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2018/11/15

【K STORM】〈Roc Nation〉が認めたヒップホッパー、Jay Park(ジェイ・パーク)の“世界人”目線…日韓音楽コミュニケーター筧真帆が韓国音楽の新鋭を紹介

 K-POPのメインストリームとは少し離れた地点から韓国音楽を更新する才能を、連載形式で紹介している【K STORM】。Zion.Tのスペシャル・インタビューをお届けした前回から少し間が空いたが、今回はヒップホッパー/ダンサーとしても活躍しつつ、人気レーベル〈AOMG〉と〈H1GHR MUSIC〉を設立するなど、ビジネス面でも才覚を発揮するJay Park(ジェイ・パーク)のインタビューを紹介する。

 Jay Parkはジェイ・Zが代表をつとめる〈Roc Nation〉と2017年に契約。韓国系アメリカ人として、そして本人もインタビューで強調するように、〈Roc Nation〉唯一のアジア系アーティストとして、その存在感を日に日に大きなものへと進化させている。国を背負う重みや覚悟、また現在トレンド・ワードとなっている“多様性”を重視しつつ、「韓国人でもアメリカ人でもない」独自の視点から放たれるオープンな言葉の数々に、ぜひ注目して欲しい。(以下、文・取材:筧 真帆)

〈簡単に人気者になれる道じゃなかった〉
 Jay Parkが代表をつとめるAOMGへ少し早めに訪ねると、すでに本人が会議室で待ち構えていた。写真や映像では見ていたものの、白い肌の全身に散りばめられたタトゥーに目を奪われる。日本向けのインタビューは久々だと言い、少し英語訛りの韓国語で、ストレートに本音を語ってくれた。
 Jay Parkはアメリカ・ワシントン生まれの韓国系アメリカ人。シアトルでB-BOYのクルーを組んでいた高校生の頃、母親の勧めでJYPエンタテインメント(後に2PMとしてデビューする事務所。TWICE、GOT7らが所属)のアメリカオーディションを受け合格、18歳で韓国へ渡り練習生となる。2008年にダンスグループ2PMのリーダーとしてデビューしたものの、約1年5カ月後に脱退しソロへと転身。まずはソロへ至るまでの経緯を尋ねた。

――久しぶりの日本メディアへの登場とのことで、音楽をスタートした当時からソロとなった頃のお話を聞かせて下さい。

最初僕はアイドル(グループ)としてスタートした。アイドルのキャリアを一度経験してみたら、僕にはあまり合わないなと感じて、もっと自由なスタイルをやってみたくなって。そのうちライブに呼んでもらったり、様々なミュージシャンと交流するうち、音楽は自らやればやるほど面白く、発展性も感じられるようになったんだ。最初から「僕は音楽のプロになる!」と意気込んでなったというよりも、自然にこうなった感じかな。

――では練習生のころ、「音楽で食べていく」という気負いは無かったと。

それほど無かった。練習生になって、競争しながらデビューするというミッションがあった。ならばデビューしなきゃという思いしか無くて。当初は音楽を作りながらミュージシャンになって一生食べて行こう、なんて思いは無かったけれど、音楽が好きだというシンプルな熱意はあったので、こうして今音楽を楽しめるミュージシャンになれたんだと思う。この熱意が無ければ、途中であきらめていただろうね。

「MOMMAE(モンメ)」Feat.Ugly Duck(2015)
https://youtu.be/gx_mg-1WhWw

※モンメ=体つきやスタイルの意味。現在約2800万再生回数を記録する。刺激的なMVの内容も話題に。

「All I Wanna Do」Feat.Hoody, Loco (2016)
https://youtu.be/kqckfuUnC1U

※人気K-POPチームらの振り付けを多数手掛けるダンス・スタジオ1MILLION DANCE STUDIOとコラボしたMVで、ダンサーとしての実力も注目された作品。

 2010年にグループを脱退してからはシアトルへ戻りソロとして始動。韓国でもソロとして活躍の場を広げるなか、2013年に自身のレーベルAOMG(エーオーエムジー)を設立。2017年には新鋭を含めグローバルなアーティストを集めたH1GHR MUSIC(ハイヤー・ミュージック)を設立。2017年夏に韓国系として初めて、アメリカのレジェンド・ラッパーのジェイZが率いるRoc Nation(ロック・ネーション)と契約に至る。

――アーティストのかたわら、会社を2つも運営するのは大変では。

そりゃ大変だよ(笑)。会社の運営をする上で最も大変なのは人の管理。所属するアーティストもスタッフも、皆考えはバラバラだし速度も違う。それを束ねて同じ方向へ向かっていこう、というのは尋常なことではない。アーティストの場合、僕に憧れて入ってきたメンバーもいるから、信頼感を築き責任を持つことも大変だし、その中で自分のアーティストとしてのキャリアを築くことも大変。会社や周囲の仲間を導きつつ、僕だけの“格好良さ”で輝けるようにしたいね。

――〈Roc Nation〉と契約したのは、去年の夏ですよね?契約のきっかけは。

AOMGのメンバーでアメリカツアーを廻っているときに、僕たちのNYライブを観に来たとある音楽ストリーミングサイトの方が〈Roc Nation〉を紹介してくれたんだ。僕の音楽や作品を見た〈Roc Nation〉側が、一緒にやってみないかと声を掛けてくれて、契約に至った。

――韓国にこだわらず海外にもチャレンジしたことで、得るものが大きかったわけですね。

そう、思えば僕の歩んできた音楽の道は、簡単に人気者になれる道じゃなかったと思う。でも僕を見つけてくれた人みたいに、誰かが僕を見てくれていた。思ってもみなかった人から認めてもらえたことに、ここまでの音楽への熱意は無駄じゃなかったんだなと、すごく嬉しかったね。他人の批評は気にせず忍耐強く続けてきたら、ある瞬間、自分の立ち位置を掴めたんだ。

――〈Roc Nation〉の一員となったことで、意識的に変わったことは?

実はプロとしてのプライドをより強く自覚したのは、〈Roc Nation〉に入ってから。〈Roc Nation〉のヒップホッパーの中で、韓国系としては僕が唯一だ。唯一だからこそ、彼らが僕を見たとき「東洋人や韓国人のヒップホップはこんな感じなんだ」と、僕を基準に判断される可能性が大きい。これは本当にしっかりしないとな、彼らの期待を裏切らないように責任を持たないと…という、これまで抱かなかった責任感やプレッシャーも感じるようになったね。

〈僕自身の存在が曖昧かつ稀有なところへ居るから、僕の立ち位置は僕しかいない〉
 この夏に〈Roc Nation〉からリリースしたEPアルバム『ASK BOUT ME』に収録された楽曲は、2 チェインズをはじめ、リッチ・ザ・キッド、ヴィック・メンサなど実力派ラッパーをフィーチャー。韓国の酒文化を歌詞にした、その名も「SOJU」(焼酎)や、彼ならではの視点で多様性と共存を歌った「Sexy 4 Eva」など、自身の境遇を通して感じることを体現化したような作品が並ぶ。自身が韓国系アメリカ人であることは大きな武器である反面、孤独や葛藤を抱えていることも吐露した。

「Sexy 4 Eva」(2018)
https://youtu.be/ChASd2bPLtc

――素朴な質問ですが、何かを考える時、頭の中では韓国語?英語?

アメリカで生まれて、韓国にきてもう13年経つから半々かな。今のベース()は韓国。

――ならば、アイデンティティはどこの国?

僕は特殊なケースで、アメリカで生まれたけど(今は)韓国をベースに活動していて、韓国で音楽も始めて、その結果、今またアメリカへと渡っている。韓国の人は僕を韓国人としては見ない。でもアメリカは僕をアメリカ人としては見ない。僕自身の存在が曖昧かつ稀有なところへ居る。(韓国から発信して世界で活躍するアーティストとして)BTSでもBLACKPINKでもない(笑)。僕の立ち位置には僕しかいない。だから誰かについて行くことも出来ないし、目標にすることも出来ない。僕が切り拓いた道だから。この道を進むことは、色々悩むし難しい。僕のアイデンティティを言うなら“世界人”。韓国人の血が流れて東洋人の顔をしているから“韓国人”と言うのが自然だけれど、国には捉われないんだ。どこの国であっても、人を上に見たり下に見たりはしないね。みんな“人間”として見ているから。

――〈Roc Nation〉から発表した初の楽曲「焼酎」は2チェインズをフィーチャー。「FSU」はGASHIとリッチ・ザ・キッドを、「YACHT」はヴィック・メンサをフィーチャーと、レーベル内外からアメリカの実力派たちとコラボレーション作品を次々出しています。また歌詞からは韓米を行き来するジェボムさん(Jay Park韓国名)らしい人生観が感じ取れました。

新人として再スタートした気分だよ。〈Roc Nation〉から出すことは、韓国やアジアのヒップホップを、それを知らなかった欧米圏の人々に、僕を通して伝えていかなきゃという使命がある。だから最初の曲は、韓国の大衆文化の一つである焼酎を歌にしたんだ。これまでも“自分らしさ”を見せることに力を注いできたからね。目新しいアーティストたちと新鮮な経験ができていて充実している。今後出す予定のコラボレーションも本当に面白い作品が多いと思うよ。

「SOJU」Feat. 2チェインズ (2018)
https://youtu.be/CFICSD0P1p0

――日本は去年後半から今年にかけ、ブラックミュージックの存在感が増してきましたが、韓国はアジアの中で最も早くその市場を築きました。こうしたブーム前から活躍しているジェボムさんから、韓国のヒップホップはどう見えていますか?

これまで韓国で音楽を通して伝えたいことやメッセージは、ちょっと気を遣わないといけなかった。色んな所にセンサーがあって、放送の管理も厳しくて。でもヒップホップは人目を気にせず自分の言いたいことを伝えられる音楽。その正直さと自由がミックスされている部分が、元々ストレートな性格の韓国人たちにハマったんじゃないかな。でもヒップホップ市場が大きくなったということは、いつか盛り下がるときがくる。このヒップホップ・カルチャーが落ちないよう強靭になるべく、上を目指しながらずっと維持することが僕たちの仕事だ。

――日本には2014年のイベントに参加されて来日していませんが、日本へ興味は?

実は、日本アーティストで僕のレーベルに誘おうかと思う人もいる。何か出来ないかと色々試しているが簡単じゃない。だから早く僕自身がライブをしたり、日本アーティストとコラボしたり、やってみたい。なぜか縁が無かったんだよね、こんなに近いのに。上手く機会を見つけて、僕たちから乗り込んで行ってもいいな、なんて話もしているんだ。遠くないうちに日本で会えるかもしれないね。

――今年はアーティストデビュー10年目ですね。

早いね。長いようで短いようで。10年やっていると途中で飽きることもあるだろうけど、僕は自分の音楽にちっとも飽きないし、支えてくれる人も飽きずに聴いてくれるのはありがたいね。同年代で会社を2つ持ち、アメリカのRoc Nationにも所属できるような音楽家はそういないだろう。周囲はあれこれやる僕を見て、これだけに絞れとか口うるさく言う人はいるけれど、僕は全く気にせずやりたいように動くスタイルだから、結果ここまで来られたんだと思う。この全てを合わせて僕だ。

――自身をひと言で言ったら、どんな人?

(日本語で)「スゴイ人」。「スゴイ人」って、絶対書いておいて!(笑)


取材・文:日韓音楽コミュニケーター 筧 真帆

◎Jay Park(ジェイ・パーク)バイオグラフィー
韓国名パク・ジェボム。1987年生まれ(31歳)、アメリカ・ワシントン出身。2008年にK-POPダンスグループ2PMのリーダーとしてデビューの後、2010年2月に脱退。ソロのヒップホッパー・ダンサーに転身し、2013年に自身のレーベルAOMGを設立、2017年に新鋭も含めた〈H1GHR MUSIC〉を設立。韓国を代表するヒップホッパー兼ビジネスマンとしての存在感を増すなか、2017年アメリカの〈Roc Nation〉と契約を結び、2018年同レーベルからのリリースで全米デビューを果たす。

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