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2020/01/18

アマチュアリスナー宣言【世界音楽放浪記vol.80】

2020年1月も、早いもので、ほぼ半分が終わった。皆さんの一年の計は、元旦にあったでしょうか?

ここ何年か、年越しは旅先で迎えてきたが、10年代から20年代への「New Decade Day」は自宅で迎え、近所の皆さんと、町内にある小さな神社に初詣に出かけた。そんな、ゆったりとした時間の中で、私は、音楽に対し少し難しく考えすぎていたのではと思うようになった。きっかけは、湘南の実家に、娘と一緒にドライブに行った時だった。カーステレオにスマホを繋ぎ、娘は自分で作ったプレイリストを流し始めた。私は、そんな娘のことをDJ(Drive Jockey)と呼んでいる。さまざまなアイドルグループの曲がコンピレーションされていた。「私が好きな曲なんだから、どんな曲でも聴いてほしい」。その一言が、音楽に対するモチベーションは「好き」という言葉に集約されることを、改めて気付かせてくれた。

つい先日、高校時代の同級生が、「最近のテレビの音楽番組は懐メロばかりで、いまのヒット曲をどうやってキャッチして良いのか分からない」とSNSに書き込んだ。彼は50代とはいえ、流行をキャッチするアンテナを持ち、アイドルのコンサートにも足を運ぶほど、若いアーティストの動向にも気を配っている。そんな彼でも、いまの音楽の潮流が掴めない。恐らく、自分の知らない音楽に接触する方法すら分からない方も、数多いことだろう。

改めて番組表を眺めてみると、テレビでは「名曲」や「カバー」を歌う音楽番組ばかりだ。嗜好の多様化によって「1人1ジャンル」は益々進行し、音楽番組は視聴率が稼げない。アーティスト・サイドに立てば、テレビサイズ(通常より短い演奏時間)でパフォーマンスをするより、ミュージックビデオやライブを、自らが伝えたい「作品」としてネット経由で世に出したいことだろう。さらに、ドラマやアニメの主題歌やCMなど、音楽番組以外でのタイアップが、バズの起爆剤であるという図式はいまだに変わっていないので、プロモーションとしての露出は「紐付き」になることが少なくない。

思えば、データや現状解析などを重視しすぎて、肝要の「どういうきっかけで未知のアーティストや楽曲を知り、好きになるのか」という、一人一人のモチベーションに対し、十分に心が及ばなかったのかもしれない。ついつい、市場の原理や、チャートの解析など「音楽を取り巻く話」に関心が向き、「音楽そのものの魅力」を見失いそうになっていた。ヒットという現象を作り出しているのは、個々人の「好き」という思いだ。「作り手」と「送り手」は「プロ」の技量が必須だが、「受け手」は「アマチュア」だ。しかしながら、音楽シーンの最前線にいると、私の耳によく入ってくるのは、音楽通の意見ばかり。私は、あまりに「プロ」に囲まれ過ぎていたのだ。

テレビと音楽は、20年代らしい新しい関係性を持つことが出来るはずだ。また、私はいま、ラジオを担当しているが、ラジオはサブスクリプションとの親和性がテレビより高いと感じている。ティーンエイジャーの頃、ただ好きという理由だけで、音楽を聴き、奏で、作っていた。その初心を取り戻すことが、20年代の自分にとって必要だった。アマチュアの心とプロの技をどのように融合し、昇華させるか。楽しみながら、トライアルを繰り返していきたい。

いつも、年の初めは、凛とした気分になる。今年は、いくつか目標も作ったので、これまで以上に、地に足を付けて歩みたいと思っている。Text:原田悦志

原田悦志:NHK放送総局ラジオセンター チーフ・ディレクター、明治大学講師、慶大アートセンター訪問研究員。2018年5月まで日本の音楽を世界に伝える『J-MELO』(NHKワールドJAPAN)のプロデューサーを務めるなど、多数の音楽番組の制作に携わるかたわら、国内外で行われているイベントやフェスを通じ、多種多様な音楽に触れる機会多数。