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アラニス・モリセット来日記念特集~2020年にこそ聞くべき傑作。リリース25周年を迎えたアルバム『Jagged Little Pill』を紐解く



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 先日の第62回グラミー賞で18歳のビリー・アイリッシュが主要4部門を独占するなどして話題を集めたが、音楽ファンの中には、その時にアラニス・モリセットのことを思い出した人がいるのではないだろうか。今から25年前になるが、アラニスがデビューした時も衝撃的だったからだ。1995年にアラニスが発表した「You Oughta Know」は、年上の男性に二股をかけられたうえにフラれた10代の女子の気持ちを吐き出すように歌ったナンバーで、女性の気持ちを代弁するロックとして一世を風靡した。さらにその曲が収録されたアルバム『Jagged Little Pill』からは次々とヒット曲が飛び出し、翌年の第38回グラミー賞では、当時最年少の21歳で年間最優秀アルバムなどを受賞した。今もなお評価が高く、今年25周年記念のワールドツアーが開催されるこのアルバムについて紹介したい。

 カナダのオタワ出身のシンガー・ソングライター、アラニス・モリセット。1995年、彼女が21歳になったばかりの6月にリリースされた名盤『Jagged Little Pill』が今年で25周年を迎えた。アラニスといえば、彼女を一躍有名にしたのはデビュー曲「You Oughta Know」で、元カレに対する怒りをぶちまけた歌と、長い髪を振り乱して感情を爆発させたミュージック・ヴィデオでセンセーションを巻き起こした。

 しかし、その話題だけでは終わらない。作り込んでいないラフなサウンドに天性の裏声を駆使した特徴的なヴォーカルがポップなメロディを際立たせ、しかも赤裸々ながら、読書家の彼女ならではのウィットに富んだ歌詞は大人も魅了した。アラニスは「You Oughta Know」をはじめ、セクハラや当時はグランジ系が主流だった社会に対する不満も女性の視点で歌にし、「Hand in My Pocket」、「Ironic」、「You Learn」など6枚のシングルで立て続けにヒットチャートを賑わせていく。結果、アルバムは当時全世界で3,000万枚以上という破格のセールスを記録し(そのうちアメリカは1,400万枚!)、世界13カ国でアルバム・チャート第1位に輝くなど音楽シーンを席巻し、数え切れないほどの音楽賞を受賞。なかでも第38回グラミー賞では年間最優秀アルバム、最優秀女性ロックヴォーカル・パフォーマンス、最優秀ロックソング、最優秀ロックアルバムの4部門を受賞し、話題を独占した。



▲Alanis Morissette - You Oughta Know (Official Video)


 当時の若者にはもちろんのこと、アラニスは女性アーティスト達にも多大な影響を与えてきた。アラニスと同じくマドンナのレーベルMaverickと契約したミシェル・ブランチや同じカナダ出身のアヴリル・ラヴィーンをはじめ、マイリー・サイラスやビヨンセは名曲「You Oughta Know」を頻繁にコンサートでカヴァーし、テイラー・スウィフトはコンサートのゲストにアラニスを招いて同曲をデュエット。アリシア・キーズやケイティ・ペリー、フローレンス&ザ・マシーンのフローレンス・ウェルチなども彼女のファンであることを公言してきたし、ホールジーも最新アルバムに収録した「Alanis’ Interlude」でアラニスと共演しているほど、その人気は幅広い。



▲Halsey, Alanis Morissette - Alanis' Interlude (Visualizer)


 そこには女性しか感じ得ない心身の痛みや世の中への不満を吐露した楽曲はもちろんのこと、意志の強さを感じさせる中音域の声に独特な裏声を挟むようにして感情を絶妙に表現していく歌唱法、そして彼女の生き方に拠るところも大きい。アラニスは10歳からTV番組に出演してタレント的な人気を集める一方で、音楽をやりたくて自作曲をレコーディングするようになる。そして17歳で発表したデビュー・アルバムが母国で大ヒットして国民的人気歌手になったものの、アイドルとして自分が商品化されることを嫌い、高校を卒業すると故郷オタワからトロント、ロサンゼルスへと単身で移住。そこからシンガー・ソングライターとしてのデビューのチャンスを掴んでいく。当時は今以上に音楽業界は男性社会だったため、アラニスの“売れることよりも自分自身を守ろう”といった自立心の強さや、自身の言葉で歌詞を書き、発言していく姿勢も支持されてきたのだ。

 アラニス・モリセットで育った音楽ファンは数え切れない。そして近年この『Jagged Little Pill』がさらに評価されるきっかけとなったのは、この作品にインスパイアされた同名のミュージカルが2018年にボストンで、2019年にはNYブロードウェイで公演されて大評判になったことだ。監督を務めたのがトニー賞受賞のダイアン・パウルス、脚本は映画『JUNO /ジュノ』でオスカーを受賞したディアブロ・コーディ、振り付けは多彩な活動を誇るベルギーの奇才シディ・ラルビ・シェルカウイ……と、アラニスの歌に共感してきたクリエイターを筆頭に才能溢れる演者が集結した。アラニス自身も映画や舞台で女優としても活躍しているため、そこからのファンも多いと思われる。



▲Our Journey, Our Story | “You Learn” | Jagged Little Pill


 アラニスは以前インタビューで、「カナダの音楽業界での人間不信、大都会ロサンゼルスへ出てきて味わうさらなる孤独感、そういったなかから生まれた全ての感情について歌を書きたかった」と語っていた。そして、『Interview』誌(Oct 18,2019)で行われたディアブロ・コーディとの対談では、「このアルバムに収められた12曲のうち、「Not The Doctor」以外は曲を書いた時と今でも自分は本質的に変わっていない」と話している。ディアブロは、アラニスの他のヒット曲とも絡ませながら、人種問題や女性蔑視、ドラッグ依存といった社会問題やLGBTQや地球温暖化といった問題もこのミュージカルに盛り込んだそうだが、つまりは、それだけ25年前のこのアラニスの歌に問題意識が高かったということだろう。

 音楽活動でいうと、自宅のスタジオで制作をスタートさせた2012年発表のアルバム『Havoc and Bright Lights』が彼女にとって直近の作品になるが、その後、アラニスは元マネージャーから480万ドル(約5億円)を超える大金を盗まれ、2017年に元マネが逮捕されるというニュースがあった。そこからようやく楽曲制作に取り掛かる一方で、2019年8月には45歳で3人目の子供を出産するという明るい知らせもあった。アラニスは2男1女の母でもあるのだ。

 さて、この5月には8年ぶりのニュー・アルバム『Such Pretty Forks in the Road』がリリース予定だが、既に2曲が発表されている。「Reasons I Drink」は、さまざまな中毒をテーマにした歌。ミュージック・ヴィデオに出演している出産直前のアラニスの姿には驚かされたが、以前「もしアーティストになっていなければ、セラピストになっていたと思う」と話していた、彼女ならではの設定になっている。もう1曲の「Smiling」は既にブロードウェイで披露されているナンバー。「Uninvited」を彷彿させる歌い出しながら、アラニスらしいコード展開で気持ちを上げていき、岐路に立ちながらも前へと進もうとする楽曲になっている。幾度も挫けながら、孤独を感じながらも生きてきた、アラニス・モリセットからの背中を強く押してくれるナンバーだ。



▲Alanis Morissette - Reasons I Drink (Official Video)


 おそらくニュー・アルバムのレコーディングは終了し、3月4日のロンドン公演を皮切りに、アラニスは意気揚々と『Jagged Little Pill』の25周年記念のワールドツアー全57公演に回る予定だ。その彼女のライヴ・パフォーマンスで真っ先に思い出すのは、デビューしてから数年は、本編やアンコールの最後には必ず「You Learn」を歌っていたこと。そしてテンションが上がるに従ってステージを野生児の如く走り回り、ラストには後方のドラムに駆け寄ってシンバルなど力の限り叩きまくって、燃え尽きていた。毎回全身全霊で歌い切る激しさは、どこか自分自身を清くリセットしていくための儀式のように見えていたのだ。余談ながら、その当時のドラマーであるテイラー・ホーキンスは、アラニスのバンドでの活躍をきっかけに、その後フー・ファイターズに加入するチャンスを得ている。

 なお、アジア・オセアニア・ツアーの後、北米ツアーやヨーロッパ・ツアーにはガービッジやリズ・フェアが同行するという。この組み合わせも楽しみだ。25年にわたって愛聴されてきた名曲揃いのアルバムの熱いメッセージに、今、新たな息吹が加えられ、さらに時代を捉えた待望のニュー・アルバムからの新曲披露と、コンサートへの楽しみは尽きない。アラニス・モリセットの来日公演が無事に実現することを祈っていたい。


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