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2019/03/15

『デス・レース・フォー・ラヴ』ジュース・ワールド(Album Review)

 2018年は、ジュース・ワールドにとって転機となった一年だっただろう。それもそのはず、スティングの「Shape Of My Heart」(1993年)をサンプリングしたデビュー曲「Lucid Dreams」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”でいきなり最高2位の大ヒットを記録。同曲が収録されたデビュー・アルバム『Goodbye & Good Riddance』もアルバム・チャート4位まで上昇し、同年10月に発表したフューチャーとのコラボ・ミックステープ『Wrld on Drugs』も、同チャート2位にランクインを果たしたからだ。

 本作『Death Race for Love』は、デビュー・アルバムから1年待たずしてリリースされた、2作目のスタジオ・アルバム。全22曲、70分超えの大ボリュームで、この短期間でよく制作できたな……というのが率直な感想。 ブレイクの余韻をいいことに、とりあえず詰め込んだ感もなくはないが、一曲一曲のクオリティはそう低くもない。

 ゲスト・クレジットは少ないが、プロデュース陣は豪華絢爛。「Lucid Dreams」のイメージを継承した「Maze」には、ヒットメイカーのボーイ・ワンダ(ドレイク、ケンドリック・ラマー等)が、甘々なメロウ・チューン「Fast」には、カミラ・カベロの「ハヴァナ」がヒットして以降、コンビでの活躍も目立つ、アンドリュー・ワットとルイス・ベルの2大プロデューサーが参加。後者には、フランク・デュークスもクレジットされている。ダンスホールっぽいリズムを取り入れた次曲「Hear Me Calling」は、808・マフィア(ミーク・ミル、フューチャー等)が制作・プロデュースを担当した。

 “ア・ア・ア~”が耳にこびりつく「Syphilis」は、昨年ドレイクの「ゴッズ・プラン」でブレイクした、米ミネソタ州の音楽プロデューサー=カルドが手掛けたナンバー。この曲の他にも、「10 Feet」やノーI.Dがプロデュースした「The Bees Knees」など、ラップ・パートがメインのトラックがいくつか収録されている。ジェイ・Zやカニエ・ウェストのプロデュースで一躍注目を集めたヒット・ボーイによる、「Big」や「Out My Way」も、ヒップホップ“寄り”の仕上がり。ジュース・ワールドの強みは、歌モノのみならず、ラップも結構な腕前ということだ。

 クレバーをフィーチャーした「Ring Ring」は、ジャマイカの音楽プロデューサー=Rvssianとの共作。ロック、トラップ、ワールド・ミュージックなど、様々なジャンルをミックスしたようなサウンド・プロダクションが斬新で、本作の中でもひときわ異彩を放っている。ポスト・マローンの手法をソックリ真似た「Won't Let Go」や、米LAのヒップホップ・グループ=ファーサイドの「Runnin'」と、サックス奏者のスタン・ゲッツによる「Saudade Vem Correndo」をネタ使いした「Make Believe」など、前作にはなかったタイプの楽曲が、新作の聴きどころともいえる。「Make Believe」には、ボーイ・ワンダに加え、アリアナ・グランデの「thank u, next」や「7 rings」を手掛けたトミー・ブラウンも制作陣にクレジットされている。

 ヤング・サグとのコラボ・ソング「On God」は、フューチャーやミーゴスなどを手がけてきたDYによるプロデュース曲。【第60回グラミー】ノミネートも話題になったR&Bシンガー=ダニエル・シーザーの「Who Hurt You?」が一部サンプリングされていて、シングル・カットも期待できそうな好曲だ。シングルといえば、本作からの選考シングルとして前月にリリースされた「Robbery」が、R&B/ヒップホップ・チャートで14位まで上昇中。エモ・ラップのおいしいところだけをコンパイルした同曲、「Lucid Dreams」を超える……とまではいかないカモしれないが、今後のチャート・アクションでも目が離せない。

 ダラダラと70分が過ぎていくのかと思ったが、それぞれに明確な違いを示し、新しい試みもあったりと、決して単調ではなかった、ジュース・ワールドの2ndアルバム『Death Race for Love』。ここ最近は、一発当てたら次の人……みたいな、ラッパーの入れ替わりの早さが目立つが、どうか息の長いアーティストとしてしばらくは頑張ってほしいもの。それだけの実力は備わっていると思うんだけどね……。


Text: 本家 一成