新6人編成での新アルバム『コンクリート・アンド・ゴールド』

　フー・ファイターズが9枚目の新作『コンクリート・アンド・ゴールド』発売に際し、長らくツアー要員だったラミ・ジャフィ(key)を正式メンバーとして招き、大所帯6人編成となった。現在はデイヴ・グロール(vo,g)、クリス・シフレット(g)、パット・スメア(g)、ネイト・メンデル(b)、テイラー・ホーキンス(ds)、そしてラミという顔ぶれだ。最新の電話取材で、デイヴはゆっくりと、しかし着実に膨れ上がっていく所帯についてこう語った。

　ニルヴァーナが悲劇の最期をとげた後、デイヴはただひとえに音楽を作りたかった、という想いだけで『フー・ファイターズ』を制作したそうだ。本人的にはまさかこの音源が作品になるなんてことも考えず、それを物語るようにたったの5日間でそのほとんどをデイヴひとりで録った。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムと。1曲“X-スタティック”のみアフガン・ウィッグスのグレッグ・デュリがゲスト参加しギターを弾いている。同作はフー・ファイターズのデビュー作ながら実は事実上のデイヴのソロ・アルバムと言っていい性格だった。そして、発売に合わせツアーに出ることになり、フー・ファイターズはバンド化していく。デイヴに、伝説的なエモ・バンド、サニー・デイ・リアル・エステイト等に在籍していたネイトとウィリアム・ゴールドスミス(ds)、そしてニルヴァーナ後期時代に行動をともにした元GERMSのパットなる4人編成での出発だった。

　1996年初頭に実現した初来日公演はこの布陣で行われた。しかし、1年もしないうちにウィリアムが2枚目『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』(1997年)制作中に離脱。当時デイヴへの取材によると、「ウィリアムとはバンド活動に対する考え方の違いや、彼の活動姿勢に問題があった」と語っている。そして、ウィリアムの後を追うようにパットも脱退してしまう。最近の取材で、パットは当時のことをこう振り返っている。

　パットの後任はツアー要員としてフランツ・スタールが呼ばれた。デイヴとはニルヴァーナ前にやっていたSCREAM時代の朋友で、後にオルタナティヴ寄りのヘヴィ・ロック・バンド、WOOLの一員だった。そして、ドラマーは『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』制作中に緊急招集された現任のテイラー・ホーキンス（アラニス・モリセットの元サポート・ドラマー）が迎えられた。テイラーは今年で在籍20年になり、ネイトに続く長さだ。フランツは約2年間行動をともにするがあくまでもツアー要員で、3枚目『ゼア・イズ・ナッシング・レフト・トゥ・ルーズ』(1999年)には不参加。よって同作はデイヴ、ネイト、テイラーの3人で制作されている。

　同作のツアーからクリス・シフレット(g)が同行している。ベテラン・メロディック・パンク・ロック・バンド、フェイス・トゥ・フェイスのスコット・シフレット(b)の5歳下の実弟で、NO USE FOR A NAME、ME FIRST AND THE GIMME GIMMESとしての活動でも有名な名手だ。デイヴは当時、なぜクリスに白羽の矢を立てたのかについて、こう発言している。

　クリスは続く4枚目『ワン・バイ・ワン』(2002年)からフル参加し、フー・ファイターズは現布陣にかなり近づいた顔ぶれになる。

　それから数年経った2005年にパットがまずはツアー要員として“出戻り”し、7枚目『ウェイスティング・ライト』(2011年)から再度フルタイム・メンバーになった。そして今回、冒頭に記したラミの正式参加となり6人編成となったわけだ。

　過去何度もデイヴを取材し、フー・ファイターズの原稿を書いてきたが、これまでのメンバーの変遷ということに視点に置いて執筆したのは今回が初めてだ。そこで、ひとつ大きなことに気づいた。言うまでもなく、フー・ファイターズの“総帥”はデイヴだ。すべてにおいて主導・先導する立場にあると同時に、とてつもなく大きな責任も負っている。そのデイヴがメンバーの後任を選ぶ際に心がけているのはプレイ面の充実度はもちろん、ほかのメンバーとうまくやっていけるかという人間性と、それまで現場でどういうロック経験をしてきたか、だと思う。先日のサマソニでの彼らのパフォーマンスは粗削りだったかもしれないが、そのぶんとてもリアルで心底彼らのロック・スピリットを味わえた観応え十分なものだった。新作発売を機に、そんな彼らの“ロックっぽさ”はより促進していくことは間違いない。そして、そんなデイヴが信頼を寄せるメンバーが集結した現在の６人編成が、フー･ファイターズ史上最強であることも間違いないのだ。