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上間綾乃『タミノウタ~伝えたい沖縄の唄』インタビュー



 上間綾乃がメジャー・デビューして5周年を迎える。沖縄の歌だけを集めたアルバム『タミノウタ ~伝えたい沖縄の唄』を発表したが、間違いなく彼女のこれまでの集大成であり、代表作であり、ベスト・アルバムでもある。そんな勢いある傑作を携えて、まもなくツアーがスタート。ビルボードライブ大阪公演を間近に控えた彼女に、今の心境を語ってもらった。

ずっとやりたいなって思っていたことが、ひとつひとつ形になっていっている

―去年のアルバム『魂うた』からちょうど1年くらいになりますが、その間は変化がありましたか?

上間綾乃:常に変化はありますよ。変化というよりも進化かな。ずっとやりたいなって思っていたことが、ひとつひとつ形になっていっているという感じで、そのひとつが琉球國民謡協会の師範の免許だったんです。

―以前から、師範の免許は取ろうと思っていたんですか?

上間綾乃:19歳の時にすでに教師の免許は取ったから、もういいかなとも思っていたんですが、今回の『タミノウタ ~伝えたい沖縄の唄』はずっと作りたいと思っていた民謡の作品なので、これまで稽古をしてきたことをひとつの結果に残そうと思ったんです。とても難しかったんですけれど、あらためて歌者としての決意が固まりました。

―地元沖縄で三線教室も始めたんですよね。

上間綾乃:そうなんですよ。以前から子どもたちに教えたいなあって考えていたんです。私も小さい頃から大人に囲まれて習ってきたし、とても有意義だと思うんですよ。自分と同じように、子どもたちにもチャンスをあげたいなって。夢がひとつ叶いました。

―未来ある子どもたちに教える仕事っていいですね。

上間綾乃:大変ですけれどね。「座りなさい!」から始めないといけないですから(笑)。でも、とても楽しいですよ。

―じゃあ今年に入ってからは、相当環境も変わったんじゃないですか?

上間綾乃:プラスになったという方が正しいかもしれない。できることが増えましたね。

―新作『タミノウタ ~伝えたい沖縄の唄』の構想はいつからあったんですか?

上間綾乃:構想自体はずっと前からあったんです。ポップスを歌っていても、いつかは民謡だけのアルバムを作りたいって。ただ、ようやくこの時期にタイミングが来たんだと思います。

―選曲の基準は?

上間綾乃:いろんな民謡を入れたかったんですが、そのなかでも核になったのは「PW無情」と「ひめゆりの唄」。どうしてもこの2曲を1枚のアルバムに収めたかったんです。

―この2曲は非常にメッセージ性が濃い楽曲ですよね。いわゆる平和を願う歌です。

上間綾乃:避けては通れないと思うんですよ。歌い手としてもそうだし、沖縄に生まれ育ったからには絶対に避けられない。どちらもけっこう重い曲なのでいろんな意見があったんですが、そこは押し通しました。

―上間さんの年代だと、もちろん戦争は体験していない。でも、そのことを伝えようとするのはなぜなんでしょうか?

上間綾乃:沖縄に生まれてすごく身近だったからでしょうね。学校では平和学習もあるし、米軍の基地からはいつも戦闘機が飛んでいる。でも、これって当たり前じゃないんだなって。以前、本土の小学生と交流する機会があって、授業中に戦闘機が飛んだんです。そしたらみんなびっくりして、耳を塞いだんですよ。たぶん、それが普通の反応なのに、自分たちは麻痺してしまっているというのはおかしいなって。あと、「ひめゆり学徒隊」による戦争の悲惨さを伝える活動も、高齢のためにやめられてしまったんですけど、そういうニュースが新聞に載った時に「歌わないといけない」って感じたんです。新しい世代には、絶対に戦争を体験させちゃいけないって。だから、平和を願うメッセージは常に歌っていきたいと思っています。

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−−このアルバムのオープニングは、「島唄」のウチナーグチ(沖縄言葉)・ヴァージョン「島唄 南の四季」ですね。この曲を選んだ理由は?

上間綾乃:ただのカヴァーと思われるかもしれないけれど、そういう軽い気持ちではないんです。宮沢和史さんが、THE BOOMを解散し、個人の活動も休止されると聞いた時に、ひとつん時代の終わりを感じて、自分が歌って伝えていかないといけないって思ってしまったんです。あの曲は、当時批判も受けたじゃないですか。でも、貫き通した思いが込められていて、その本物の思いを歌いたいって。生意気にも宮沢さんご本人に伝えたら、とても喜んでくださって、激励の言葉をいただきました。そして、私が歌うんだったら、標準語ではなくて、我如古より子さんが歌ったこのヴァージョンで歌う方がいいと考えて、こちらを選びました。恋の歌になっていて、とても切ないんですよ。

−−続く「月ぬ美しゃ」も切ないメロディの曲ですよね。

上間綾乃:「月ぬ美しゃ」は、八重山民謡なので言葉が難しくて。私は沖縄本島なのでイントネーションなども少し違うので難しかったですね。でも、ピアノの園田涼さんに歌と三線だけの音源を送って情景を伝えたら、すごく素敵なピアノを弾いてくれました。

−−上間さんが詞曲を書いた「夢しじく」も収録されていますね。

上間綾乃:これは恋の歌。夢に出るくらい愛しい気持ちを歌っています。私は成就しない恋の歌を作ることが多いですね。自分がそういうことが多いかどうかはおいといて(笑)、成就しない、言いたいけど言えない、だから歌にする。小さい頃から民謡を歌っていて、そういう美しさを感じてきたからかもしれない。

−−「デンサー節」や「サーサー節」などは、あまり若い人が歌っているイメージが少ないですね。

上間綾乃:たしかに、こういう古い民謡って、それぞれその曲を得意とされている先輩方がいらっしゃるんですよ。でも、どんどん歌っていかないと、歌われなくなってしまって寂しいじゃないですか。先輩が歌っているから歌いにくいなあっていう曲もいっぱいあるんですけど、歌っていかなきゃ、と思っています。“タミノウタ”というタイトルにはそういう思いも込められているんです。民謡って“タミノウタ=みんなのうた”なんです。保存する音楽ではなくて、みんなで歌っていかないといけない。だから、今回の選曲は全部そういうつもりで選んでいます。

−−じゃあ、新録以外に過去のアルバムからの楽曲もありますが、その基準も“タミノウタ”の元に選んだんですね。

上間綾乃:そうですね。「悲しくてやりきれない」や「さとうきび畑」もそういう思いで選んでいます。あと、アレンジもとにかくシンプルで、歌を大事にしたいと思って。

−−上間さんはこれまでのアルバムで、ポップスからロックまでを取り入れてきたじゃないですか。

上間綾乃:そういう派手なロックなんかもやってみたかった時期もあったし、その時期がないと今回のようなアルバムは作れなかったと思うんです。

−−この『タミノウタ ~伝えたい沖縄の唄』は、ご自分の中でどういう位置付けだと思いますか?

上間綾乃:まだ通過点です。でも、それまでのアルバムもすべてそうですね。ひとつひとつの作品は必然だし、全部つながっていると思っています。ひとつでも抜けると『タミノウタ ~伝えたい沖縄の唄』はできなかったと思う。

−−必然的にここに行き着いたということですね。

上間綾乃:すごく自然な流れだし、去年だったら作れなかったアルバムですね。

−−メジャー・デビューして5年経ちましたが。

上間綾乃:そうみたいですね(笑)。

−−あまりそういうことは意識しないタイプですか(笑)?

上間綾乃:振り返らないタイプなので(笑)。でも、インディーズではできないいろんな経験をさせてもらったし、遠くまでコンサートをしに行くこともできた。そこはすごく嬉しいし、この5年は宝物ですね。ただ、私は歌い始めたのが7歳なんで芸歴25年だし(笑)、そのうちの5年だから、本当にごく一部でしかない。まだまだですよ。

−−まだまだという感じなんですね。

上間綾乃:まだまだですよ。80歳までは現役だと思っていますから。元気な先輩方を見ているから、早くオバアになりたいです(笑)

−−オバアになる以外で(笑)、この先の目標はなんですか?

上間綾乃:海外に出たいですね、最近は海外のミュージシャンと同じステージに立たせていただく機会が多くて、今年はザ・チーフタンズとも共演を予定しているんです。だから、海外でのステージもトライしていきたいですね。

−−間近にはビルボードライブ大阪公演も控えていますが、今回はどういう内容になりそうですか?

上間綾乃:このアルバムを中心に、ここに収めきれなかった曲も歌う予定です。ほとんどがウチナーグチの曲になるかな。このアルバムはとてもリラックスして作ったので、ライヴも同じようにリラックスした雰囲気でお迎えしたいと思っています。そして、その雰囲気をお客さんと共有したいですね。ビルボードライブは客席がよく見えるし、ラグジュアリーなんだけど身近でもあるし、その良さを感じながら楽しみたいです。



▲ 上間綾乃 5th Album『タミノウタ~伝えたい沖縄の唄』ダイジェスト試聴


上間綾乃「タミノウタ~伝えたい沖縄の唄」

タミノウタ~伝えたい沖縄の唄

2017/06/21 RELEASE
COCP-39983 ¥ 3,080(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.島唄 南の四季
  2. 02.月ぬ美しゃ
  3. 03.童神
  4. 04.悲しくてやりきれない
  5. 05.PW無情
  6. 06.ひめゆりの唄
  7. 07.さとうきび畑 (ウチナーグチver.)
  8. 08.安里屋ユンタ
  9. 09.道端三世相 ~創作舞踊「辻山」より
  10. 10.夢しじく
  11. 11.恋ぬ花
  12. 12.サーサー節
  13. 13.てぃんさぐぬ花
  14. 14.ヒヤミカチ節
  15. 15.デンサー節
  16. 16.えんどうの花

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