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毛皮のマリーズ 『毛皮のマリーズ』インタビュー

毛皮のマリーズ 『毛皮のマリーズ』 インタビュー

まさかのメジャー移籍!? 毛皮ズ、遂に登場!

音源発表の度にシーンへ衝撃を与え、ライブの度にトピックを提供する。かつて、みんなをドキドキさせたあのロマンティシズムとセンセーションを内包する現代のバンドとして、既に絶大な支持を集めている毛皮のマリーズ。バンド名を冠したメジャー1stアルバムのリリースに伴い、初登場となる今回はその首謀者:志磨遼平(vo)を招き、ゆら帝解散からイエモンカバーの真相についてまで。広くお答え頂きました!

素晴らしい音楽を生み出すために早死にはできない

--初インタビューの第一声で何ですが、先ほどゆらゆら帝国が解散を発表したんですよ……。

志磨遼平:え、え、え、え、えぇ!? 何で?

--“『空洞です』の先にあるものを見つけられなかった”というのが理由だそうです。

志磨遼平:(PCで確認しつつ)……もう凄いとしか言いようがないですね、シンボリックな方々でしたから。良い音楽を作って演奏することだけを慎重にやっている孤高のバンドだったと思うので、バンドマンのひとつの理想だったんですよね、ゆらゆら帝国って。音は良いし演奏も良いし、ライブも凄い。で、絶対にブレない。

--先日、浅川マキさんが逝去された時にブログを書かれていましたが、どちらも人生全てが音楽になっているようなイメージがあります。

志磨遼平:名古屋の公演先のホテルの浴室で、ひとりで亡くなられていたというのは、浅川さんの音楽そのものみたいですよね、歌の中みたいな。ゆらゆら帝国も、音楽性の不一致とかではなく、3人でできる一番素晴らしい音楽が作れたので任務完了。メンバー間の何々みたいなくだらない理由は、本当は音楽に関係ないんですよね。壮絶な創作、もの凄く良い音楽を作る時は、人間関係はまったく問題にならないというか。

--音楽を制作するというのは、己をギリギリまで削り込んでいく作業でもある訳ですよね?

志磨遼平:前まで我々もそのタイプの音楽を演奏していましたけど ―――これはゆらゆら帝国関係なく、ずっと先まで音楽を続けたいんですね、今の僕は。……ちょっと勘違いされやすいのが、例えばライブ中に凄く過激なパフォーマンスをされる方っていますよね? 命懸けのようなステージをやる。それは命懸けで音楽をやることとは、ちょっと違うんですよね。素晴らしい音楽を生み出すために自分の命を懸けるとすれば、とてもじゃないですけど早死にはできないです。

例えば“狂乱のパフォーマンス”とかって、「今日は骨折るかなアイツ」とか「今度はもっと高いところから飛び降りるかも!?」とか、公開自殺ショーみたいなことになってくると、じゃあ誰がそのレースに勝つのか。そういうレースに加担しかけた時期があるかもしれないですが、僕はイチ抜けたいなと去年思ったんですね。……「刺激が減った」みたいに思われると嫌なんですけど、「昔のライブはもっと死ぬ気でやってたのに……」って言われたのだとすれば、それはたぶん、死にそうなところでしか魅力を伝えられなかった。結局、僕の責任なんです。

--ではメジャー1stアルバム『毛皮のマリーズ』を制作する上でのコンセプトやイメージというのは?

志磨遼平:とりあえずはデビューアルバム然とした作品ですね。で、もうひとつは単純で、春に出るので春っぽい、春に聴きたくなるような作品。僕は季節感みたいのが好きなんですよね、クリスマスソングとかイベントごとが大好きというか(笑)。あと、これはちょっと恩着せがましいですけど、10~20代とか、そういう若い人たちの何かのお役に立てるようなことになればいいな~、くらいの ―――これはオマケみたいなものですけど。

--応援歌的な楽曲は昔からありますが、そこばかりが注目される風潮に対して、懐疑的な気持ちは?

志磨遼平:一連の応援歌に対してどうかと思う気持ちは僕にもあったりするんですけど、「お前に応援されてもどないもなれへん」ってところですよね(笑)。ただ、それはさっきの浅川さんの話じゃないですけど、素晴らしい人間が歌えば素晴らしいに決まってる。間違ったことを歌うハズがないんですよ。
僕のまずの目標は、素晴らしい人間に成長したい。それがずっとあることなんです(苦笑)。応援歌と言われるものの中にも、素晴らしい作品は絶対にある。それは歌っている人の“人となり”が聴き手を鼓舞するというか、まったく良く分からない奴に言われたって、それは“「頑張れよ」なんて言うんじゃないよ 俺はいつでも最高なのさ”ですよね。

--つまり、ご自身がそういう人間になってきたという自負もある?

志磨遼平:今、こうやってお話を聞いて頂いたり、たくさんの人が足を運んでくれたりお金やメッセージをくれる。支持してくれて期待してくれて、尚且つ僕は生活までしてますから、としたらもう僕は模範にならなければいけないんじゃないか。って想うと、そんなことを歌っちゃったりもしますよね。そして、歌ったからにはってことですよね、「歌ったからにはもう分かってるやろうな?」って。

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『SUCK OF LIFE』カバーアレンジの真相

--昨年、THE YELLOW MONKEYのトリビュート盤で『SUCK OF LIFE』をカバー。その記念ライブにも出演されましたが、かつて毛皮のマリーズを初めて聴いた時、メロディにおける歌謡曲の在り方が、彼らに似てると感じたんですよ。

志磨遼平:へーっ! それこそ僕は歌謡曲の原体験が浅川マキさんなんですよ。記憶にないくらい幼い頃から流れていたのが、ザ・ビートルズと浅川マキさん。小さい頃ですから、ムラムラなのかモヤモヤなのかドキドキなのか分からないけど、「この胸のザワつきはなんだろう?」って。そういう音楽を聴きたいっていうのは性癖みたいなもので、あんまり胸を張れる趣味じゃないような気がしてましたね。子供の頃、川原でエロ本を見てしまって、家に帰って思い出す。その「今日、凄いモノを見てしまった。でもまた見たい」っていう感覚とまったく一緒なんですよね、ちょっとやましいというか。……そういえばTHE YELLOW MONKEYのトリビュート盤に対する取材って一切なくて(笑)、言うタイミングを逃した話があるんですけど、今言ってもいいですか?

--是非、お願いします!

志磨遼平:僕が色んな音楽を聴き出した理由 ―――これは色んなところで言ってますけど、まずTHE YELLOW MONKEYに感動した。それを人に伝えると馬鹿にされるんですよね、ヴィジュアル系っぽいとか。「いや、違うねん!」って思うんだけど、中学生だと何が違うのかを説明できなくて、パンクや洋楽を聴いてる人たちから馬鹿にされる。それが悔しくって、“ロック名盤100枚”みたいな本で紹介されているレコードを、片っ端から聴きまくったんです。全部聴き終えてもまだTHE YELLOW MONKEYが一番やったら、「世界で一番のバンドや」って胸を張って言える。僕はTHE YELLOW MONKEYのために、ロックにもの凄く詳しくなろうと思ったんです。

で、『SUCK OF LIFE』はたぶん、ニック・ロウ『クルーエル・トゥ・ビー・カインド』が吉井さんのイメージなんじゃないかなって思ってるんですよ。だからあのカバーでは、吉井さんの頭の中であのメロディが浮かんだ時に鳴っていた音を、僕らが再現する。っていう方法を取ったんですよ。中学生の時に説明できなかった、しょうもないお化粧バンドとの違いっていうは、根を張った伝統的な音楽のルーツがしっかりあるってことなんです。ちゃんとした素養、教養みたいなものを、僕はもの凄く重視するんです。何か嫌な奴みたいですけど(笑)、『SUCK OF LIFE』のカバーでは、その説明をしてるんだな、あのアレンジはそういうことだったんだって、後で気付きました(笑)。

--なるほど。ではアルバムの話に戻りますが、M-01『ボニーとクライドは今夜も夢中』からの3曲は、軽快なテンポとヘヴィすぎないリフの中で、身につまされたりキュンときたりする言葉がある。あえて軽薄に表現すれば“これこそテン世代キッズのアンセムだ!”と(笑)。

志磨遼平:いや~、嬉しいっす(笑)。『ボニーとクライドは今夜も夢中』に限って言うなら、昔から出演していた【TEENAGE KICKS】っていうイベントがあって、ある日突然誘われて行ってみたら楽しかったという。オールナイトのDJイベントなんですけど、みんな自分のために踊ってるっていうんですかね。ウィークエンドに命を懸けてる感じというか、燃え尽きるように遊び尽くすんだ! っていう若さの焦燥感じゃないですけど、「朝が来ないで欲しい」って感じ。それが凄く好きで作った曲なんですけど、その後にイベントが終わるってことを聞いたので、この曲はその子たちのために捧げようと思って。

--が、しかしM-04『悲しい男』からは、それだけに収まらない現実を一気に曝け出していく楽曲が並んでいきます。

志磨遼平:僕がこういうことを生業にして何ができるかっていうと、「どうぞ暴いてみなさいよ」ってことなんですよね。隅々まで見ていいよと。もし僕に大切なものがなかったら、住所とか全然言いますからね。誰か来たい人がいたら来ていいし、“24時間365日 志磨遼平です”って思ってますから。プライベートとかオフィシャルとか、そういう区別が昔からつかないんですよ。
僕は小さい頃から、ケジメがつけられないが故に色んな人を困らせ、傷つけてきて……。で、そういうことも肯定しようとは思わないんです。ロックって便利すぎて、色んな人に悪用されているのが腹立たしいんですよね。何でも免罪符になっちゃうじゃないですか、お酒呑んで暴れて「えー? ロックでしょ?」とか凄いイヤ。自分のダラしなさ、現実見えてなさ、礼儀の知らなさ。そういうのは直したいんです。他人に迷惑をかけない人間になりたくて。

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音楽はただの電気信号、情報、データ

志磨遼平:だから、僕は生まれた時から何ひとつ隠してることはないです。これまたアホなんで、好きな子とか付き合ってる子の名前とか書いたりして、2ちゃんで騒がれたりとか……。周りにいっぱい迷惑をかけてきたんですけど、「何でこんな幸せなことを隠さないかんのか!?」と。僕はとても誇らしかったし、初めて人を好きになったのに……。今はさすがに住所は書かないですし鍵もかけますけど、「電話しよう!」みたいな企画やってたり、2ちゃんの僕らのスレの人から募って討論したりとか。僕、インターネット好きなんですよね。

--インターネットは、先ほど言われたロックを免罪符するタイプの方とは、あまり親和性がない側面もありますよね。

志磨遼平:いや、僕は大丈夫だと思ってます。人間がやっていることなんで、結局。人間の生活ってめちゃくちゃドラマティックじゃないですか。インターネットだからこそのドラマもあるんでしょうし ―――それは「電車男」とかしょうもないのではなくて、インターネットの使い方、感動の仕方はあって、その根源は人間なんですよね。インターネットも映画も芸術でも音楽、ポップスでも、“人間”ってところが感動を呼ぶ。
で、それを持ってしてさっきの話の結論みたいにもなるんですけど、僕は五体全てを使って24時間何かをしていたいんですよね。手が動くから文章だって書くし、歌える時は歌うし、ライブだったら身体全部使いたい。後ろめたくない、何ひとつ言い訳をする必要もない、もの凄くドラマティックな人生。いつ何時出会って見られても、僕という人間がめちゃくちゃ面白くなればいいんですよ、リラックスしている状態でも。最初の“浅川マキさんが歩いているだけで音楽みたい”ってことですよね。

--自分は昔、2年ほどニートだった時期があるんですけど、そういう時って状況を壊してもらいたいわけでも、応援されたいわけでもないんです。ただ、何となく「あ、この感覚、知ってる」って思える言葉が、もの凄く素敵なメロディに乗せて届けられたりした時、グッとくる。『悲しい男』とかM-07『サンデーモーニング』、M-08『それすらできない』を聴いた時、昔の自分に聴かせてやりたかったなって思ったんですよ。

志磨遼平:おー、それは嬉しいですね。僕は敵ではないって言いたいですよね。それこそ10~20代をテーマにって言ってますけど、(その頃は)他の社会を全部シャットアウトしてましたからね、僕は。何もしゃべりたくなかったし、何も聴きたくなかった。そういう奴がやってる音楽だから、敵ではないです。

--では最後に、これから『毛皮のマリーズ』を聴かれる方にメッセージをお願いします。

志磨遼平:調子の良いゴキゲンなレコードが、また世界に1枚増えた。それは僕らロックファンからすると嬉しいことですし、楽しみが増えますよね。で、実はそれ以上でも以下でもないんですよね。「これを聴いて人生が変われば良い」なんて大それたことを今は思わないですし。……1曲のMP3データって何バイトぐらいなんですか?

--モノにもよりますけど、大体1分1Mくらいかと。

志磨遼平:アルバム1枚で60Mくらいですか? それくらいのデータだと思ってもらえれば。音楽っちゅうものはただの電気信号ですし、ただの情報。データ。以上でも以下でもないですよね。何かの予言でもなければ、誰かの人生に影響を与えるかどうかとか、本当は別に……。
ただのチラシみたいなものでも人生が変わったり、誰かから見れば魅力のない人が自分にとっての運命の人かもしれないし。うん。そういうのは全部、大いなる勘違いというか、レコードは何グラムのビニールですし、CDもそうでしょうし。もはや形がなくてもいいです、ホント。
だから別に憂えいてないんですけどね。メディアの無形化とかみんな言ってますけど、元々はそれを形にする方が凄い発明だったわけでしょ? 本当は発した瞬間に消えるものですから、違和感ないんですけどね。その上で何かを察知した人は多少構えて聴くのかもしれないし、僕もそうやって聴いたレコードはあります。聴く前に何かを予感することとかありますよね、「これ、聴くとちょっとマズいかも……」みたいな(笑)。うん、だからちょっと小粋な11曲って程度で全然。

ボニーとクライドは今夜も夢中 / 毛皮のマリーズ

毛皮のマリーズ「毛皮のマリーズ」

毛皮のマリーズ

2010/04/21 RELEASE
COCP-36083 ¥ 2,619(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.ボニーとクライドは今夜も夢中
  2. 02.DIG IT
  3. 03.COWGIRL
  4. 04.悲しい男
  5. 05.BABYDOLL
  6. 06.バンドワゴン
  7. 07.サンデーモーニング
  8. 08.それすらできない
  9. 09.金がなけりゃ
  10. 10.すてきなモリー
  11. 11.晩年

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