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マジック!『エクスペクテーションズ』発売記念特集~パーソナルなリリックと幅広いサウンドが響く最新作



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 2014年にリリースされた「ルード★それでも僕は結婚する」の大ヒットにより一躍注目を浴びることとなった4人組のレゲエ・ポップ・バンド=マジック!が、前作からおよそ2年ぶりとなるファン待望の最新作『エクスペクテーションズ』をリリース。スタジオ・アルバムとしては3作目となる今作は一体どんな内容になっているのだろうか?バンドのこれまでのキャリアを振り返りつつ、今作の魅力について、フロントマン=ナズリの最新インタビューの内容と共に紹介していこう。

パーソナルな部分を綴ったリリック(歌詞)こそ重要

 リード・ボーカル/ギター/プロデューサーのナズリ・アトウェ、ギター/キーボード担当のマーク・ペリッザー、ベーシストのベン・スピヴァク、ドラム担当のアレックス・タナスの4人で結成された、カナダ・トロント出身のレゲエ・ポップ・バンド=マジック!(MAGIC!)。レゲエ・バンドの代表格として今なお高い人気を誇るボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズや、スティング率いる英イングランドのロック・バンド=ザ・ポリスなどに影響を受け、レゲエやフュージョン、ロック、エレポップまで、多様なジャンルを巧みに演ずる彼らの音楽は、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど多くの国で愛聴されている。

 2014年2月に1stシングル「ルード」でデビュー。この曲が、米ビルボード・ソング・チャート“HOT100”で6週連続の首位をマークし、カナダ人バンドとしてはニッケルバックの「ハウ・ユー・リマインド・ミー」(2002年)以来、12年ぶりの快挙を達成した。その他、UK(イギリス)チャートでも同1位、オーストラリア(2位)やニュージーランド(2位)、母国カナダ(6位)など、世界各国でTOP10入りし、同年のビルボード年間チャートでは7位にランクインする、レゲエ・ソングとしては異例の大ヒットを記録した。この曲のヒット後、アメリカではリアーナの「ワーク ft. ドレイク」(2016年)や、トゥエンティ・ワン・パイロッツの「ライド」(2016年)、DJキャレドの「アイム・ザ・ワン feat. ジャスティン・ビーバー、クエヴォ、チャンス・ザ・ラッパー & リル・ウェイン」(2017年)など、レゲエを取り入れた楽曲が次々とヒットし、まさに流行の先駆けとなった。



▲MAGIC! - Rude (Official Video)


 「ルード」の大ヒットを受け、同曲が収録されたデビュー・アルバム『ドント・キル・ザ・マジック』も、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”で6位、カナダでは最高5位を記録。本作からは、カナダやオーストラリアでチャートインしたタイトル曲や、プラチナ・ディスクに認定された「レット・ユア・ヘアー・ダウン」などがヒット。日本でもラジオから火が付きブレイク、2014年秋に行われたショーケースライブや、翌2015年の<SUMMER SONIC 2015>も大盛況を収めた。本作は、その他にも80'sロック風の「ステューピッド・ミー」や、泣かせのメロウ「ワン・ウーマン・ワン・マン」、チルアウト・ソング「ハウ・ドゥ・ユー・ウォント・トゥ・ビー・リメンバード」など、レゲエのエッセンスを取り入れた好曲が満載。どうしても「ルード」目当てになってしまいがちだが、他曲もジワジワくる威力をもっている。

 大ブレイク後の2015年は、マルーン5の北米・ヨーロッパ・ツアーのオープニング・アクトを務め、翌2016年3月にシングル「レイ・ユー・ダウン・イージー feat. ショーン・ポール」をリリース。同曲は、米ビルボード・レゲエ・デジタル・ソングチャートで初登場1位を記録し、ジャパン・チャート“HOT100”でもランクインを果たした。7月には、「レイ・ユー・ダウン・イージー 」も 収録された2ndアルバム『プライメリー・カラーズ』を発表。個性的な女性陣が出演するミュージック・ビデオが話題となった2ndシングルの「レッド・ドレス」や、スタンダードなアメリカン・ポップス「ハブ・イット・オール」、ツアー同行でインスパイアされた、マルーン5を彷彿するファンク・チューン「ダンス・モンキー」など、バラエティに豊んだ傑作が揃い、レゲエに慣れ親しんでいないリスナーも十分楽しめる内容に仕上がった。12月には、全国4か所のジャパン・ツアーも実施され、こちらも大きな盛り上がりをみせた。



▲MAGIC! - Lay You Down Easy (Studio Version) ft. Sean Paul


 その『プライメリー・カラーズ』からおよそ2年ぶり、通算3枚目のスタジオ・アルバムとなる新作『エクスペクテーションズ』が遂に完成。タイトルについて、アルバムのオープニングを飾る同名タイトルの「エクスペクテーションズ」の歌詞が「アルバムの中で一番重要だから」と、ナズリは話している。それが曲冒頭の「期待してしまうと信じ込んでしまうことがある / 望んでいるものこそが必要なものだって」というフレーズだ。フックでは「僕には君の心は読めないし、読みたくもない」という何やらネガティブなフレーズが何度も繰り返されるが、“あえて”なのか、このメッセージをまずは聴いて欲しかったとのこと。本作は全てを包み隠さず、オープンにした内容だというアプローチなのかもしれない。サウンドは、全米で再ブレイク中のダンスホールを取り入れているが、旋律がどこか切なさを物語っている。



▲MAGIC! - Expectations (Official Video)


 本作は、彼らの代名詞であるレゲエやダンスホール、ロックにフォークなど、前作以上にバラエティに富んだサウンドの広がりも聴きどころだが、「エクスペクテーションズ」のように、パーソナルな部分を綴ったリリック(歌詞)こそ重要と、ナズリはインタビューで語っている。最も印象に残ったのは、「自分の恋愛関係を癒そうとしているときに、花柄のシャツを着て、髪の毛を下ろしたまま歌っている訳にはいかない」というコメントだ。たしかに、L.Aで撮影された先行シングル「キス・ミー」のミュージック・ビデオでは、シンプルな白Tにグレーのスラックスパンツ、足元は裸足で、長く伸ばしたトレードのロングヘアはお団子にまとめている。バンドメンバーとくつろぎ、部屋の中をレゲエ・サウンドに乗せて軽いステップを踏むナズリは、今までのイケてるお兄さんとはちょっと違う。より素に近いというか、まさに自分をそのままさらけ出しているような感じだ。



▲MAGIC! - Kiss Me (Official Video)


 この「キス・ミー」という曲は、「キスして欲しい。もう一度ありったけの想いを込めて」と、恋人への想いをストレートに綴ったナンバー。「自分自身にフォーカスしないといけない」という思いを込めて制作したそうで、ストレートだからこそ突き刺さる歌詞と、彼らが敬愛するザ・ポリスのホワイト・レゲエを彷彿させるサウンドが大きな反響を呼び、ストリーミング・サービス<Spotify>では多くのプレイリストに登録された。なお、国内盤のボーナス・トラックとして、この「キス・ミー」のアコースティック・バージョンが収録される。

 同曲含め、本作に収録された楽曲は全曲メンバー4人による制作、アダム・メッシンガーのプロデュース。アダム・メッシンガーは、ナズリと「ザ・メッセンジャー」というチームで活動する音楽プロデューサーで、ザ・メッセンジャーとしては、ジャスティン・ビーバーの「ネヴァー・セイ・ネヴァー」(2011年 / 最高8位)、「アズ・ロング・アズ・ユー・ラヴド・ミー」 (2012年 / 6位)、ピットブルの「フィール・ディス・モーメント」 (2012年 / 最高8位 )などの全米TOP10ヒットを手掛けている。その他にも、イギー・アゼリアやクリス・ブラウンなど、トップ・アーテイストの作品に多数携わっているが、両者が手掛けたタイトルで全米1位を獲得したのは、マジック!の「ルード」が初となる。

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ジャンルにこだわらず、より幅広いサウンドで構成された新作

 「キス・ミー」 の前にリリースされた 「ダーツ・イン・ザ・ダーク」のみ、スパ・ダップスがプロデューサーとして参加している。スパ・ダップスは、リアーナやドレイク、ニッキー・ミナージュなど、数多くのトップスターを手掛けてきた、現代を代表する音楽プロデューサーの1人。アルバム制作に煮詰まった際、「何かが足りない」ということでスパ・ダップスに連絡し、コラボレーションが実現したとのこと。基はダンスホールだが、彼らがこれまで発表してきたタイトルとは一味違う、ここ最近のR&B~ヒップホップの要素が加わった意欲作だ。「大海の波みたいな人生を生きていたのに、今では生きているふりをしているみたいだ」と、今の状況が良好ではないことを歌う「モーションズ」はトラップっぽいし、「期待してしまうと信じ込んでしまうことがある」~「僕たちはこう言った、今度ケンカしたら別れようと」と、2人の関係がネガティブな方向に向いている様子を綴った「コア」は、「ダーツ・イン・ザ・ダーク」の続編ともいえるダンスホール。本作では、こういった流行を積極的に取り入れた楽曲にも挑戦している。



▲MAGIC! - Darts In The Dark (Audio)


 一方、ライブで聴いているような感覚のオーガニック・メロウ「モア・オブ・ユー」や、重層のコーラスが印象的なミディアム「ハウ・ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」など、スロウテンポの曲も充実している。「モア・オブ・ユー」は 、2009年から交際しているドイツの女性シンガー・ソングライター=サンディ・モーリングを「泣かせる」ために作られた曲だそうで、「愛する人をいくら知っても足りない」~「君の持っているものなら何でもふたつ欲しい」~「何世紀だって君の隣で過ごせる」と、甘く囁くラブソング。完成時には、制作陣の中に涙した人もいたとか…。ナズリもこの曲を特に気に入っているそうで、自身の監督によるミュージック・ビデオを撮る予定だと公言している。また、この曲の歌唱こそ「本来の自分のスタイルに近い 」と話していた。実は結構、エモーショナルに歌う人なのだと、彼の本質を垣間見た。




 「ハウ・ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」は、「彼女は言った“愛しているのはこんな男じゃない”と。別の男を愛していると言っていた、そしてその男に逢いたいと」というフレーズから始まる、何やら意味深な男女間を描いた曲。どうやらこれは自分自身(達)のことで、ナズリが仕事で忙しくなったため、彼女が一緒に過ごした日々を恋しくなったことについて、歌っているのだという。主張したいのは、「時間のすれ違いはあるけれど、成長している自分をしっかり見つめてほしいという」ということ。この曲を聴いて、彼女は「そんな風に感じていたなんて知らなかった!」と言ってくれたそうだ。周囲の反響が大きかったからか、「今まで書いた曲の中でもお気に入りのひとつ」と話し、こちらもミュージック・ビデオも絶対につくりたいと意気込んでいた。




 「君の言うことは、僕の壊れた孤独なメロディを、完璧なダンスのシンフォニーに変えることができる」と歌う、ピアノの弾き語り「シングス・ユー・セイ」もすばらしい。メロディだけでいえば、本作の中でも1、2位を争う美しさではないだろうか。こういう、誰しもの心に刺さる超スタンダードなバラードも作れてしまうから、マジック!というアーティストは凄い。その他、彼女の存在に感謝を込めた、哀愁漂うルーツロックレゲエ「アプリシエイト・ユー」や、2人の信頼関係について歌った、切ない旋律のスタンダード・レゲエ「ウェン・ザ・トラスト・イズ・ゴーン」、「ほんの少しの愛があれば 僕たちは心の中の虚しさを満たすことができる」と、共に生きることを決意した、メジャー・レイザーをお手本にしたようなレゲエとエレクトロの融合「ア・リトル・ビット・オブ・ラヴ」など、サウンド、リリック共にクオリティの高いタイトルが揃っている。




 本作についてはレゲエ・アルバムではなく、ポップ・アルバムだと話しているナズリ。ジャンルにこだわらず、より幅広いサウンドで構成されたという本作『エクスペクテーションズ』は、「ルード」で定着したマジック!のイメージを払拭するべくアルバムといえるだろう。ちなみに、ナズリはマジック!結成までレゲエをやったことはなかったそう。これは意外だった。多様なジャンルを取り入れた音楽、そして自身のプライベートも赤裸々に明かした歌詞含め、「自己最高傑作」だと断言。こういった音楽が作れるようになったのは、ツアーを通して成長したからだそう。ファンの求めるものを形にし、恋人との関係や子育てについても本作によって良い方向に向いているという、たしかに「最高傑作」に相応しいアルバムだ。

 「日本の印象」について、ナズリは「収録曲を全て知っていて、ライブでは音楽をじっくり聴き入ってくれるファンが多い」と話していた。おそらく、撮影に没頭したり、大声で歌うなどの行為が他の国と比べて少なく、おとなしい印象を受けたからだろう。それはもちろん、良い意味で。『エクスペクテーションズ』は、そういった傾向の我々日本人が納得してくれるような、「聴き入ってもらえるアルバム」なのだという。それぞれの曲に主題・ストーリーがあり、恋愛、私生活など、煌びやかではない面もそのまま表現した本作。英語がすんなり入ってこないリスナーでも、何かグっとくるものは感じるだろう。歌に込められた力とは、そういうものだから。

 ちなみに、現時点で日本人アーティストとのコラボレーションは決まっていないが、キッカケやインスピレーションを感じる企画があれば、ぜひやってみたいとのこと。また、次の来日も具体的な内容は決定していないが、「来年の1月には行きたい」とナズリは話している。新作『エクスペクテーションズ』のリリースを皮切りに、今後、彼らの活躍がよりクローズアップされそうだ。

マジック!「エクスペクテーションズ」

エクスペクテーションズ

2018/09/26 RELEASE
SICP-5844 ¥ 2,420(税込)

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Disc01
  1. 01.エクスペクテーションズ
  2. 02.コア
  3. 03.モア・オブ・ユー
  4. 04.キス・ミー
  5. 05.アプリシエイト・ユー
  6. 06.アイズ・ドント・テル・ライズ (インタールード)
  7. 07.ダーツ・イン・ザ・ダーク
  8. 08.モーションズ
  9. 09.スペース (インタールード)
  10. 10.ハウ・ユー・リメンバー・ミー
  11. 11.シングス・ユー・セイ
  12. 12.ホエン・ザ・トラスト・イズ・ゴーン
  13. 13.ア・リトル・ビット・オブ・ラヴ
  14. 14.キス・ミー (アコースティック) (ボーナス・トラック)

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