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2016/10/03

木嶋真優、第1回上海アイザック・スターン国際バイオリンコンクール優勝で得たものとは

―ファイナル・ラウンドの映像をYouTubeで拝見しましたが、とても生き生きとした表情で演奏していらっしゃるのが印象的でした。

 ひとたび舞台に上がったら、いつものコンサートと変わらないスタンスで弾くようにしていました。もともと私は、コンクールのために自分の演奏を変えることはしない、というか出来ないんですね。コンクールでもコンサートと同じく、本番の舞台の上で「あ、こうしてみよう」とひらめいたアイディアは実行しますし、それが上手くいくこともあれば、いかないこともある。リスクを取ってでも、自分のインスピレーションと表現を大切にしています。けれど、もしコンクールで勝ちたいと思ったら、普通そんなリスクは冒しませんよね(笑)。ですから、これまでのコンクールでは評価されないこともありました。今回は、そんな私の、コンサートと変わらない演奏を評価していただけたことを、とても嬉しく思います。

―今回のコンクールは第1回目の開催ですが、他のコンクールとはまた違った視点を持っているのかもしれませんね。

 最初に審査員長のデヴィッド・スターン氏が「ここではコンクールのために弾くことはやめて、コンクールだと思わずに弾いてほしい」とスピーチされたのですが、それを聞いて安心して臨むことができました。第1回目ということで、これまでの傾向を考えたり、前情報に振り回されたりすることもなく、まっさらな状態だったのも、私にとっては良かったです。

―それにしても、木嶋さんほど高く評価され、活躍されている方が、コンクールに挑戦し続けていらっしゃるのは、少し意外な気もします。

 今まで、コンクールの舞台で自分が満足する演奏を出来たことが一度もないんです。コンサートと同じスタンスで弾いてはいても、やっぱり精神状態はまったく違います。誰かと比較されていると感じた瞬間に委縮して、自分の演奏ではなくなってしまう。周りの人からも「無理して受けなくてもいいんじゃない?」と言われたのですが、最後にもう1回だけチャレンジしようと、今回のコンクールを受けました。もしコンクールという舞台で自分の満足する演奏が出来たら、評価や順位ではなく、何かしら結果はついてくるだろうと思って。完全に自分自身へのチャレンジですね。

―今回は、自分が満足する演奏が出来たと。

 いえ、全然! 反省点でいっぱいです。けれど、1ヶ月間ホテルに籠もりっきりで、1日のすべてを自分の音楽に向き合う時間に使えたことは貴重な体験でした。けっこうハードな1ヶ月でしたね。このコンクールは、第1ラウンドから審査員の誰が何点入れたかが全部分かるんですよ。課題もユニークで、室内楽があったり、中国の作曲家が書いた協奏曲があったり、モーツァルトの協奏曲のカデンツァを自作しなければならなかったり。けれど、いちばん大変だったのはリハーサルの時間がほとんど取れないこと。室内楽もオーケストラとのリハーサルも、1回通したぐらいで終わりですから、すべて本番の舞台の上で音楽を作らなければならないんです。そういう面では、たくさんのコンサートを重ねてきた経験が役立ちましたし、もっともリスクを冒すべきではないコンクールという舞台で、反省点はありながらも思いっきり自分の演奏が出来たことで、もう怖いものがなくなりました(笑)。

―ファイナルでショーソンの「詩曲」とショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を選択した理由は?

 ショーソンは小さい頃に(ザハール・)ブロン先生に教えていただいて以来、10年以上弾いていませんでした。あまりにもみっちり教えられすぎてイヤになってしまって(笑)。けれど最近、そういった曲をもう一度ゼロから自分で作っていこうと思うようになって、今回選びました。ショスタコーヴィチは(ムスティスラフ・)ロストロポーヴィチ氏との思い出の曲。私のロンドン・デビューのときも、氏の生前最後のコンサートとなった新日フィルの定期演奏会のときも、この曲を一緒に演奏させていただきました。

―昨年秋にケルン音楽大学の大学院を卒業され、現在はパリにも拠点を置いていらっしゃるとか。

 今はパリと日本がメインですね。私は13歳で日本を離れ、ずっとドイツで勉強してきましたが、数年前に文化や言語がまったく違う土地へ移り住みたくなって、パリを選びました。パリでは画家や詩人、ファッション関係など、音楽家以外の友人がたくさん増えて、毎日とても楽しいですし、さまざまなアートに触れて自身の幅も広がりました。けれど、ここ数年はやはり日本が自分にとって軸となる場所なんだと意識するようにもなりました。いつか、日本で自分のプロジェクトを発信することができたら、と考えています。Text by 原 典子(音楽ライター/編集者)

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