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2019/11/20

ギター・ポップ・ファン垂涎の初来日! ライトニング・シーズが奏でる爽やかな旋律に癒され、心も身体もリフレッシュする晩秋の宵

 久々にUK特有の感性に裏打ちされたリリカルな旋律ときめ細かく構築されたサウンド、そして冒険心に溢れたパフォーマンスを満喫した。

 とにかく嬉しい初来日! これぞ繊細で大胆な英国のポップ・ミュージック。甘酸っぱく爽やかなメロディに代表されるUKのレガシーを踏襲しながら、モダンにアップデートされた音楽性。親近感溢れるギター・ポップをベースに、バツグンのアレンジと時代の音を果敢に取り入れたサウンドは、プレイヤー/プロデューサーとしてブリット・ポップへの道を切り拓いてきたライトニング・シーズことイアン・ブロウディの面目躍如。洗練されたイギリスのロックを追い続けてきたファンにとっては今宵、まさに“珠玉”のナンバーが目の前で奏でられた。

 ライトニング・シーズは、ビッグ・イン・ジャパンの中心メンバーだったリヴァプール出身のイアン・ブロウディが1989年に立ち上げたソロ・プロジェクト色の強いバンド。デビュー・シングル「ピュア」が、いきなり全英16位のヒットになり、翌90年にリリースされたファースト・アルバム『クラウドクックーランド』で注目を浴びた。92年にドロップしたセカンドの『センス』ではスペシャルズのテリー・ホールとコラボして話題を集め、96年にはもはやフットボール・アンセムになった「スリー・ライオンズ」を発表。全英1位とプラチナ・ディスクを獲得した(98年、2018年にも全英1位に)。その後もUKの薫り高きギター・ポップ・サウントをベースに、90年代末にはハウス・ミュージックやデジタル・ロックも取り入れ、同じようにハウスやライ・ミュージックにアプローチしてきたブロウ・モンキーズのドクター・ロバートに匹敵する革新性を滲ませ、プログレッシヴでハイブリッドなロック/ポップを発信してきた。

 プロデューサーとしてもエコー・アンド・ザ・バニーメンやザ・フォール、ペイル・ファウンテンズやザ・コーラルなどを手掛け、その手腕はお墨付き。今世紀に入り、一時期活動を停止していたものの2006年に再始動。09年の『フォー・ウインズ』を含め、これまで6枚のオリジナル・アルバムを送り出しているが、そのどれもが時代の空気を反映した、異なるコンセプトを匂わせる“カレイドスコープ・ロック”。引き出しの多さもライトニング・シーズの魅力の1つだ。

 照明が落ちると同時にステージ横の階段をメンバーがゆっくりと降りてくる。それぞれが定位置につくと、流れはじめた「マーヴェラス」のイントロを断ち切るように、イアンがエピフォンのギターをかき鳴らす。初日のファースト・ショウながら、初来日とは思えないほどの余裕とリラックス感が顔を覗かせる。それは、きっと自身の音楽スタイルに対する自信の表れ。と同時に、心地好いテンションで楽器を操り、イメージしているサウンドを響かせる“表現者”としての魅力も存分に振り撒いていて。近年はライブ・ギグにも力を入れているというイアンの発言通り、バンドとしての一体感がサウンドをタイトにしている。サングラスの奥にある瞳がどのような表情をしているのかわからないが、観客のリアクションに反応した振る舞いを垣間見せる瞬間も。メンバーが演奏を楽しんでいるのが、ひしひしと伝わってくる。フロアとステージが繋がっていく楽しい気分が、会場に充満していく。人懐こいギター・ポップならではの空気感が理屈抜きに心地好い。

 たとえばキュートなショート・スカートにベレー帽と黒縁メガネの女子とか。フレッド・ペリーのポロシャツやポール・スミスのシャツを着た男子とか。筋金入りと思しきファンが歌詞を口ずさみながら、腕を振り上げ、首を振って、キメのフレイズに敏感に反応する。ツボを突いたリアクションが微笑ましい。

 クレヴァーなイアンらしく、選曲はまんべんなく――初期の楽曲も、今世紀になってからのナンバーも。名刺代わりの1曲が鳴らされたかと思うと、シングルのB面に収録された“マニアック”な歌も披露されて。ポップなUKロックが好きな人なら、誰もが楽しめるセレクトになっているのが嬉しい。

 5人が弾き出す音は、まるでスーラの筆によって描かれた色彩の粒子のよう。輝きの異なる光の粒が混じり合いながら美しいレイヤーを現出させるように、ギターやキーボードから発せられる音粒が重なり合ったり微妙にズレたりしながら、繊細な響きを広げていく。それは決して偶然の産物ではなく、イアンの脳内でイメージされ、緻密にデザインされているサウンド。プロデューサーとしての資質に長けた彼らしい音の鳴らし方に、無条件で身体が反応し、その瑞々しさに聴きながら感心してしまう。それにしても――。

 イアンが書いた楽曲は、2020年を迎えようとしている今も、微塵も色褪せていない。同郷のレジェンド=ビートルズのDNAをきっちり引き継いだ、青い陰影を湛えたメロディが身体に深く染み込んでくる。

 それはワインに喩えれば、ヌーヴォーのフレッシュさと熟成ボルドーのコクを兼ね備えた味わいと言えばいいのか。決してタフな演奏ではないが、時折、サイケデリックな感覚を滲ませながらギターをかき鳴らすイアンとライリーのブロウディ親子。そして軽快にグルーヴするジム・シャーロック(dr)とマーティン・キャンベル(b)のリズム・セクション。両者の絡み具合が、もはや感覚的なレベルで心地好くて……。さらに、ミニマムな鍵盤捌きでポップなリフを奏でる紅一点のアデル・スミス。5人が繰り出すサウンドの絶妙なバランスも“聴きどころ”の1つと言っていい。

 中盤にはちょっとペシミスティックな旋律のナンバーも演奏され、永遠の青春性を湛えた楽曲が、1つずつ確かめるようにして演奏されて。終盤はチャートを席巻したナンバーが目白押しに。透明感溢れる声と柑橘系のメロディをたっぷり聴くことができた。

 イアン・ブロウディ率いるライトニング・シーズのライブは、20日の今日も東京で2ステージ繰り広げられる。“奇跡の初来日”と言っても大げさではない彼らのギグは、UKギター・ポップ・ファンはもちろん、上質なロックを聴きたい人には決して素通りできない内容。初日から歌心満載の演奏を聴かせてくれたのだから、今日はもっと素晴らしいに違いない! 師走の忙しさを乗り切るエネルギーをチャージするためにも、ぜひ、足を運んでみて。


◎公演情報
【ライトニング・シーズ】
<ビルボードライブ東京>
2019年11月19日(火)※終了
2019年11月20日(水)
1st ステージ 開場 17:30 開演 18:30
2nd ステージ 開場 20:30 開演 21:30

URL:http://www.billboard-live.com/

Photo:Masanori Naruse
Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。今年も解禁間近のボジョレー・ヌーヴォー。ブルゴーニュ・ボジョレー地区のガメイ種で造られる赤とシャルドネ種で造られる白の新酒は、今年も良質との前評判。近年はオーガニックに注目が集まり、ビオ・ワインも多数産出されるように。なかには酵母、酵素、酸化防止剤(SO2)を一切加えず、人工的な温度管理も行わずに自然酵母での発酵を待ち、果汁をまったくろ過せず瓶詰するこだわりの造り手も。自然の恵みである“農産物”のヌーヴォーを、じっくり確かめたい。解禁日の21日は、もうすぐ!

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