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インド・プネ出身マルチ・ヴォーカリストtea、メジャー・デビュー・アルバム『Unknown Places』インタビュー



teaインタビュー

 2016年から東京で音楽活動を行うインド・プネ出身のマルチ・ヴォーカリスト、teaがオリジナル曲8曲に加え、「Amazing Grace」や、ジョージ・ガーシュウィンの「Summertime」、そして山下達郎の「シャンプー」をカバーしたアルバム『Unknown Places』を2019年10月23日にリリース。2017年10月に発表されたデビュー・アルバム『INTERSTELLAR』に続く、2年ぶりの待望の新作はteaのメジャー・デビュー作となる。
 アメリカの名門音楽学校のバークリー音楽大学を卒業後、東京で活動するteaは、2018年9月公開の有村架純の主演映画『コーヒーが冷めないうちに』の劇中音楽や、2018年1月~3月放送のTVドラマ『ホリデイラブ』の劇中歌など、TVドラマやドキュメンタリー、CM、映画の歌唱を担当。ヴァイオリニストの川井郁子のサポートメンバーを務めるなど多岐にわたって活動を行っている。2019年9月に放送された人気TVアニメ『ダンベル何キロ持てる?』の最終話では、teaが歌う壮大なナンバーがオンエアされ、話題を呼んだことも記憶に新しい。そんな彼女が満を持して発表するアルバムの発売に先がけて、9月中旬にインタビューを実施。夫で、前作に続き『Unknown Places』でもサウンド・プロデュースを担当している時枝弘氏による通訳のもと、アルバムについて話を聞いた。

自国以外の人に自分からアプローチしていくことを全く難しいと思わないし、自然なこと

――バークリー音楽大学では何を専攻されていたんですか?

tea:ソングライティングを専攻していて、主に歌唱と作詞作曲を勉強していました。それまではインドの伝統音楽や西洋音楽も少し勉強しましたが、それ以外は独学です。私が音楽を聞き始めた1990年初期は、まだインターネットが普及していなくて、商船の主任技術者だった父が仕事の都合で世界を廻ることが多くて、そのお土産としていろいろ買ってきてくれたんです。そのおかげで外国の音楽に触れることが出来ました。あと、当時は修道院付属学校に通っていて聖歌隊に在籍していて、MTVもよく観ていましたね。

――お父様が持って帰ってきた音楽の中で、特に覚えているものはありますか?

tea:いろんな国に行っていたので、たくさんのCDやカセットを持ってきてくれたんですけど、西洋音楽で覚えているのはボブ・ディラン、ケニー・ロジャース、マドンナとABBAです。日本や韓国、中国から持ってきた音楽は、あまり多くのコレクションではないけれど、繰り返し聞いていたのを覚えています。カセットだとA面とB面がありますよね。何度も何度もループ再生して、言葉は分からないけど曲に合わせて、マネして歌ったことも覚えています。

――バークリーでは音楽作りの基礎を学ばれたかと思うのですが、世界有数の音楽学校の同級生の中には、すでにアーティストとして活躍されている方もいたのではないでしょうか?

tea:もちろん。バークリーは生徒の幅が広くて、私の場合は音楽のベーシックも知らなかったのですが、自国ですでに有名な子もいたし、全額支給の奨学金を受けて学校に通うくらい進んだ子もいました。

――インドからバークリーへ進学する方は多いのでしょうか?

tea:私が進学した頃は、そこまで多くなかったです。当時はバークリーの試験がインドでは行われていなかったんですよ。私の場合、マレーシアで受けるか、ロンドンで受けるかの2つしか選択肢がなく、私はマレーシアで受けました。インドで試験が受けられるようになってからは、インドからの学生が増えていますね。と言っても、日本や韓国からの生徒数と比べたら圧倒的に少ないです。


――インドから遠いアメリカのバークリー音楽大学に進むことに周りから反対はされなかったですか?

tea:いいえ、みんな応援してくれました。逆に、音楽の道以外に進む道はないと思わせてくれたんです。私の地元では医者やエンジニアになる人がほとんどで、音楽でプロを目指す人が滅多にいなく、私もインドの大学では社会学を専攻して卒業もしたんですけど、結局音楽のためにバークリーに入学したんですよ。

――世界各地から音楽での成功を目指して生徒が集まってくる最高峰の学校で、どんなことを学んだり、刺激を受けたりしましたか?

tea:バークリーの教員たちやカリキュラムは最高で、世界中で探してもなかなか見つからないと思います。それ以外で素晴らしいところと言えば、ダイバーシティに溢れているところですね。たぶん80くらいの国から生徒が集まっていると思うんですけど、彼らから学ぶことも多いんです。エジプトからの友達からはエジプト音楽を学べますし、ケニア出身の子がいたら、その子からケニア音楽を教えてもらえます。文化や言葉も一緒に。この多様性に溢れているところが本当に素晴らしいですね。

――そういったところでは、ある意味、友達同士のライバル意識とか競争心も強かったのでは?

tea:私は大丈夫でした、すごくデキる生徒だったので(笑)。一番悩んだところは、バークリーでは知り合い同士でコラボレーションするっていう流れや傾向があって、新しい子やすでにグループを組んでいる子たちと一緒に音楽を作るのが少し難しかったことです。グループにとらわれず、もっとオープンに新しい人たちと音楽を作る姿勢をもっていた方がいいんじゃないかなと思うんです。いろいろな国から来ている子たちを見ていて思ったのは、これは一般的な観点なんですが、例えばシンガポールの学生はシンガポール人同士でコミュニティを作って音楽を作るっていうのがあって、私みたいなインド人は、海外に出るとインド人とばかり絡まずに、なるべく他の国の人と一緒にいるように努めることが多いんですよ。日本人も、やっぱり言葉の壁があるからか、日本人同士で固まって行動している人が多かったですね。バークリーに通っている時は、こういう国ごとにアプローチが違うのを知れて、おもしろかったですし、これはバークリーに来るまで気づかなかったことですね。インドってもともと多様な国で、インド内でも様々な言語があるので、インド以外の国でインド人と話すとき、英語で会話することが多いんです。そういったこともあって、自国以外の人に自分からアプローチしていくことを全く難しいと思わないし、自然なことでした。

――そういうインド人の国民性というか、社交性に長けている部分を聞くと、インドから遠く離れた日本で活動するのは、日本人に比べたらメンタル面で言えば、そこまで苦ではないのかもしれませんね。

tea:日本人とインド人の考えは全然違います。ここ日本で音楽活動を行えるという機会に恵まれたことにすごく感謝しています。


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聞いている方々が気分よく聞けるようなプレイをしたい


――ちなみに、お二人はバークリーで出会われたのですか?

時枝弘(以下:時枝):そうです。

――デビュー・アルバム『INTERSTELLAR』に収録された「I Will Bleed」はお二人が共作された曲ですが、これは在学中に作られたのですか?

時枝:卒業した後ですね。

tea:ええ、私がニューヨークで暮らしてた時なので。私達ともう一人、影山優理という作詞家の3人のコラボレーションなんですけど、私はニューヨーク、彼(時枝氏)は日本、彼女(影山氏)はサンフランシスコにいて、彼女からFacebookか何かでコンタクトがあったんです。


――まさにインターナショナルな楽曲ですね。ニュー・アルバム『Unknown Places』は、生粋のジャズ・アルバムでもなく、ポップスなど様々なジャンルの楽曲が詰まっていて、聞いていて興味深かったです。前作は、その1stトラック「INTERSTELLAR」からも分かるように、電子音が多く使われていたのに対し、本作では、そういったアレンジは抑えられていますね。今作の構想はどんな作品を目指して作られたのでしょうか?

tea:特定のサウンドを狙ったというより、歌詞や、それに自然に沿ったサウンドの方向性に乗って作っていった結果、たまたまこういうサウンドになったという感じですね。

――このアルバムは、前作で行われたある程度の活動が終わってから取り組まれ始めたのでしょうか?

tea:(時枝氏に向かって)どうだったっけ(笑)?

時枝:「Dragonflies」は、確かちょっと前に書かれた曲でした。すでにデジタル配信されている「Russian Roulette」、「Unknown Places」、「Summertime」、「Dragonflies」の4曲以外の曲はこのアルバムを作ることが決まってから書きましたね。

――アルバム・タイトルでもある「Unknown Places」は、この作品の要となる重要な曲なのでしょうか?

tea:そうでもないですね。“Unknown Places”をアルバムのタイトルにしたのは、このアルバムの全体的なコンセプトをまとめる言葉だと思ったからです。どの曲のトピックもストーリーも違うけれど、見えないところで繋がっているものがあって、そういったことは「未知なる」どこかから沸いてくるものなので、タイトルにピッタリだと思ったんですよ。


――なるほど。ちなみにこの「Unknown Places」は、どういった経験をもとに書かれたのですか?

tea:今やっていることの必要性、もしくは今そこにいなければいけない理由がないのであれば、今すぐそこから抜け出して、自分や周りの人が行ったことがないような場所に挑戦したほうがいい、と歌っています。これは仕事のことでも周りの環境でも、日常で起こる小さな出来事でも、人間関係、はたまた人生にも言えます。人が死を迎えるのも、ある意味、人生を全うした人が、次の人生への旅立つためだと考えられるのではないでしょうか。

――オリジナル曲に加え、カバー曲も収録されていて、特に「Summertime」はドラムの入り方がカッコよかったです。「Summertime」には<Hush little baby, don't you cry>という母親から息子へ語る歌詞がありますが、オリジナル曲でアルバムのラストを飾る「Superboy」も同じような設定がされていますね。

tea:母親が息子へ語りかける設定はどちらも一緒ですけど、「Summertime」はもっと悲しくて、奴隷の母親が小さな息子に向かって「あなたは貧しくなんかない、奴隷でもないし自由の身なの。お母さんは綺麗な人で、お父さんはハンサムでお金持ち」と実際とは真逆のことを言って慰めている曲です。「Superboy」では、男の子は耳が聞こえない子で、その母親は息子に対して「ブロードウェイで活躍する夢を持っているのは分かっている。でも、用心して。あなたの姿を嘲り笑う人がいるけど絶対に泣いてはダメよ」と現実的なアドバイスを与えていて、現実を否定する「Summertime」とは全く逆の設定なんです。


――「Superboy」を書こうと思ったきっかけは何だったんですか?

tea:所属事務所がSUPERBOY inc.なので、その名前を広めようと思いまして(笑)。これは冗談で、スーパーボーイっていう名前がとてもカッコいいと思って、それに沿ったストーリーを書きたいと思ったんです。スーパーボーイは超人のスーパーマンと繋がっています。スーパーマンはスーパーパワーがあるけれど、スーパーボーイはろう者でスーパーマンとは違ってパワーはないですが、本人はブロードウェイに行くために、遠くまで聞こえるスーパーパワーは必要ないと思っています。そういうところがスーパーボーイの勇敢なところで、スーパーボーイは内なる力と強さの持ち主なんですよ。


――わかりました。ほかにこのアルバムの中で印象的に残ったのが、「I’m Coming Out」でした。他の曲と比べても、違う存在感を放っていて、LGBTQをテーマにしていて、自身を解き放つことに背中を押してくれるような曲に仕上がっています。

tea:「本当は私ゲイなの、だから別れるべきだね」って主人に向けて歌っています(笑)。これもウソで、私には同性愛者の友達がいるのですが、彼らが辛い思いをしていたりするので、そんなのは間違っているって伝えたかったんです。ストレートの人は友達に「私はストレートです」だなんて、カミングアウトしないですよね。この曲はそういった方々に向けたアンセムで、ロックでエネルギッシュなこの曲に合わせて、私も「こんな状況にはウンザリだ!」ってカミングアウトしているんですよ。


――Rhyming Gaijinによるラップもあって、アルバムの中でも異彩を放っていますね。今度のライブにもサポートメンバーとしてRhyming Gaijinのお名前があったので、当日はこの曲が披露されるということですね。

tea:ええ。

――そのライブの構想は大体決まっていますか?

tea:それまでには髪を伸ばそうと思っています(笑)。ライブではこのアルバムの曲を全部歌おうと思っていて、前作の曲を歌うかはまだ分からないけれど、日本語で歌うことは決めています。

――アルバムに参加されているミュージシャンの方々がサポートに入られるので、再現もやりやすいのかなとも思います。

tea:全員が全曲に参加したわけではないので、全く一緒にはならないけれど、違うカラーが見せられそうですね。

――ライブでのパフォーマンスでいつも心がけていることはありますか?

tea:なるべく自然体でいるように努めています。誇示することもせず、できるだけリアルでいるようにしています。観客がどう感じるかは、私のパフォーマンスによりますので、聞いている方々が気分よく聞けるようなプレイをしたいですね。

――「I’m Coming Out」は盛り上がりそうですね。

tea:お客さんの中でカミングアウトしたい人がいたら、カミングアウトしちゃってもいいですよ(笑)。

――(笑)。アルバムとは違う作品ですが、『ダンベル何キロ持てる?』の曲も手掛けられたそうですね。

tea:最終回で流れた「Snow Globe」の作詞と歌唱を担当しました。橋本由香利さんが作られたメロディーに合う言葉を選びました。2セクションしかない曲なのですが、セリーヌ・ディオンの「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」のような壮大な楽曲にしてほしいと要望があって、ストーリーの雰囲気とは反する曲調になっているのはあえてなんです。家にテレビがないので、残念ながらこのアニメを観たことがないのですが、結構人気なアニメなようで嬉しいですね。

――そうだったんですね(笑)。では最後に、アルバムを聞いてくれる方に注目して欲しいポイントをお願いします。

tea:英語の曲と対訳を照らし合わせながら、曲を楽しんでくれればと思います。とっても素敵に訳してくれたそうで、そちらにも注目して欲しいですね。


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