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今のうちに知っておきたい! エド/サム・スミス/チャンス/マーク・ロンソンらを魅了する新進アーティストYEBBA



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 チャンス・ザ・ラッパーやエド・シーラン、マーク・ロンソン、サム・スミスら今の音楽シーンのトップ・アーティスト達がその声に列をなすYEBBA(イエバ)をご存知だろうか? 現在24歳のYEBBAはメジャー・デビュー前ながら、すでに輝かしい経歴を持ち、世界中で注目を集めている。その華やかな経歴とは裏腹に、音楽での成功を掴むきっかけとなったのは、ある辛く悲しい出来事だったが、その悲しみを音楽に変えて発信するYEBBAの歌声に涙する者が続出。世界的アーティストをも唸らせるその歌声は必聴だ。ここでは、彼女のプロフィールやミュージックビデオなどを使ってYEBBAを詳しく紹介。今のうちに彼女を知っておくと音楽通と言えるかも?!

メジャー・デビュー前にしてグラミー受賞アーティスト

 米アーカンソー州ウェスト・メンフィス出身、本名はアビー・スミス(Abbey Smith)のYEBBA。YEBBAは本名のアビーを逆さに呼んだものなのだが、アビーは彼女が21歳の時に自殺した母親の死をきっかけに、亡き母親への愛と尊敬を込めて、このステージネームに変更。母親を亡くしてから約3か月後に書かれたFacebookの投稿に、母親との思い出とステージネーム改名の経緯を明かしている。

“初めて私が自分の名前を書いたのが、両親からもらった2オクターブ(25鍵盤)のキーボードだった。裏側には何でも書いたわ。私のサインがAbbeyではなくYEBBAになっているのを見つけた母は、私には何かが抜けてると思ったのでしょうね。彼女もまるで自分がコメディアンにでもなったかのように、彼女流の呼び方で私をイエバと呼ぶようになったの。
年を取るにつれ、家では「イエバ、鏡を拭いて!」なんて大声で私をどなられることもあって(田舎育ちだから、こういう不愉快なことをしちゃうの)、あきれ顔で退屈な家事をしたわ。
母の大きくてピカピカに磨かれた鏡の前でパジャマ姿のまま座っている6歳の自分を覚えている。歌っていたら、鏡が曇っちゃうくらい近くに寄っていて。それが面白くて、歌っては拭くっていうのを何時間も繰り返してた。鏡に映る自分に驚嘆したり、浴室の壁が反響するのを聞いたり、別の部屋から何度も自分を呼ぶ声がしているのを全く気づかないくらい、この可笑しなトランス状態に飲み込まれてしまっていた自分を覚えている。こんな瞬間が今の今まで、自分に重要な意味を持つだなんて思ってもみなかった。
(これを読んでいる)皆さんの中には、約3か月前に母が自殺したことを知っている方もいるでしょう。私の母とその人生への愛と尊敬を表すものとして、私は自身のアーティスト名をYEBBAにする。私にとって、これはステージネームでもないし、もう一つの人格ということでもない。大きな宣言ということでもないの。これは私自身、そのものなの。”


 母の死後、すぐにブルックリンに居を移したYEBBAは、「My Mind」を発表。実はこの曲の原曲を歌った一週間後に母親を亡くしているため、YEBAAにとってこの曲は母親を思い出さずにはいられない楽曲だ。母親をその失った悲しみを歌に込めたYEBBAのライブ映像は、現在850万回以上の再生回数を記録。自身のウェブサイトでは、この曲のフリーダウンロードもしくは、彼女の母親のように精神病に苦しんでいる人を援助する機関Bring Change to Mindに寄付が出来るようになっている。


 「My Mind」からも分かるように、アデルやエミリー・サンデーを彷彿とさせるような情熱と悲しみを帯びた歌声は、瞬く間に注目を集め、YEBBAは音楽界のビッグネームからも注目を集めることに。YEBBAに最初に目を付けたアーティストの一人がチャンス・ザ・ラッパーだ。2016年12月に放送されたアメリカの人気長寿番組『サタデー・ナイト・ライブ』のクリスマス特番にミュージカルゲストとして登場したチャンス・ザ・ラッパーは、そのライブパフォーマンスのバックコーラスにYEBBAを抜擢。当時のチャンスは、無料で聞けるミックステープ発信のインディー・アーティストながら、【第59回グラミー賞】(2016)で<新人賞>や<最優秀ラップ・アルバム賞>など計7つにノミネートされていて、異端児のメジャー番組出演に世界中から注目が集まっていた。同グラミーで<最優秀ラップ・アルバム賞>を受賞した『Coloring Book』に収録の「Finish Line」と「Same Drugs」を番組内で披露し絶賛を浴びたチャンスは、番組終了後に自身のTwitterで「俺の後ろで、とんでもない歌声で番組の注目をかっさらった女性はYEBBAって言うんだ。」と、YEBBAを紹介したことで、YEBBAの名前もとっさに世界中に広まることになる。


 また、2016年11月に発売されたア・トライブ・コールド・クエストの『We Got It From Here...Thank You 4 Your Service』収録の「Melatonin」には本名アビー・スミスの名前で参加。ATCQの18年ぶりの待望の新作であり、リリース前年の3月にオリジナル・メンバーのファイフ・ドーグが45歳の若さで亡くなり、事実上フルメンバーとしては最後のアルバムということもあって、この作品もかなり話題を呼び、ATCQは1996年発表の『Beats, Rhymes and Rhythms to Life』以来、約20年ぶりに全米アルバム・チャートBillboard 200を制覇している。


 そして、「My Mind」発表から約1年後の2017年10月27日にYEBBAはデビュー曲「Evergreen」を発表すると、Spotifyで1100万回以上の再生を記録。この曲によってYEBBAは世界で最も有名なラジオ・パーソナリティのゼイン・ロウの目に留まり、彼がパーソナリティを務めるApple Musicで展開の人気ラジオサービスBeats 1によって、「Evergreen」のミュージックビデオが撮影された。


 さらにYEBBAは、その年の11月3日にリリースされたサム・スミスの待望のセカンド・アルバム『The Thrill Of It All』に唯一のフィーチャリング・アーティストとして「No Peace」に参加。サムはYEBBAを「彼女の声は心が張り裂けそう。素晴らしい」と評しており、世界でも有数の歌声の持ち主であるサムでさえも唸らせている。



 2016年、2017年の活躍に加え、さらにYEBBAの地位と名を伸し上げたのは、PJモートンとの「How Deep Is Your Love」だろう。日本ではマルーン5のメンバーとして名を挙げているPJモートンだが、シンガーソングライターとしてもその才能とプロデュース業、キーボードプレイは指折りだ。そんな彼の初のスタジオライブ作品『Gumbo Unplugged』は、ザ・パワー・ステーションとして知られるニューヨークの名スタジオのアバター・スタジオで一発録りされ、ビー・ジーズのカバー曲である「How Deep Is Your Love」は、【第61回グラミー賞】(2018)で<最優秀トラディショナル・R&Bパフォーマンス賞>を受賞。PJモートンとYEBBAのソウルフルな歌声と、オーケストラ演奏とゴスペルコーラスの見事な融合が、名曲をさらに力強い楽曲へと昇華させている。受賞スピーチの場で、YEBBAは「この曲を母親に捧げたいと思います」と語っており、彼女の音楽には母親の存在が大きいことを再確認させてくれる。



▲<最優秀トラディショナル・R&Bパフォーマンス賞>受賞スピーチ

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2019年は、さらなる飛躍の年へ

 サム・スミス、チャンス・ザ・ラッパー、ア・トライブ・コールド・クエスト、PJモートンとの共演により、特定のジャンルに偏らない種々様々なファンベースを構築していったYEBBAは、2019年、音楽チャートを席巻するメインストリーム・アーティストとの共演が連続した。エド・シーラン、そしてマーク・ロンソンだ。実際、両アーティストの共演曲でYEBBAを知った人も多いのではないだろうか? 2019年4月に自身初となるドーム公演で合計9万人を動員したことも記憶に新しいエド・シーランのアーティスト・コラボ楽曲で構成されたアルバム『No.6 Collaborations Project』でYEBBAはデュエット「Best Part Of Me」に参加。「My Mind」のビデオを見て泣いたというエドとYEBBAのデュエットは、「Thinking Out Loud」や「Perfect」のようなエドの極上ラブソングのひとつとして、すでに高い人気を誇っている。楽曲ごとに、そのコラボ・アーティストの特徴やサウンドが取り入れられているが、このデュエットはアコースティック・ギターとピアノのみで構成されたアルバムの中でも唯一のアコースティックで、このオーガニックな仕上がりは、歌詞の世界観と両者の歌声が最もリスナーに響くアレンジであることは間違いない。


 そして世界最高峰のヒットメーカー、マーク・ロンソンの最新アルバム『Late Night Feelings』には、マイリー・サイラスやカミラ・カベロ、アリシア・キーズといった超人気アーティストに交じって、YEBBAは「Knock Knock Knock」、「Don't Leave Me Lonely」、「When U Went Away」と異例の3曲にフィーチャーされている。女性シンガーだけをフィーチャーした本アルバムは、ブルーノ・マーズ共演の大ヒット曲「アップタウン・ファンク」とは打って変わって、離婚による傷心をマークなりにエモーショナル豊かに表現した作品で、YEBBAも鼻から抜けるような高音や息使いを使った遊び心溢れる表現で、これまでの“しっとりと静かに聞かせる”イメージとは違う、新境地を開拓している。9月にシングル・カットされたばかりの「Don't Leave Me Lonely」のプロモーションのため、YEBBAはマークとともに米英メディアに多数出演。『ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン』では、司会のジミー含めオーディエンスがそのパフォーマンスにテンションが上がっている様子が映し出されている。


▲『ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン』パフォーマンス映像


 著名アーティストとの共演によって、一気にその名を上げたYEBBAは、『No.6 Collaborations Project』が全米アルバム・チャートBillboard 200で2週連続1位を獲得した後の8月9日にソロ最新曲「Where Do You Go」を発表。陰影のあるサウンドの中にYEBBAの歌声が一筋の光のように感じられるこの曲のプロデュースを、ボン・イヴェールやバンクス、The Japanese House、リゾといったアーティストを手掛ける敏腕プロデューサーのBJ・バートンが担当した。母の死後すぐに書かれたという本曲を聞いたリスナーからは、亡くなった家族や最愛の人を思い出し、そして癒されたというコメントが多数集まっている。その美しいメロディーに涙することはもちろん、彼女の魅力をいち早く気づき、フィーチャーしてきたアーティストたちの目利きの良さを証明した楽曲となっているので、ぜひ一度聴いてもらいたい。


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