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本当のヒット・ソング「Got To Be Real」の歌姫 ~ シェリル・リン来日記念特集

リンダー・ブラザーズ

 偉大なるダンス・クラシック「Got To Be Real」でデビューしたアメリカ人の女性ソウル歌手、シェリル・リン。来たる9月には東阪のビルボードライブにて、約2年ぶりとなる来日公演を行う。
 今回はそんな彼女の魅力を多角的に紹介すべく二つの企画を用意した。一つ目は彼女のキャリア全体を俯瞰するテキスト。特に、各アルバムに起用された名プロデューサー達との関わりを軸に、70年代のデビューから2010年代現在までの彼女のアーティスト性の変遷について振り返る。
 二つ目は、今回の公演にコメントを寄せてくれた、都内近郊のソウル・バー店主達の言葉を掲載。こちらは奇しくも全員が名曲「Got To Be Real」について言及する形となり、一種の「Got To Be Real」論としても楽しんで貰えるはず。すでに彼女の音楽に慣れ親しんでいる読者はもちろん、これから彼女を知る読者にも、その魅力を少しでも感じてもらえたら幸いだ。

 「あなたが見つけたもの/あなたが今感じてること/あなたが知っているもの/本物にしましょう」(Got To Be Real)

デビュー前 『ゴング・ショウ』で一躍時の人に

 最初に強調したいのは、シェリル・リンというアーティストが、常にその圧倒的な歌唱力によってキャリアを切り開いてきたということだ。シェリルは1957年、カリフォルニア州ロサンゼルスに生まれた。本名はリンダ・シェリル・スミス。彼女の母親であるオパル・スミスは教会の音楽教師で、シェリルは幼い頃からそのキリスト教団体の中で聖歌隊の訓練を受けて育った。もちろん音楽が好きで、周囲から才能を認められてもいた彼女だったが、その道でプロになるつもりはなく、大学では言語病理学を学んでいた。


▲参考映像『ゴング・ショウ』※シェリル出演回とは別

 そんな彼女がプロを目指すきっかけになったのは、やはり彼女の歌唱力であった。当時のボーイ・フレンドであったデルバート・ラングストンに押し切られる形で、シェリルは『ゴング・ショウ』というバラエティ番組に出演。この番組は、日本で言えばNHK『のど自慢』と、バラエティ番組の一発芸コーナーが1つになったような素人参加型番組で、シェリルはそこで「You Are So Beautiful」を歌い審査員から満点を獲得した。米国内で放映されたそのパフォーマンスがきっかけとなり、一躍時の人となったシェリルは、レコード会社間の争奪戦の結果、CBSレコードとサインを交わした。(ちなみに収録から放映までは数週間のスパンがあり、その間にシェリルは『The Wiz』の舞台で巡業も経験している。)

勢いと洗練の同居した傑作デビュー・アルバム

 契約後、紆余曲折を経て、シェリルは、ボブ・ディランやジョニー・キャッシュのプロデューサーとしても知られるボブ・ジョンストンをエグゼクティブ・プロデューサーに、さらにマーティとデヴィットのペイチの親子をプロデューサーに迎える体制で、デビュー・アルバムのレコーディングに入った。この出会いにも、やはりシェリルの歌唱力が影響しており、前述の『ゴング・ショウ』でのシェリルのパフォーマンスを観たペイチ親子が、レコード会社側に自らプロデュースを志願したことがきっかけとなっての人選であった。マーティはジャズ畑を中心にアレンジャー/プロデューサーとしてすでにLAで十分なキャリアを誇っており、豊富な経験に基づいてアルバムをより洗練させたものへと仕立てた。一方、デヴィットは当時ボズ・スキャッグスの『シルク・ディグリーズ』にミュージシャンとして参加しプロジェクトを成功させた直後で、23歳の新進気鋭の若手として、主にアルバムのリズム面を仕切っていたようだ。


▲1st AL『シェリル・リン』

 結果的に、できあがった『シェリル・リン』は、デビュー作にして、若々しさと洗練のバランスがとれた決定的な一枚になった。「Got To Be Real」はデビュー・シングルながら全米R&Bチャートで1位を記録、ポップ・チャートでも12位と躍進した。アルバムもその勢いを借りる形でR&Bチャート5位とブレイク。また、内容面でも、マーティ・ペイチの珠玉のストリングス・アレンジが冴え渡る「Daybreak(Storybook Children)」や、序盤で見せる大胆なテンポ・チェンジが瑞々しい2ndシングル「Star Love」など、「Got To Be Real」に負けずとも劣らないずらりと名曲が並ぶ。発売から38年を経た現在の視点で聴いても、そのクオリティは歴然として高く、好みの差はあれど、その勢いも含めてやはり彼女のキャリアの中でも一歩抜きん出た作品に仕上がっている。

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    更なるプロデューサーを迎えより洗練されたアクトへ
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2nd『イン・ラブ』~3rd『イン・ザ・ナイト』
更なるプロデューサーを迎えより洗練されたアクトへ


▲2nd AL『イン・ラヴ』

 その後、TOTOの「ジョージー・ポージー」への参加等を経て、79年、シェリルは2ndアルバム『イン・ラブ』をリリースした。同作にはUKのファンクバンド=ヒートウェイブのプロデューサーでもあったバリー・ブルーが参加。アルバム冒頭を飾った「I've Got Faith In You」ではボビー・コールドウェルが作曲を担当するなど、前作以上に洗練された内容となった。この頃には、シェリルを『ゴング・ショウ』に送り込んだ張本人でもあったデルバート・ラングストンが、マネージャーからエグゼクティブ・プロデューサーへと昇格。しかし、前作ほどの商業的な成功は得られなかった。


▲3rd AL『イン・ザ・ナイト』

 続く3rdアルバム『イン・ザ・ナイト』では、1stアルバムにもミュージシャンとして参加していたレイ・パーカー・Jr.がプロデュースを担当。当時レイディオとしてブレイクしていたレイ・パーカー・Jr.は、シェリルの音楽に引き続き洗練されたポップさをもたらした。その中でも、歯切れの良いリズムを持つ「Shake It Up Tonight」は、全米R&Bチャートで5位に入るヒットを記録。アレサ・フランクリンと並んでダイアナ・ロスを敬愛するポップ・シンガーとしてのシェリルの魅力を引き出している。

4th『インスタント・ラブ』
ルーサー・ヴァンドロスを迎え洗練を極めた新たなキャリアハイ


▲4th AL『インスタント・ラヴ』

 都会的な洗練を受けたシェリル作品という意味で最高峰と言えるのが、続くルーサー・ヴァンドロスによるプロデュースの4thアルバム『インスタント・ラブ』。当時、長い下積み時代を終え、デビュー・アルバム『ネヴァー・トゥー・マッチ』をリリースし、ブレイクを果たしていたルーサー・ヴァンドロスは、本作の中でマーヴィン・ゲイとタミー・テレルの「If This World Is Mine」をシェリルとのデュエットでカヴァー。すでによく知られた曲という素地はあったとは言え、全米R&Bチャート4位というシェリル史上最大クラスの成功をもたらした(しかも、バラード系の曲調で!)。その他にも「ビリーヴ・イン・ミー」や「デイ・アフター・デイ」を収録した本作は、シェリルの代名詞でもあるディスコやファンク系の曲調をあえて押し出さないという形で、キャリアの一つの到達点を描いている。

5th『プレッピー』以降
リリースは落ち着きつつ新たなブレイクの予感も


▲5th AL『プレッピー』

 1983年の5thアルバム『プレッピー』のリリース時には、いまだブレイク前のジャム&ルイスがシングル「Encore」のプロデュースに参加。ミネアポリス・ファンクをルーツに持つ2人の手掛けた一曲で、シェリルにとっても久々の“ファンク回帰”となった「Encore」だが、それがばっちりハマり、「Got To Be Real」以来、2回目の全米R&Bチャート1位に輝いた。『Preppie』は「Encore」を除く全ての曲についてシェリル自身がプロデュースを手掛け、「Encore」以外にも「This Time」など3曲をシングルカット、アルバム自体もR&Bチャート8位を記録した。

 しかし、その後、改めてジャム&ルイスと組んだ6thアルバム『It's Gonna Be Right』(1985年)はR&Bチャート56位と後退。さらに87年には<マンハッタン・レコード>から7thアルバム『Start Over』を、89年には<ヴァージン>から8thアルバム『Whatever It Takes』を、と移籍を重ねつつリリースしたものの、いずれもチャートアクションは奮わず。90年代をレコード契約の無い形で迎えることとなる。

 90年代には日本の<avex trax>からテリー・ライリーらをプロデューサーに迎えた『Good Time』をリリース。2000年代以降には「Got To Be Real」が【Dance Music Hall of Fame】に殿堂入りするなど、その功績が改めて見直されているが、ジャム&ルイスと共作したアニメ映画『シャーク・テイル』の挿入歌などの例外を除けば新作のリリースは落ち着いている。


▲Janet Jackson「No Sleeep」

 だが、まさにそのジャム&ルイスが先日ジャネット・ジャクソンと共作した「No Sleeep」で再び脚光を浴びたように、シェリルもいつシーンの最前線に戻ってきてもおかしくない。近年、欧米や日本のシーンで“ブラック・ミュージック”の再定義とも言える動きが広がる中、ディスコからAOR、そしてR&Bまで、ゴスペルというルーツを武器に、ジャンルを横断して枝葉を広げてきた彼女の音楽性が、今また新鮮に受け止められそうな気配も漂っている。何より度々の来日公演を通して彼女の歌唱力が衰えていないことを一番よく知っているのが、ここ日本のリスナーでもあるだろう。そんな彼女のステージを、ぜひ今年ビルボードライブで堪能して欲しい。

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  2. Little Soul Cafe/OHIO/Sugar Shack
    ソウルバー店主からのコメント
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当時の黒人ダンスサウンドではちょっとした発明

 シェリル・リンの「Got To Be Real」にみられるリズムパターンと横揺れが感じられる曲調や絶妙なアレンジって、当時の黒人ダンスサウンドではちょっとした発明といえるレベルだったのかなと個人的には思っています。後に数多くの類似曲を輩出し、特に日本人はみなこのこのタイプの曲調が大好き。次世代に渡りダンスクラシックスへの憧れを継承する、ミラーボールとの相性も抜群の歴史的名曲は、TOTOのメンバーをはじめ、デヴィッド・フォスター、レイ・パーカー Jr、ジェームス・ギャドソン、といった名うてのミュージシャンのサポートにより1978年にリリースされたのでした。

--宮前伸夫(みやまえのぶお)

Little Soul Cafe リトルソウルカフェ
東京都世田谷区北沢3-20-2大成ビル2階
URL: http://littlesoulcafe.com/

 

これぞ実力派ヴォーカリスト

 80年代に近づき 更に様々なジャンルの吸収により進化を遂げていくソウルミュージック。そんな時代の中、シェリル・リンは一際眩しい光を放ち登場する…「Got To Be Real」収録の1978年デビュー作だ。幼少期から培ったゴスペルの土台をキープしつつ新しい音への柔軟性、体から繰り出す心地のよい中低音を巧みに操り~握り拳を誘う力強く感情的な面をみせたかと思えば、時に甘く頬杖をつかせる程の落ち着きさをみせる。楽曲に対してのバランスとドラマ性を表現…これぞ実力派ヴォーカリスト。今年もまたシェリルの素晴らしいリアルな歌声に生で触れる機会が訪れた~時は経ちつつも そのスピリットは揺るぎない、熱く~そして優しい歌声を体で感じられる夜…Shake It Up Tonight!

--金谷修一(かなやしゅういち)

soul music bar OHIO
東京都目黒区祐天寺1丁目22?6 中村ビル3F
URL: http://www.geocities.jp/ohio_funkysoul/

 

「Got To Be Real」を最初にかけたDJは幸せ

 1978年に衝撃的なナンバー「Got To Be Real」を最初にかけたDJは幸せだよな~と。歌がはじまる前までの、一度聴いたら忘れられないサビの部分からAORを思わせるピアノリズム。この部分の良さが理解出来ない人って魚を焼く時にひとつまみの塩をかけ忘れたみたいな気がしてなりません。ダンスクラシックスにしてサンプルソースとしても輝く曲ですよね。他にも大好きな「It's Gonna Be Right」、「If You Were Mine」。あげたらきりがないほど充実のアルバム群。96年にアメリカのレストランで彼女を発見。プライベートな時に声をかけたら「本当に良く分かったわね」と返されるという信じられない出会いが彼女とあったんです。迫力のステージ!期待しましょう!

--石川比呂哉(いしかわひろや)

Soul Brothers Bar Sugar Shack
川崎市川崎区砂子 2-11-21 深沢ビル3F
URL: http://sugarshack.jimdo.com/

 

最後にもう一度珠玉のダンスクラシックを!「Got To Be Real」!


シェリル・リン「ザ・ベスト・オブ・シェリル・リン」

ザ・ベスト・オブ・シェリル・リン

2004/03/24 RELEASE
MHCP-182 ¥ 1,870(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.ガット・トゥ・ビー・リアル (シングル・ヴァージョン)
  2. 02.ギヴ・マイ・ラヴ・トゥ・ユー
  3. 03.オール・マイ・ラヴィン
  4. 04.スター・ラヴ (ディスコ・ヴァージョン)
  5. 05.シェイク・イット・アップ・トゥナイト
  6. 06.ジャスト・ホワット・ユー・ニード
  7. 07.フェイス・イン・ユー
  8. 08.キープ・イット・ホット
  9. 09.デイ・アフター・デイ
  10. 10.スリープ・ウォーキン
  11. 11.ビリーヴ・イン・ミー
  12. 12.燃ゆる愛
  13. 13.アンコール (シングル・ヴァージョン)
  14. 14.ゴナ・ビー・ライト
  15. 15.ジョージー・ポージー (ディスコ・ヴァージョン)

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