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2017/05/22

抜群のキレと強烈な音圧で観客を圧倒したタワー・オブ・パワー。男臭いファンク・サウンドの洪水に飲み込まれながら、身も心も解放される初夏の夜

 まさに怒涛の80分。たっぷりうねる図太いリズムに、キレのいいブラスのリフが絡みついていく。そのカラッとしてダンサブルなベイエリア特有のサウンドは、問答無用に聴き手を興奮の坩堝に巻き込んでいく。間髪入れず、ほぼメドレーのように畳み掛けていく楽曲。そして強烈な音圧。演奏が始まると同時に、会場は大型トラックが高速で突っ走る灼熱のハイウェイに一変した――。

 1970年以来、ジャズとファンクとラテンを融合した肉体的なサウンドで、一気にサンフランシスコの人気バンドに上り詰めたタワー・オブ・パワー。タイトな16ビートを叩き出す鉄壁のリズム・セクション。大所帯ならではの分厚い音の壁が、鋼鉄の塊となって観客に襲い掛かってくる。テナー・サックスのエミリオ・カスティーヨとベースのフランシス・“ロッコ”・プレスティアというオリジナル・メンバーを核に、辣腕のプレイヤーたちがサウンドを豪快にグルーヴさせるファンク・バンドは、来年には結成50周年を迎えるというから驚き。もはや「様式美」にまで高められた独自の演奏スタイルは、時代を超えて21世紀の今もオーラを放ち続けている。

 初っ端から惜しげもなく代表曲を立て続けに繰り出してくる。フロントに並ぶ5人のホーン・セクションが観客を煽るようにゴージャスなリフを繰り返す。そんな男気溢れる音の洪水に、フロアは否応なく飲み込まれていく。

 『バンプ・シティ』(72年)や『バック・トゥー・オークランド』(74年)などの名盤を輩出する一方、80年代にはヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニュースのホーン・セクションとしても存在感を発揮し、その実力を多くの人たちに知らしめていった彼ら。2013年には絶頂期の74年に録音されたスタジオ・ライブ『ヒッパー・ザン・ヒップ』がリリースされ、その凄まじい演奏内容が話題になったのも記憶に新しい。今回も10人のメンバーがステージの上で所狭しとばかりに躍動し、会場を激しく揺らしているのだから堪らない。

 フロントに立つメンフィス出身のヴォーカリスト、マーカス・スコットの歌声も素晴らしくソウルフルで、グループの新しい魅力になっているのが嬉しい。時折、アル・グリーンのような顔を覗かせるハイ・トーンのシンギング・スタイルでフロアを練り歩き、女性客を口説きながら、スキャットやシャウトでコール&レスポンスを繰り返していく。そんな彼を後押しするように、ステージの上ではメンバーがフル・スロットルで演奏し、客席には黄色い声が飛び交う。そして、次第に観客とバンドは一体に――。

 ミラーボールが回り始めると、グルーヴィなサウンドが一転し、名バラードの「つらい別れ」が鳴りだす。メロウなエモーションを発するマーカスの歌声によってロマンティックなムードが満ちていき、みんながしっとりとした空気に酔い痴れた。

 終盤にはバリトン・サックスの音も加わり、サザン・ソウル風のテイストも滲ませながら、再びダンス・パーティに突入。「みんな立ち上がって、盛り上がろうぜ!」とマーカスに促されると、フロアは総立ち状態に。JBへのオマージュを込めて演奏された「ホワット・イズ・ディス?」では、サックスのソロ・パートもたっぷり盛り込みながら、メンバー全員が“ソウル・パワー”と連呼し、男臭いファンク・サウンドが炸裂した。

 ストレスが発散され、デトックス効果の高いタワー・オブ・パワーのステージは、東京は今日(22日)と明日、大阪では25日と26日に体験できるチャンスがある。厳しい暑さがやってくる前に、彼らのサウンドに身を任せて、夏を乗り切るエネルギーをチャージしたい。パワフルで肉体的なファンク・ミュージックをぜひ、自分の身体で感じてみて――。


◎タワー・オブ・パワー公演情報
ビルボードライブ東京 2017年5月21日(日)~23日(火)
詳細:https://goo.gl/kvHmiZ
ビルボードライブ大阪 2017年5月25日(木)~26日(木)
詳細:https://goo.gl/i1E57H

Photo:Masanori Naruse

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。今年もこの季節がやってきた! イタリアのワインメーカー=アンティノリが夏限定でリリースする「フィキモリ」(赤)と「カプスーラ・ヴィオラ(白)。6月1日の発売を待ち焦がれているファンも多いのでは。キリッと冷やして、和食にも合う爽やかさと繊細さを兼ね備えた味わいは、蒸し暑い日本の夏にもピッタリ。箱買いしないと売り切れてしまう人気ワインなので、僕も含め、みなさん油断なきよう。もはや、ヒートアイランドの暑さを乗り切る「夏の処方箋」だから、今年もたっぷり堪能して。