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2015/05/05

Album Review:パッション・ピット 更なる飛躍を感じさせる通算3作目『キンドレッド』、温かみに満ちたポップ・サウンドと情緒的なメロディの数々

 マサチューセッツ出身のバンドであるパッション・ピットの、通算3作目となるアルバム『Kindred』が素晴らしい。ハンドメイド感豊かなでダンサブルなシンセ・ポップと、悲しみの心情を鮮やかに浮かび上がらせるストーリーテリングを武器に快進撃を続け、前作『Gossamer』(2012)はBillboard 200で最高4位をマークした。更なる飛躍を感じさせる新作は、人々の記憶深くに触れて感情を呼び覚ます、コンセプチュアルな作風になっている。

 リード・シングルであり、アルバムの冒頭を飾る「Lifted Up (1985)」は、同世代のヒット・メーカー、ベニー・ブランコと共作したナンバーだ。煌びやかに立ち上がる極彩色サウンドとハーモニーは、かつてのパッション・ピットを軽々と凌いでしまうほど刺激的でドリーミー。この曲では、冴えない毎日を送っていた主人公にある日、劇的な出会いが訪れるさまが歌われており、<1985年は素晴らしい年だった><空が割れて、君が天から降りて来たんだ/みんなは夢でも見たんだろって言うけど、嘘じゃないよ>といったふうに、回想として綴られている。

 パッション・ピットを自身のソロ・プロジェクトとして立ち上げたマイケル・アンジェラコスは1987年生まれなので、「Lifted Up (1985)」の物語は、当然マイケル自身の体験談ではありえない。もしかするとこの歌は、彼の両親の世代の、若き日のロマンスになぞらえた一曲なのではないか。アルバム『Kindred』は、タイトルやジャケット・アートワークからも伺えるように、家族の肖像とノスタルジーから感動が立ち上る作品なのである。

 アナログ・ノイズが滲む、温かみに満ちたポップ・サウンドと情緒的なメロディの数々は、嫌が応にもリスナーの記憶にするりと忍び込んで胸の内を掻き毟る。ヒリヒリとして狂おしいラヴ・ソングは、忘れかけていた恋の体験をくっきりと思い出させたりもするだろう。<彼女から美しさを奪わないで>と残酷な時の流れを詩的に歌うさまが美しい「Dancing in the Grave」や、「川の流れのように」ばりに老成し達観した人生観を穏やかに語るような「Looks Like Rain」など、楽曲のヴァラエティも実に豊かだ。

 切実なほどロマンチックな「All I Want」も、一辺倒なダンス性というより、パッション・ピットの優れたソングライティングが伝わるナンバーだ。日本盤ボーナス・トラックに収められた、アコギ弾き語りによる「All I Want」デモ・ヴァージョンでは、楽曲そのものの美しさがクッキリと浮かび上がる。こちらもぜひ確認してみて欲しい。

text:小池宏和

◎リリース情報
『キンドレッド』
2015/04/22 RELEASE
SICP-4423  2,376円(tax in.)

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