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『ラビリンス、シーア&ディプロ・プレゼンツ...LSD』発売記念特集~今を象徴するアーティストによるスーパーグループが誕生



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 「顔見せNG」の女性シンガーソングライター=シーア、DJ/音楽プロデューサーのディプロ、イギリスのR&Bシンガー/トラックメイカーのラビリンスによるトリオ=LSDが、5曲のシングルを引っ提げて、遂にデビュー・アルバム『ラビリンス、シーア&ディプロ・プレゼンツ...LSD』を完成させた。

 彼らがタッグを組んだいきさつは、映画『ワンダーウーマン』のサウンドトラックがキッカケで友人になったシーアとラビリンスがディプロに声をかけ、実現したとのこと。シーアのことを“フェバリット・アーティスト”として挙げるディプロは、「エラスティック・ハート」(2014年)のプロデュースでも共演している。

 3人いずれも、センターに相応しい人気と実力を兼ね揃えているだけに、誰か1人にだけフォーカスを当てるというのも、逆に難しい。本作の概要をご紹介する前に、まずはそれぞれのキャリアを振り返り、この3人がいかに2010年代(今)を象徴するアーティストか、ということを知っていただこう。

YouTube再生数10億回超え最多の女性アーティスト シーア

 1975年生まれ、オーストラリア出身。90年代はバンドのボーカルとして活動し、1997年にソロ・アルバム『オンリー・シー』でソロ・デビューした、シーア。しばらくヒットには恵まれなかったが、EDMが盛んになった2000年代後半頃から注目されはじめ、2011年にデヴィッド・ゲッタ名義でリリースした「タイタニウム」が、米ビルボード・ソング・チャート“HOT100”(以下全米)で7位、UKチャート(以下全英)ではNo.1を獲得、知名度を世界基準にした。翌2012年には、ソングライターとして提供したリアーナの「ダイヤモンズ」が、全米・全英の両チャートで1位をマークし、同年にはニーヨの「レット・ミー・ラブ・ユー」も全米6位・全英1位の成功を収める。ソングライターとして参加した楽曲では、ケイティ・ペリーに提供した「チェーン・トゥ・ザ・リズム」(2017年)も全米4位・全英5位の両TOP10入りを果たし、フューチャリング・アーティストとして参加したタイトルでは、フローライダーとのコラボ曲「ワイルド・ワンズ」(2011年)も全米5位・全英4位のヒットに至った。



▲David Guetta - Titanium ft. Sia (Official Video)

 シーア自身がブレイクしたのは、それから2年後の2014年。6枚目のスタジオ・アルバム『1000 フォームズ・オブ・フィアー』からのシングル「シャンデリア」が、全米8位・全英6位の大ヒットとなり、続くディプロとの共作曲「エラスティック・ハート」も全米17位・全英10位を記録した。本作は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”で初のNo.1獲得を果たし、ヨーロッパの主要各国でもTOP10入りした。2016年リリースの7thアルバム『ディス・イズ・アクティング』からは、ショーン・ポールをゲストに招いた「チープ・スリルズ」が、リード・シングルとしては初の全米1位を獲得(全英2位)。アルバムからは、ケンドリック・ラマーとの「ザ・グレイテスト」も、全米18位・全英5位のヒットを記録した。

 独特な世界観を描いたミュージック・ビデオも人気の理由で、YouTube再生回数が10億回を超えたナンバーは、プロデュースした曲含め計5曲。「シャンデリア」に至っては、20億再生という凄まじい記録を達成している。【グラミー賞】には過去9度もノミネートされ、ツイッターのフォロワー数は380万人、インスタグラムは500万人ものファンを獲得している。左右非対称のウィッグに、レディー・ガガも顔負けの斬新なドレスと、その個性的なビジュアルも高く評価されていて、多方面で抜群のセンスを持ち合わせているシーアは、日本でも絶大な人気を誇る洋楽アーティストの1人。2019年7月に開催される【FUJI ROCK FESTIVAL ‘19】には、ヘッドライナーとしての出演が決定した。



▲Sia - Chandelier (Official Music Video)

「最も稼ぐDJランキング」常連 ディプロ

 1978年生まれ、米フィラデルフィア出身。DJ/音楽プロデューサー/ミキサー、ミュージシャンとしても活躍するディプロは、2010年代の音楽シーンを語るにおいて、欠かせない存在の一人。世界的に認知度を高めたのは、4年前の2015年。スクリレックスとのユニット<Jack Ü>名義でリリースした「ホエア・アー・ユー・ナウ feat. ジャスティン・ビーバー」 が、全米8位・全英3位を記録し、同年にはジリオネア&ウォルシー・ファイアーと結成したプロジェクト・チーム<メジャー・レイザー>として、シングル「リーン・オン feat. ムー&DJスネイク」を全米4位・全英2位に送り込む。この曲はCMソングとして起用され、日本他アジア~ヨーロッパ各国でも大ヒットした。翌2016年には、ジャスティン・ビーバーとムーをゲストに迎えた「コールド・ウォーター」が、自己最高位となる全米2位をマーク。全英チャートではトップに立った。



▲Major Lazer & DJ Snake - Lean On (feat. MØ) (Official Music Video)

 プロデュース曲が全米チャートで初TOP10入りしたのは、M.I.A.の「ペーパー・プレーンズ」が4位を獲得した2008年。以降、クリス・ブラウンの「ルック・アット・ミー・ナウ ft. リル・ウェイン & バスタ・ライムス」(2011年)が6位 、アレックス・クレア「トゥー・クロース」(2011年)が7位とヒットを連発する。TOP10入りは逃したが、アッシャーの「クライマックス」(2012年)が17位、前述の「エラスティック・ハート」も同17位、ビヨンセの「ホールド・アップ」(2016年)が13位と、全米TOP20入りしたタイトルは8曲にのぼる。その他、マルーン5、ブルーノ・マーズ、ブリトニー・スピアーズなどトップ・アーティストを多数手掛けている。

 2018年は、マーク・ロンソンとタッグを組んだユニット<シルク・シティ>を結成し、同名義でリリースした「エレクトリシティ withデュア・リパ」が 、2019年開催の【グラミー賞】で<最優秀ダンス・レコーディング賞>を受賞。【グラミー賞】では過去7部門にノミネートされ、うち2冠を制している。「最も稼ぐDJランキング」で世界6位にランクインし、年間30億円を稼ぐといわれているディプロ。インスタグラムのフォロワー数も、音楽プロデューサーとしては異例の520万人を獲得し、その人気を物語っている。



▲Silk City, Dua Lipa - Electricity (Official Video) ft. Diplo, Mark Ronson

ソングライティング・歌唱力・ラップは折り紙付き ラビリンス

 1989年生まれ、英ロンドン出身。シンガーソングライター/音楽プロデューサーとしても活躍するラビリンスは、トラックメイカーとしてキャリアをスタートさせ、主には本国イギリスのアーティストを中心に、ヒット曲を多数手掛けた。2010年にサイモン・コーウェルのレーベル<SyCo>と契約し、デビュー曲「レット・ザ・サンシャイン」をリリース。この曲が全英チャート3位の大ヒットとなり、いきなりブレイク。ロンドン出身のラッパー、タイニー・テンパーと組んだ翌2011年の2ndシングル「アースクエイク」は、それを上回る最高2位を記録した。それらのヒットを受けて、2012年にはソロ・デビューアルバム『エレクトロニック・アース』を発表し、エミリー・サンデーをフューチャーした「ビニース・ユア・ビューティフル」が自身初の全英No,1を獲得。アルバムからは、最高4位をマークした「ラスト・タイム」もヒットし、4曲連続のTOP10入りを果たしている。2017年には、アップルウォッチのCMに起用された「ミスビヘイヴィン」が、日本でも話題となった。



 とはいえ、アーティスト=ラビリンスとしての“日本での知名度”は、お世辞にも高いとはいえない。しかし、彼がソングライターとして参加した楽曲・アーティストに目を通していただければ、シーンにおいていかに重要な存在であるか、お分かりいただけるだろう。日本でも人気のヴァーチャル・バンド=Gorillaz(ゴリラズ)からはじまり、エリー・ゴールディング、カイゴ、エド・シーラン、リアーナ、ノア・サイラス 、ジェシー・J、ラナ・デル・レイ…と、挙げればキリがないほどだ。プロデュースのみならず、ニッキー・ミナージュやザ・ウィークエンドのアルバムには、ボーカル・ゲストとしても参加し、リスナーの記憶に留めている。



▲The Weeknd & Labrinth - Losers - Later... with Jools Holland - BBC Two

 前2者と比べると、SNSフォロワー数やヒット曲の総数は劣るものの、ソングライティングのセンス、リスナーを惹きつける硬軟自由自在な歌唱力~ラップスキル、プレイヤーとしての技術・実力は折り紙付きで、メンバーの懐刀を務めたことは賞賛に値する。本作『LSD』でも、彼のボーカルが軸になっているナンバーは多く、シーアをも圧倒させる存在感をみせつけた。

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LSD“らしさ”を発揮した10曲

 アルバムは、聖歌隊のようなアカペラから、エレクトリックギターうねるミディアム・テンポのイントロ「ウェルカム・トゥ・ザ・ワンダフル・ワールド・オブ」で幕を開ける。そこから、雄叫びのように突き抜けるラビリンスのフックと、カスれ具合を絶妙に強調するシーアのボーカルが混じり合う、おもちゃ箱をひっくり返したような、メルヘン調のエレクトロ・ポップ「エンジェル・イン・ユア・アイズ」へ。オープニングの2曲だけでお腹いっぱいになるほど、どちらも強烈なインパクトだ。3曲目は、本作の目玉ともいえる1stシングル「ジーニアス」。

 「ジーニアス」は、1年前の2018年5月にリリースされた本作からの先行シングルで、サビの「ジ・ジ・ジ・ジ…」が耳にこびりつく、サイケなトリップ・ポップ。「俺は天才だ!」と連呼するラビリンスが、高圧的ではなくむしろキュート。基となっているのは、彼らがお得意とするレゲエ・ビートで、3者に加え、ドイツ出身の音楽プロデューサー=ジュニア・ブレンダーがソングライターとしてクレジットされている。ジュニア・ブレンダーは、メジャー・レイザーの「リーン オン」や「コールド・ウォーター」などのヒットを手掛けた、ヨーロッパのレゲエシーンにおいて最注目されるクリエイターのひとり。この曲に、どこかカリビアンな雰囲気が漂っているのも、彼が制作に参加しているからだろう。同曲は、サッカーゲーム『FIFA 19』でフューチャーされ、注目を集めた。本作には、1月にリリースされたリル・ウェイン参加のリミックス・バージョンも収録されている。



▲LSD - Genius ft. Sia, Diplo, Labrinth

 続く「オーディオ」は、「ジーニアス」の発売1週間後に連続リリースされた、本作からの2ndシングル。シーアの「シャンデリア」っぽい旋律もあり、メジャー・レイザーの「コールド・ウォーター」っぽいサウンド・プロダクションもあり。個々それぞれのタイトルに最も馴染み深い1曲といえる。間もなく再生回数1億回に達するミュージック・ビデオは、中古車(BMW)をディプロが購入し、その中に「LSD」とプリントされたカセットテープを発見=オーディオが流れ始めるという、ニクい(?)演出が話題に。シーアお得意の美少女ダンサー、マディー・ジーグラーが華麗に舞い、後編にはカバー・アートに起用されたサイケデリックなアニメーションも登場する。



▲LSD - Audio (Official Video) ft. Sia, Diplo, Labrinth

  5曲目の「サンダークラウズ」は、2018年8月にリリースされた本作からの3rdシングル。この曲は、『Galaxy Note9』のCMソングとして使われ、日本のiTunesポップ・ソング・チャートでは1位を記録した。ルーツロックレゲエや、60年代ソウルの要素も含んだレトロなナンバーで、レジェンドたちを真似て歌う、ラビリンスのソウルフルなボーカルワークが曲の雰囲気を際立てている。前述のジュニア・ブレンダーも、ソングライターとして参加した。次曲「マウンテンズ」は、その3か月後にリリースされた4thシングル。讃美歌のような美しいメロウから、エレクトロニック・レゲエに転調する、個性的なダンス・トラックが印象的で、ディプロの“らしさ”を見事消化したような曲だ。



▲LSD - Thunderclouds (Official Video) ft. Sia, Diplo, Labrinth

 発売直前にリリースされた「ノー・ニュー・フレンズ」も、ダンスホールとエレクトロが融合した、彼ら“らしい”一曲。「ら・ら・ら…」とリフレインするフックがとにかく耳に残る、アルバム中最もテンションの高いナンバーで、フロアでもドライブにも、楽園のバカンスにも、色々と使いどころがありそうな曲。この流れからみると、シングル曲はアルバムの制作過程で小分けにしてリリースした、という気がしないでもない。



▲LSD - No New Friends (Official Video) ft. Labrinth, Sia, Diplo

 本作を通して初聴となる「ヘヴン・キャン・ウェイト」は、トラップのニュアンスも含んだ、ドリーミーなミディアム・ソング。「シャンデリア」で披露したシーアの熱を帯びた歌唱も健在で、ラップ・パートを担当したラビリンスも、前7曲とは違った持ち味を引き出している。実質上“締め”となるエンディング・ソング「イッツ・タイム」は、電子音を一切用いず、ピアノ1本で仕上げた雄大なバラード曲。ラビリンスの伸びやかでナイーヴなファルセット、感情を奮い立たせるシーアの熱唱。「本気出せばこんな曲もできちゃうんだ」と言わんばかりの、圧倒的スケール感だ。




 国内盤ボーナス・トラックを除いた10曲中、イントロと「ジーニアス」のリミックスを除けば、5曲がシングルというベスト盤のような豪華な内容。サウンドは綿密に作られているが、マニアックになり過ぎず、ほどほどに。重たいテーマの歌詞もなく、作品の統一感を妨げるようなゲストもクレジットされていないので、我々日本人の耳にもすんなり入ってくる、ソフィスティケイトされた作品に仕上がっている。国内盤アルバムは、4月24日発売。本作のリリースを記念して、3人がこれまで携わった楽曲を集めたプレイリストも公開中だ。



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