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2018/03/16

唯一無二のサウンドを奏でるイスラエルの5人組:ORPHANED LAND、新作で“ノーベル平和賞”なるか【Review】

中東はパレスチナにあるイスラエルという国では、ユダヤ人、アラブ人などの民族が暮らし、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教など多種の教徒が存在する。宗教的対立が絶えないそんな地から、1994年にアルバム『SAHARA』でデビューしたこのORPHANED LAND(オーファンド・ランド)は、多言語に及ぶ歌詞と浮遊感漂う中近東的メロディーを武器に、その独特の空気感とプログレッシブな音楽スタイルとが絶妙にマッチした唯一無二のサウンドを聴かせる5人組だ。

 シーンにかなりのインパクトを与えた前作『ALL IS ONE』から4年半。ニューアルバム『UNSUNG PROPHETS & DEAD MESSIAHS』では表現の幅を更に広げつつ、メタリックな手法を強めることで整合感をもたらす作品に仕上がっているのだが、彼らの根底に存在する“音楽を通じて訴えたいもの”が、より哲学的観点から描かれているのが本作の特徴となっている。

 ストリングスや女性クワイアを多用した立体的な音像とオリエントな風合いで一貫されたサウンドをバックに、政治・宗教・メディアの堕落を指摘するバンド創設者/シンガー、コビ・ファーヒによる宗教観や哲学を、音楽へと昇華させている点は従来どおりのもの。そこへ本作では、「世界は悪事を働く者ではなく、何もせずに傍観する者によって破壊されるだろう」といったアインシュタインの名言をあげたり、プラトンの思想を“預言”として扱う。悟りを開いてきた過去の偉人たちや、いずれも時期尚早に死を迎えたキリスト、キング牧師、ガンジーなどの“救世主”と呼ばれた人々をトリビュートした、非常に哲学的なコンセプト・アルバムなのだ。

 “人間社会へ警笛を鳴らす作品”と言ってしまえばありがちでチープにも聞こえかねないが、本『UNSUNG PROPHETS & DEAD MESSIAHS』では、イスラエルといった地だからこそ強く抱く思いを、単に怒りで表わすのではなく、これまで指導者とされてきた偉人達を称え、彼らが何を諭してきたのかを紐解いている。政治やメディアに期待できないのなら音楽・文化で人々の考えを改めたいとの意思がベースになっているのだが、そんな彼らに対しては「ORPHANED LANDにノーベル平和賞を」との声も一部で囁かれるそうだ。

 要所要所で“ピー”という自主規制音を(おそらく)意図的にかぶせるといった、ある種“モダン”な手法でリアリズムを感じさせつつ、テクノロジーを表わしたかの歯車を背後に、プロビデンスの目と銃口をこちら=社会へ向けたアートワークも、本作の内容とリンクし考えさせられる。所詮エンターテイメントではあるが、ORPHANED LANDが音楽をやる意味・意思が徹底されているのだ。

 彼らの思いが必然的にスリリングかつ神秘的な音へと反映される。プログレッシブ・ロック/メタル・サウンドの張りつめた空気と悲壮感、そしてそんな中で時折みせる安堵感は、決してキャッチーではないものの、民族に関係なく聴き手の心を揺さぶるに違いない。そして揺さぶられた一人一人の心が塊となって、世界を平和へと導いていく。そんな思いで彼らは音楽を創出しているのだ。平和が訪れた際には、ORPHANED LANDも貢献者の一人として賞を授与されるべきだろう。

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