


 アルバム『盗作』は7月29日発売。おそらくこれらの楽曲もロングヒットになっていくだろう。

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 YOASOBIも、まさに物語性にフォーカスを当てたユニットだ。

 コンポーザーAyaseとボーカリストikuraによるクリエイターユニットで、昨年11月にデビュー曲「夜に駆ける」を発表。「小説を音楽・映像で具現化する」というコンセプトをもとに活動を進め、現在は「夜に駆ける」と「あの夢をなぞって」と「ハルジオン」という3曲が発表されている。



▲ 「ハルジオン」 / YOASOBI


 n-buna自身がいわば映画監督のようなスタンスで一つの物語世界を作り上げるヨルシカと対称的に、YOASOBIの特徴は「monogatary.com」という小説・イラスト投稿サイトと連動して楽曲ごとに原作小説を募集するという仕組みにある。そもそも、同サイトで昨年に行われたコンテスト「モノコン2019」で大賞に輝いた物語を楽曲化するユニットとして結成されたユニットがYOASOBIだ。

 つまり物語性を持った音楽を”オープン参加型のクリエイティブ”として構成しているところにYOASOBIの新しさがあると言える。

 ずっと真夜中でいいのに。は、シンガーソングライターACAねを中心にしたユニット。2018年6月に「秒針を噛む」のミュージックビデオを投稿し活動をスタート、その後も着実にキャリアを重ねてきた。「秒針を噛む」の編曲はボカロPとしても活動してきたぬゆり。他にも100回嘔吐、煮ル果実など、ボカロPとして活動してきたクリエイターを編曲に迎えている。

 ヨルシカやYOASOBIと比べてずっと真夜中でいいのに。は物語性を前面に押し出して表現しているわけではないが、これまで発表したMVは全てアニメーションで、歌詞の表現をもとに細かい意匠まで作り込まれている。

 5月には新曲「お勉強しといてよ」を発表。8月5日リリースの新作ミニアルバム『朗らかな皮膚とて不服』収録の一曲だ。跳ねるリズムにテクニカルなベースフレーズ、小気味よく移り変わる曲調が特徴。ずっと真夜中でいいのに。の音楽性については、ボカロカルチャーだけでなく、パスピエやゲスの極み乙女。以降とも言えるプログレッシヴなJ-POPの系譜にも位置づけることができる。



▲ 「お勉強しといてよ」 / ずっと真夜中でいいのに。


 また、今年に入って注目を集めているのがyamaだ。4月にリリースした1stシングル「春を告げる」が徐々に反響を呼び、2020年6月8日付のBillboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN HOT 100”では現時点での最高位となる7位にランクイン。5月27日に2ndシングル「クリーム」、7月1日に3rdシングル「Downtown」をリリースし注目を集めている。

 yamaは2018年よりカバー楽曲を歌った動画をアップロードし活動を開始した歌い手。中性的でハスキーな歌声を持ったシンガーだ。

 そして「春を告げる」の作曲を手掛けているのが、2019年4月に活動をスタートさせたボカロP、くじら。昨年11月にはボカロ曲として作った「ねむるまち」に歌い手としてyamaを迎えた「ねむるまち feat.yama」を配信リリースしている。



▲ 「春を告げる」 / yama


 YOASOBI、ずっと真夜中でいいのに。、yamaなどのアーティストに特徴的なサウンドは、“リリースカットピアノ”とも言われる残響音の少ないピアノの音色にある。こうした音を使って細かくリズムを刻むフレーズと、ダンサブルなリズム、ジャズやR&Bにも通じるテンションコードを用いたコード進行を用いることで、どことなくお洒落なムードを持ちながら躍動感あるビートと細密な曲展開併せ持ちリスナーを飽きさせない聴き応えを生み出している。

 他にも、ボカロP・有機酸としてのキャリアを経てシンガーソングライターとしてデビューした神山羊や、やはりボカロP・バルーンから須田景凪名義でシンガーソングライターとしての活動をはじめ今ではドラマや映画主題歌も手掛ける須田景凪など、活躍の場を広げているネットシーン発のアーティストも少なくない。

 さらには、かいりきベア、ユリイ・カノン、羽生まゐご、はるまきごはん、syudou、23.exe、雄之助など、さまざまなアーティストが動画投稿サイトにボーカロイド楽曲を発表し支持を広めている。ボカロPや歌い手の活動領域としてかつてはニコニコ動画が中心だったが、最近ではYouTubeでMVを発表、それがTikTok経由でブームを広げることも多くなってきた。

 ヨルシカ、YOASOBI、ずっと真夜中でいいのに、yamaといったヒットチャートに見える「夜好性」のアーティストたちの活躍の背景には、広く、そして分厚く積み重ねられてきたネットカルチャーの裾野があると言える。

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