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マリア・マルダー 来日記念特集~米国音楽の至宝による名盤5枚

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 フォーク、カントリー、ブルース、ゴスペル、ジャズ、etc。ここまで幅広くジャンルをまたいで活動しているシンガーはなかなかいないのではないだろうか。マリア・マルダーは、そんな稀有なアーティストのひとりだ。ニューヨークのグリニッジ・ビレッジに生まれ育ち、可憐ながら力強い歌声で、50年以上もの間ルーツ・ミュージックを追求し続けてきた。今もなお精力的に活動する米国音楽の至宝が、間もなく来日。ここでは彼女の長いキャリアの中で、聴いておくべき名盤を5枚厳選して紹介しておこう。

『Pottery Pie』ジェフ&マリア・マルダー

(1968年)


 イーヴン・ダズン・ジャグ・バンドやジム・クウェスキン・ジャグ・バンドなどに参加したマリア・ダマト(独身時の本名)は、ギタリストのジェフ・マルダーと出会う。そしてジェフ&マリア・マルダー名義で発表した初のアルバムが本作。ボブ・ディランの「I'll Be Your Baby Tonight」を始め、トラディショナル・スタイルのフォーク・ソングやカントリーなどのカヴァーで構成された本作は、マリアのルーツを知るには最適な一作。すでに清冽な歌声を確かめることができる。なお、ここに収録された「Brazil」は、後年に映画『未来世紀ブラジル』にも使用された。






『Maria Muldaur』マリア・マルダー

(1973年)


 ジェフ・マルダーとの結婚生活は1972年で破局したが、姓をそのままにソロとして活動をスタートしたマリアは、リプリーズ・レコードと契約し、本作を発表。ライ・クーダーとデヴィッド・リンドレーのコンビがサポートしたジミー・ロジャースの「Any Old Time」から始まり、フォークやカントリーの影響が色濃い楽曲が並ぶが、特筆したいのはやはり「Midnight At The Oasis」だ。エイモス・ギャレットのギターが全面にフィーチャーされたグルーヴィーなサウンドと、マリアのソウルフルなヴォーカルのマッチングが見事。ビルボードのHot100では5位にまで上昇するヒットとなり、代表曲としてだけでなくクラブ・シーンでもDJに人気の一曲となった。








『Sweet And Slow』マリア・マルダー

(1984年)


 『Waitress In A Donut Shop』(1974年)や『Sweet Harmony』(1976年)といった名作を連発したマリアは、80年代に入るとゴスペルに傾倒。2枚のゴスペル作品を制作した後に発表したのが本作。ブルースとジャズに特化した作品で、ブルース・サイドにはドクター・ジョン、ジャズ・サイドにはケニー・バロンという2人のピアニストが参加しているのが特徴だ。とくに前半のブルージーな楽曲群は、マリアの真骨頂ともいえる内容で、ホワイト・ブルースの傑作といっていいだろう。彼女の落ち着いたヴォーカルを楽しむには最適の一枚だ。






『Louisiana Love Call』マリア・マルダー

(1992年)


 さらにジャズ色を極めた『Transblucency』(1986年)などをリリースしていたマリアが、90年代に入りルイジアナやニューオーリンズといった米国南部の音楽を追求したのが本作。ブルースの名門レーベル、ブラックトップからリリースされたことでも話題となった。ここでの最大の聴きどころはタイトル曲で、アーロン・ネヴィルとの甘いデュエットを披露してくれる。他にも、J.J.ケイル作のメロウな「Cajun Moon」やファンキーなブルース・ナンバー「So Many Rivers To Cross」など振り幅は大きい。旧知の仲であるエイモス・ギャレットやドクター・ジョンが参加しているのも嬉しい。








『Don't You Feel My Leg: The Naughty Bawdy Blues Of Blue Lu Barker』マリア・マルダー

(2018年)


 マリアのブルースやジャズへの傾倒は更に深くなり、90年代から00年代にかけても多数の力作を発表。チャールズ・ブラウン、ボニー・レイット、タジ・マハール、フィービー・スノウといったコラボレーターも豪華なメンツが多い。そういった充実のキャリアを経て、現時点での最新作が本作。タイトルにあるブルー・ルー・ベイカーとは、1930年代に活躍したニューオーリンズの女性シンガーで、ビリー・ホリデイなどに影響を与えたことでも知られる。デビュー作『Maria Muldaur』でもカヴァーしていたタイトル曲「Don't You Feel My Leg」を始め、ディキシーランド・ジャズやブルースを歌い上げていくが、何よりも枯れすぎず溌剌とした印象が素晴らしい傑作だ。






 マリア・マルダーは、70年代初頭にヒットを飛ばしたとはいえ、その後は流されることなくルーツ・ミュージックを掘り下げながら、親しみやすいアプローチで提示し続けてきたシンガーだ。どの時代の作品も古びることなく、今聴いても新鮮な発見のあるものが多い。来日公演でもきっと、時代を超えて魅了する歌声で私たちを楽しませてくれることだろう。

 

 

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